「星火姫」  リリティア様
 
  
 星は天のランプだと、誰かが言った。道に迷った夜には方角を教えてくれるし、熟練した占い師には人の未来を知らせてくれる。だから、星に祈りを掛けるのは全く自然なことだと。小さくとも精一杯輝く星は、その中に無限の力を秘めているのだと。 
 なら、あいつこそ星だ。 
 小さな――一歳年上のはずなのに身長はほとんど変わらない――体に収まりきらないエネルギーが、魔法の形で表れているかのようだ。異世界の人間はみんなあんなのなのか、あいつが特別なのかはよく判らない。でもきっと、あいつが特別なんだろう。 
 元気で短気で、火の玉みたいな妙なヤツ。 
 初めて会ったときに浮かんだ感想がこれだ。実際、中身もその通りだった。一緒にいると気楽で面白く、とことん仲良くなれそうないいヤツだと思っていた。何となくだけど俺と同じような部分があって、それが楽しさや居心地の良さの理由なんだろう。 
 それに、あいつの仮の身分は魔導士見習いで、俺は騎士見習い。魔導士と騎士と、目指すものは違っているけど同じ見習いと言うこと 
でも親近感がある。俺もあいつも、半端な気持ちじゃなくそう志願していたから、お互い頑張っていこうと約束した。二人同じように進んでいくものだと、疑問も持たずに信じていた。 
 でもそれは、何の根拠もなかったんだ。 
 あいつは失敗を繰り返し文句を言いながら、着々と課題をこなしてどんどん前へ進んでいたんだ。俺が気づいたときにはあいつは随分ステップアップしていて、ちょっとやそっとじゃ追いつけない大差で先へ行っていた。騎士と魔導士とではカリキュラムが違う、なんてことは何のフォローにもなっていない。カリキュラムの構成を除いて考えても、あいつは俺よりずっと上になっていたんだ。それに、そんな風に思っていたままじゃ、俺はいつまでたってもあいつの下のままだ。 
 そのときから、あいつを追いかけることが目標に加わった。 
 あいつより下の俺じゃ、駄目なんだ。俺が目指す騎士になるためには、そんなんじゃいけないんだ。あいつを守ることが出来る――いや、対等に歩いて行くだけの力が必要なんだ。 
 じゃないとあいつは消えてしまう。星は星でも、あいつは流れ星だから。 
 一瞬の軌跡だけを残し、消えてしまう。 
 あいつが努力する理由は自分の世界に帰ること、つまりここからいなくなってしまうことだ。俺は……それを受け入れられない。受け入れたくないんだ。 
 いくらその刹那だけが印象的でも、俺は欲しくない。俺はあいつとずっと一緒にいたい。だから……繋ぎ止める力が欲しい。 
 あいつと一緒にいるために…… 
 

「やっほー、ガゼル」 
 元気な挨拶と明るい笑顔に、思わず言葉が洩れた。 
「俺のとこだけ、くればいいのになあ」 
 何言ってんの、と間髪入れず怒ったような声が帰ってくる。 
「このアタシが毎日来てあげてるのに、まだ不満なの」 
 そうじゃない、とガゼルは慌てて言った。 
「いてくれよ。俺はお前がいるのがいいんだから……」 
 

 消えないでくれ。 
 消えるなら、絶対引き留める。 
 俺は、お前と一緒に進みたいんだ……。 
  



 
    リリティアさんにいただきました。リクエストという訳でもないのに、 
    ガゼルが読みたいと言っていた私に贈ってくださいました。ありがとうございます。 
    これですよ、これがガゼルですよ。うっとり。 
    この作品は「輝映」シリーズの一部です。シルフィス編とディアーナ編が 
    リリティアさんのサイトにありますので、そちらもぜひ読んでみてください。
 
 
 
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