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「ええとね、ベリリュンヌさんはね、自分は本当の青い鳥が欲しいって、ちゃんと言ってたよ。みんなが出てくる前かな?
でね、ぼくの青い鳥もきっと夜の庭にいるから、一緒に探してきて、って言ったんだよ。」
チルチルは、ことのなりゆきを思い返しながら、チレットに言った。 「本当の青い鳥が欲しいなら、なんでベリリュンヌが自分で来ねーんだよ。」 「それはね、チレット、ベリリュンヌさんは夜の宮殿に入れないから……」 「………違うな。」 「夜の女王の言う通りだ。ベリリュンヌは、ここに来たければいつでも来られるはずだ。」 夜の女王と光の精の意見が一致しているということは、それが事実に違いない。チルチルはかなりショックを受けた。 「だって、だって、心のキレイな人間でないとだめだって……、それに、ぼくの鳥さんが逃げちゃうかもしれないから、光の精より早く行けって…」 「私とそなたの鳥と、どういう関係があるのかはわからぬが、そなたたちが私より先に来るのは当然であろう。」 光の精の言葉に、チルチルたちは心底驚いた。自分たちは、光の精を出し抜いてここへ来なければならなかったのではなかったのか? 「私は単独でここへ来ることはできぬ。私が夜の宮殿へ入ることができるのは、人間と一緒の場合のみだ。よって、私より早く来させるよう、ベリリュンヌに指示させたのだ。」 「えっ、じゃあ、ぼくたちが来なければ、光の精も来られなかったの? なんか、話が違うような気がする……。」 ミチルも同感である。今度は炎の精が、光の精に向かって尋ねた。 「お待ちください。そういうあなたがここへお出でになられたのは、謎の商人が売っている青い鳥の羽根が、この宮殿の鳥の羽根である、という情報を得られたからなのですね?」 「その通りだ。それが事実ならば、放っておくわけにはゆかぬからな。」 「それをあなたに申し上げたのは、もしやベリリュンヌでは?」 光の精が頷くのを見て、一同は何となく事態が飲み込めてきた。この段取りを付けたのは、どうやらベリリュンヌのようである。しかもチルチル達には、一部嘘をついているらしい。これは、ベリリュンヌが何かたくらんでいると考えて間違いない……。 いつのまにか夜の女王の隣に移動した水の精が、光の精に向かって言った。 「それならば、やはり夜の女王のことは、濡れ衣なのではございませんか?」 「それはまだわからぬ。」 眉間に縦じわがくっきりと刻まれていたが、努めて平静を装った声で、光の精が言った。 「いえ、お言葉ですが、光の精、これはどう考えても、ベリリュンヌの奴が仕組んだことです。あいつならやりかねません。」 炎の精にまでそう言われて、光の精の眉間の縦じわがますます深くなっていく。 「むう……。」 「ふっ、愚かな。お前はベリリュンヌにかつがれたのだ。」 夜の女王の文字通り嫌味な台詞に、光の精がキレるのではないかと思われたその瞬間、 「あ〜あ、バレちゃったんじゃあ、しょうがないねえ。」 前回同様、派手な衣裳に身を包んだベリリュンヌが、突然姿を現した。 「ベリリュンヌ!!そなた、この私をたばかったのか!!」 「おおっと、勘違いしないでよね。私はあんたに嘘はついてないよ。アイツが青い鳥の羽根売ってるのは、ほんとのことだしい〜、それはここの鳥『かもねー』って言っただけだしい〜。」 この時、光の精の肩は小刻みに震えていたが、爆発寸前で自制したのは、やはり持ち前のプライドの高さのせいなのか……、とミチルは感心した。 けれども、怒っていたのは光の精だけではなかった。 「でも、ぼくたちには嘘をついたよね?!」 チルチルがほっぺたをふくらませて言うと、チローとチレットも口々に叫んだ。 「どういうことなんですか、ベリリュンヌさん!」 「てめー、なめた真似すると承知しねーぞ。」 「俺も言わせてもらうぜ、ベリリュンヌ。よりによって、光の精をだましてこんなところまでご足労をかけるとは、どういう了見だ。」 「わたくしも納得いたしかねます。どうして夜の女王のご威光を傷つけるようなことを…。」 炎の精も水の精も、ベリリュンヌに厳しい目を向けている。が、しかし、そんなことで動揺するベリリュンヌではなかった。 「あのね、あんたたち精霊は、チルチルとミチルの手伝いのために呼び出されたんだよ。文句を言える立場じゃないと思うけどね。」 精霊たちに向かってそう言うと、今度はチルチルとミチルの方に向き直った。 「確かに二人には、ちょっと嘘ついたことは認めるけど、でもねえ、ここの夜の庭に青い鳥が集まってくるのは嘘じゃないんだよ。それに、私が青い鳥が欲しいっていうのも本当。そのためには、どうしてもここに、光の精と人間と、両方いてくれないと困るんだ。人間にしかできないことを、これからお願いするつもり。」 「人間にしかできないこと? それって…」 「あのね、夜の女王も光の精も、精霊たちはみんな、人間の頼みには逆らえない。あんたが望めば、夜の女王は夜の庭の扉を開けなくちゃならないんだよ。」 ここまで来れば、チルチルとミチルにも、すべてがわかった。二人がいれば夜の庭の扉が開けられるし、光の精がいれば本当の青い鳥と、もしかしたらチルチルの青い鳥も見つかるかもしれないのだ。 「その前に一つだけ教えて、ベリリュンヌさん。」 チルチルは真剣な目でベリリュンヌを見た。 「本当の青い鳥って何なの? どうしてそんなにそれが欲しいの?」 「そうくると思った。」 ベリリュンヌはにんまりと微笑むと言った。 「本当の青い鳥は夢を運ぶんだよ。だから夜の庭の奥にいるってわけ。でもね、夢を運ぶ鳥なら、私のとこにいるのが一番だと思わない?」 「うーん、そうなのかなあ?」 お兄さまったら、またうまく丸め込まれてる、とミチルは思ったが、その時、何かが心に引っかかった。 「さあ、チルチル、夜の女王に、夜の庭へ続く扉を開けるよう、頼んでごらん♪」 「………ベリリュンヌ、魔女のお前が青い鳥を手に入れて、どんな夢をかなえようというのだ。」 いきなり夜の女王が口を開いたので、一同は驚かされたが、ベリリュンヌは、 「私の夢? それはヒ・ミ・ツ☆」 そう言うとウィンクまでしてみせた。さすがは魔女、ただ者ではない。 「ふっ、いいだろう。チルチルとミチルと言ったな。もしもお前たちが望むなら、自分たちが本当の青い鳥を手に入れることができるのだが………どうする?」 「あっ、夜の女王ったら余計なことを!」 今度はさすがのベリリュンヌも慌てたが、さらに追い討ちをかけるように、光の精も、チルチルとミチルに向かって言った。 「これ以上ベリリュンヌの勝手気侭に付き合うのは我慢がならぬ。お前たちは、ベリリュンヌの望むままに行動するつもりなのか? お前たち自身の望みは何なのか、よく考えてみるがよい。」 「ぼくたちの望み?」 チルチルははっとして、鳥かごをしっかりと胸にかかえた。 「ぼくの望みは一つだけ、ぼくの鳥さんに会うことなんだ! よくわからないけど、本当の青い鳥はまだ人間が手にしちゃいけないって、カシワの精が言ってた。ぼく、あの人の言うこと信じるよ。ベリリュンヌさんの青い鳥のことはどうでもいいけど、ぼくは、ぼくの青い鳥を見つけるためにここへ来たんだから。」 いかにも主人公らしい台詞ではないか、とミチルは思った。しかし、どうでもいいってことはないでしょう。結局お兄さまはどうするつもりなのかしら? 「ぼく、夜の女王にお願いします。夜の庭の扉を開けて、ぼくの鳥さんがいるかどうか見せてください。」 「それがお前の望みなら………」 ゆらりと夜の女王が立ち上がった。 と、その時、突然、ミチルの頭の中でひらめくものがあった。 「待って! だめよ、お兄さま!」 実はこれが、ここに来てから初めてのミチルの台詞だったりする。 「私、思い出したわ、このお話!」 「えっ、どういうこと、ミチル?」 「このお話では、ここで夜の庭の扉を開けても、本当の青い鳥は見つからないのよ。ここの鳥はみんな、昼の光を浴びて死んでしまうの。」 「そんな! そんなかわいそうなことできないよ。」 チルチルはびっくりして言った。 「そうして、最後まで青い鳥は見つからなくて、ラストで家に戻るとそこにいるのよ。」 「ええ〜っ。」 「それだけじゃないの。家に帰ると、ベリリュンヌさんが隣の家のおばさんで、光の精がそこの娘になってるのよ!」 「なに〜っ!」 今度驚いたのは、チルチルだけではなかった。 「なにゆえ、この私がベリリュンヌの娘に…。」 「お気を確かに! おい、ベリリュンヌ、本当にそういう設定なのか?」 「うるさいわね、そこまで知らないわよ! なんで私がオバサンなのさ〜っ。」 「うえー、すげえ親子になるよな。」 「俺もちょっとパスだなあ……。」 「今のお話は本当でしょうか、夜の女王。」 「………あまり見たいものではないな。」 ああ、もう、こうやって一人一言づつしゃべっていくから話がさっぱり進まないのよ!とミチルは心の中で叫んだ。 「お兄さま、信じるか信じないかは自由ですけど、筋書き通りにやったら、そういうラストシーンになっちゃうんですよ。いいんですか?」 「……ミチル、急に強気になったんだね……」 「さあ、お兄さま、宝石をまわして、時空を飛び越えるんです。そうすれば、違うストーリーになるはずです!」 そのミチルの言葉に、また一同は騒然となった。 「違うストーリー? ほんとかよ!」 「ちょっと、冗談じゃないよ、これは『青い鳥』なんだから『青い鳥』らしくやってよ! せっかくここまで段取りつけたのにい〜っ!」 「おっと、お嬢ちゃん、そのアナザーストーリーでは、この炎の精が美しいレディである光の精と、スイートな時間を過ごすシナリオはあるんだろうな?」 「何を訳のわからぬことを言っている!」 「そんな、わたくしは夜の女王と、女同士の楽しいお話しをしたいと思っておりましたのに。」 「………もうどうでもよい………」 「俺、犬じゃなくなるんだったら、別な話でもいいかなあ。」 それぞれ好き勝手なことを言っている精霊たちを無視して、ミチルは叫んだ。 「お兄さま、どうするんですか?!」 「わかったよ、ミチル、ぼくはただ、ぼくの鳥さんに会いたいだけなんだ!」 大きな声でそう言うと、チルチルはペンダントの宝石を素早く左に回した。ただ自分の小鳥に会うことだけを願いながら。 あたりが乳白色のまばゆい光に包まれていった。 ミチルが暖炉の前で、犬のチローと猫のチレットに食事と水をあげていると、兄のチルチルが駆け込んできた。 「たいへんだよ、ミチル! ぼくの鳥さんが!」 「まあ、チルチルお兄さま。どうしたんです?」 どうやら物語は冒頭に戻ってしまったようだ。 「ぼくの鳥さんがいなくなっちゃったんだ、青い鳥さんが!」 チルチルが飼っている小鳥がいなくなったらしい。小鳥を溺愛している兄の取り乱しように、ミチルがため息をつきかけたその時。 「あっ、なーんだ、こんなところにいたんだ、チュピってば」 「えっ?」 「やだなあ、ミチル、何びっくりしてるの。」 しかも物語はリセットされて、違う選択肢に入ってしまったようだ。 今後の展開はまったく読めないってわけね。ミチルがそう思った時、部屋に誰かが入ってきた。 「あー、はじめまして、チルチル、ミチル。えー、私は今度から、あなた方の家庭教師をすることになった者ですがー。」 間延びしたような、それでいてさわやかなような声に二人が振り向くと、そこには、頭にターバンをまいた青年が微笑みながら立っていた。 さあ、次はどんな物語になるのかな。 おしまい
ほんのちょっと修正しただけで、ほとんど直してません。拙いですがそれも愛のメモリー。 表現は稚拙ですが、ストーリーは自分では気に入っています。 |