1
メイはキールにおつかいを頼まれて、大通りを走っていた。
「まいったな〜。アンティークもののお店を見てたら遅くなっちゃった。キールの奴、怒ってるだろうなあー」
メイはあのキールの嫌味ったらしい一言が確実に待っていると覚悟をしながら魔法研究院へと向かっていた。
とその時、ふとよく知っている少年の姿がメイの目に映った。
ガゼルだ。
しかもかなり挙動不審な行動を取っている。
何かから隠れるようにして、じっとある方向を見つめているのだ。
「?」
メイはこっそりガゼルの屈んでいる背中の方に近づく。
じーっとガゼルの視線をたどって行くと、銀髪の落ち着いた40歳前後の女性とその子どもらしきかわいい女の子たちが楽しそうに手をつないで歩いている。
ガゼルは少し切なそうにその親子を見つめている。
寂しそうな子犬のような表情。
(ガゼルー?)
いつも元気なガキ大将の彼らしくない―。
だから、メイはつい声をかけそびれて、じっとガゼルを見ていた。
「―メイ?」
ガゼルはメイが自分の近くに居たことに気がついた。
メイはガゼルの声でハッと我に返る。
「何で…メイ…ここにいるんだよ」
ムスッとしたすねたような声。
「え、通りかかったらガゼルが居るのに気がついたから。」
「ふーん、あっ、そ」
ガゼルは彼らしくないぶっきらぼうな態度でメイを無視して、スタスタ歩いて行ってしまった。
それから幾日かたって、メイはたまたま王宮で会ったレオニスにガゼルとの一部始終を話した。レオニスはメイの話を聞いて、少し考えこんで、口を開いた。
「そうか…。」
「ねえ、隊長さん何でガゼルってばあんなに怒っちゃったの?」
メイの問いかけにレオニスは無言…。
(…。こ、この人に聞いたあたしが間違っていたわ)
「うー。もお、いいです」
メイがたまりかねてとっとと引き上げようとすると、レオニスが
「ガゼルは母親が病気がちでな。初めて自分がガゼルと会った時、ガゼルは急に倒れた母親を抱えておろおろして、泣いていたー。だから、心配で出来るだけ家に帰って母親の顔を見たいのだろうが、両親に騎士見習いとなったからには立派な騎士となって帰って来いと、この一年間は修行に専念し、家には帰ってくるなと言われていてな。この半年、家に帰っていないのだ。」
「じゃあ、あたしが、見たものって…。」
「そうだ、ガゼルの母親とガゼルの妹たちだ。」
とレオニスは頷いた。
(だから、ガゼルあんなに寂しい顔でお母さんたちを見てたんだ。悪いことしちゃったな…。)
メイはガゼルのあの寂しそうな瞳を思い出して、心が痛んだ。
2
その日の夜、メイがキールに出された宿題と悪戦苦闘してしていると、コツンとメイの部屋の窓がなった。
「だれよ、こんな夜中に」
とメイが窓の外に目をやると、少しふてくされた様子のガゼルが立っていた。
「ガゼルー?」
メイが窓をあけて身を乗り出すと、ガゼルはまたムスッとした声で
「隊長に怒られた。謝ってこいって」
レオニスに怒られたのが理不尽で納得がいかないというような口調だ。
「えっ?隊長さんが?」
「頭ぶたれた。女の子にあたるなんて、騎士見習いとして失格だって」
(えー?)
「そっか…。あたしのせいだよねー。ごめんね、ガゼル」
メイは今日王宮でレオニスに聞いたガゼルの母親の話を思い出して、ガゼルに謝った。
ガゼルは、メイのしおらしい態度に、
「ごめん、隊長の言う通りなんだ。メイにやつあたりしてたんだ。オレ」
ガゼルは、しょぼんと子犬が尻尾をたらして落ち込んでいるような感じで謝ってきた。
「あ、ううん。あたしこそ」
へへっと二人は笑いあう。
「でもさ、マジで痛かったんだぜ。まだここにタンコブが残ってて」
頭の後ろのたんこぶの部分をガゼルは触ってみせる。
「そんなに…。」
(そんなに…。)
メイの脳裏にはガゼルがレオニスに説教されている光景が目に浮かんで、あまりのその取り合わせのおかしさに笑いがこみ上げてきた。
「そ…そんなに…お…こられ…た…の」
メイの声が震えているのを自分が隊長に怒られたことにメイが責任を感じているのだと解釈し、顔をあげた。
しかしその瞬間、
「あ、あははははー!!」
メイの盛大な笑い声が魔法研究院全体に響き渡った。
―そして、再び機嫌を損ねたガゼルは、しばらくメイに会ってはくれなかったことは言うまでもない。
山崎茜さんのサイトでキリ番を踏んで、リクエスト創作をいただきました。
ガゼルとメイって、仲良しだったらすごくいいコンビですよね、きっと。
そしてさり気なく隊長がいるあたり、さすが!(嬉しいですわ)
ありがとうございました。
|