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1 世界中で一番尊敬している・・・ 親よりも誰よりも・・・この身をささげたこの国よりも あんなふうになりたい・・・憧れは少年の胸に募りつづけた カシャン 落ちたロケットをひろいあげるガゼル 見るつもりだった訳ではない・・・ だけど・・・見てしまった・・・やわらかな微笑み・・・ 薄い桜色の髪・・・すみれ色の瞳の一瞬ディアーナかとも思った だけど、その写真は酷く古かった・・・ 「わたしのものだ・・・」 そういってレオニスが手を出す 「す、すみません!!隊長。見るつもりはなかったんです」 「みたのか?」 「はい・・・・」 正直すぎる少年は素直にそれを認めてしまう まっすぐな瞳にレオニスはガゼルの頭に手を置く 「気になるか?」 「・・・はい・・・」 好奇心・・・それは少なくとも己を磨くために必要なもの 時にそれが身を滅ぼすこともあるのだが 「まあ、いい・・・」 レオニスは自室へとガゼルを連れて行き椅子を勧めた 「失礼します」 ガゼルはその椅子に腰掛けた 「姫に似ているか?」 開いておかれたロケット・・・ ディアーナによく似ている・・だけどもっと気品にあふれディアーナよりも ずいぶんと大人びた女性だった 「は、はい・・・隊長の恋人ですか?」 静まりきった空気にやけに声が響いたと思った 「騎士になるのなら今はもういないといっても王妃の顔くらいは覚えておいた方が良いぞ」 「じゃあ、」 「そうだ・・・故クライン王妃。マリーレイン・エル・サークリッド様だ」 「なんで・・・隊長が・・・王妃様の写真を?」 ガゼルは首をひねった・・・王家の家族写真ならばおかしくもないが 王ではなく何故王妃なのかと・・・ クラインの騎士はみなそうしているのだろうか? 「懸想していた・・・身分もわきまえず・・・あの方を愛していた 陛下よりも自分はきっとあの方を幸せにできると・・・おろかなことを考えていた」 ガゼルは昔の自分ににている・・・激情的でまっすぐな所が・・・ それゆえに思い込みの激しい所があるのではないかと・・・ 「隊長は・・・後悔しましたか?」 ガゼルは言葉を切った 「間違ってないとは思わない。だが・・・あの方がわたしに教えてくれたことは けして・・・無駄ではなかったと思っている・・・わたしはあんなふうに激情に刈られるような恋はもうしない だが・・・」 レオニスが言いかけた瞬間とを叩く音がする とんとん 「あいている」 「失礼します」 扉のむこうからシルフィスが現れる 「隊長・・・礼の件でお話が・・・」 その一言にレオニスは席を立つ 「そうか・・・今日だったな・・・ガゼルこの話はまたいずれ・・・」 「あ、はい。」 なにやら分け有りそうなレオニスに話の続きは気になったもののガゼルは部屋を後にした 「隊長があんなふうになったのは高貴な人間に恋をしたからなのか?」 レオニスの続きの言葉を聞けばそんな封には思わなかっただろう だけどガゼルはすっかりそう思い込んでしまった むろん・・・ガゼルが思いを募らせる相手は・・・ 「高貴か・・・高貴って言うと・・・う〜〜〜ん」 とりあえず思い付く相手は一人だけ・・・ローゼンベルク家のミリエール。 だけどあまりにも幼すぎると思う 「こまったなぁ・・・」 ガゼルは首をかしげる・・・ 「ガゼル? なにしてますの?」 「え? うわぁ!! なんだ・・・ディアーナかおどかすなよな」 後ろから声をかけてきた少女にガゼルは驚いて言葉を返す 「いくら3月とはいえ・・ボーッとしてるとかぜひきますわよ」 「またお忍びか?」 「し・さ・つですわ☆」 にこっとわらうディアーナの顔を見た瞬間ガゼルの脳裏にマリーレインの顔が浮かんだ 「そうか!! そうだったのか!?」 ガゼルはディアーナの方に手を置く 「そうだよな!! ディアーナ王女様だもんな」 実際ディアーナはクライン中を探してもこれ以上はないというくらいの容姿の持ち主だ くわえて王家の姫君。 高貴であることは確かなのだ・・・ そう思うと不意に恋にでも落ちたように胸が高鳴るのを感じた ぱこん!! 「いてぇ!!」 軽く頭を叩かれてふりかえるとシオンがたっていた 「姫さんが逃げ出したって聞いてきてみりゃ、坊やとデートか?」 ディアーナは頬を染めて答える 「違いますわ!!ガゼルとは偶然ここで御会いしただけですわ ね?ガゼル」 まるで恥ずかしがるように耳まで真っ赤にしてディアーナはシオンにいった いくらガゼルが鈍いとはいえこれは普通じゃないと察する (まさか・・・ディアーナも俺のことを) 既にディアーナ「も」っという言葉で自分の気持ちを確信するガゼル 「ああ、偶然だ」 ディアーナの気持ち(?)に答えるべく更に訓練をしようと心に誓い ガゼルは訓練場の方へと歩き始めた 「さて・・・姫さんもかえるぜ?」 「はぁい。ですわ」 ディアーナがシオンについて王宮に戻る後ろ姿を振り返ってガゼルは見詰めた 軟らかな髪。すみれ色の瞳・・・この世界でこれ以上の者はないと 言うほどの美しさをもった少女 自分は彼女と恋をするのだ・・・・ あまやかな期待・・・こんな気持ちは始めてだ 「・・・ってば・・・」 「ゼル・・・てば」 「ガゼル!!」 「うわぁぁ!!」 背後から声をかけてきた主を振り返ってみる 「なんだよ!! メイか・・・おどかすなよな」 「ね〜〜〜〜ガゼルって・・・もしかして・・・」 メイは少しだけ茶化すように聞く ガゼルはメイと会うことが多かった 活発で動くのが好きな所とはきはきした性格がどうもガゼルには合っているようで 酷く気楽に接することができた (メイならディアーナのことも詳しいよな?) ガゼルはそう心の中で呟いてメイを湖まで連れて行く 「なによ? 相談って」 「あ、あのさ・・・ディアーナって好きなやつとかいるのかな?」 「やっぱり・・・ガゼル、ディアーナのこと?」 メイは一瞬表情を曇らせた 「また・・・ずいぶん無謀な相手ね」 何でもないような顔をしながらそう言うメイ 「で? なんで? どこがすきなの?」 メイの質問にガゼルは答える 「どこがって言うか・・・あの高貴な雰囲気とか・・・守ってやりたくなるような ところとか・・・少しだけ頬を染めて微笑んだ時の顔とか」 メイは正直困っていた ディアーナが好きな人は知っている だけどそれをガゼルに伝えたら・・・ 「う〜〜〜〜〜〜〜ん。好きな人はいるとしか教えられないんだよね〜」 メイの言葉にガゼルは再び一つの思い込みをする (言えないってことはディアーナか俺が自分から思いを打あけないと しょうがないってことだよな?) うんうんとうなづいてガゼルはぱっとわらう 「さんきゅ!!メイ。やっぱお前にいってよかったぜ。それとさ、ディアーナって何を貰うと喜ぶと思う?」 そんな会話をしてガゼルが去っていった後メイは小石を蹴る 「ガゼルの・・・馬鹿・・・」 その小さな呟きは風に消えてしまった 2 「ディアーナこれ・・・」 ガゼルの手に握られているのは見事な花・・・ クライン中探してもおよそそんな花を見ることのできる場所は 一個所だというのがはっきり分かるような・・・ けれどディアーナの表情はけわしい・・・ 「ガゼル・・・これもしかして・・・」 「ん、ああ、シオンの花壇からちょっと貰ってきたんだ。へへ♪」 満足げにそういうガゼルの頬をディアーナの手のひらが叩く パシン 「ディアーナ?」 喜んでくれると信じて疑わなかったガゼルは驚いてディアーナの方を見詰める 「何てことしますの。あの花壇の花をシオンがどれだけ大切にしていたか 知っているはずですわ」 無論それは王宮に少しでも出入りしているものならみな知っていることだ ガゼルも例外ではない 「ガゼルの顔なんて・・・見たくありませんわ!!」 そういって王宮の中に入っていくディアーナ ガゼルはあまりのことに何も言えずただその後ろ姿を見守っていた 3 「そっか・・・シルフィス・・・隊長さんと結婚するんだ。おめでとう」 騎士団のシルフィスの部屋でメイはお茶をすすりながら 女性へと分化をとげた金色の髪の騎士にお祝いの言葉をつげた 「これでフリーなのあたしだけになっちゃったじゃない」 冗談めかしてそういう姿がどこかさみしそうにみえた 「メイだってガゼルとうまくいってるんじゃ・・・」 「あたしの一方通行だったみたい。ガゼルは・・・ディアーナがすきなんだって」 「え? 姫を?」 「うん・・・好きな人とか好きなものとか・・・聞かれたもん」 「だけど・・・姫は」 「うん・・・でもあたしガゼルのこと応援するって決めたんだ。 確かに今ディアーナはシオンと付き合ってるけど・・・シオンと付き合うんじゃ 泣かされるの目に見えてるじゃない・・・だったらガゼルの方がいいんじゃないと思う もちろん・・・決めるのはディアーナだけど・・・アタシくらい・・・応援してあげなきゃ」 「メイはそれでいいんですか?」 メイは少しだけ・・・瞳を曇らせた 「うん・・・もう決めたんだ」 「・・・メイ・・・」 シルフィスは胸が痛くなった・・・ どこまでいっても捕まることのないおいかけっこ・・・ ガゼルが・・・メイの気持ちにきずいてくれたなら けれどそれをシルフィスの口からいってしまって意味がないのだ ディアーナがガゼルを選ぶことはないだろう・・・ それはディアーナがシオンをどれだけ愛しているか知っているからはっきりしている それでも・・・メイはガゼルの気持ちを優先するのだと・・・ メイだって・・・それは分かっているはずなのに・・・ 4 メイが騎士団を出て大通りを歩いていくとうな垂れて歩いてくるガゼルを見た 「ガゼル? どうしたの? 元気ないじゃん」 「はぁぁぁぁぁぁぁ」 ため息を吐くガゼル。 「どうしたの? 相談にのろっか?」 「なんでだろうな・・・後でシオンに断ろうと思ってたんだ だけど・・・あんなにおこらなくっても・・・」 「あのさ・・・ガゼル・・・一個いってもいい?」 「?」 「あたしの口からいうべきじゃないって思ってた・・・だけど・・・ ディアーナはシオンのことが好きなんだよ」 「え?」 ガゼルは言葉を失った 「ディアーナとシオンは婚約してるんだよ」 そのとき・・・ガゼルの頭の中にレオニスの話がよみがえった 『奪ってでも・・・』 そう・・・ディアーナは本当にシオンを愛しているんじゃない 本当は・・・結婚なんかしたくないのに・・・無理に・・・ 王家の姫ぎみだからってそんな無理強いが許されていいはずがない 「ちくしょう・・・」 ガゼルは小さく呟いた 「俺・・・ディアーナの事を奪ってみせる」 ガゼルは小さく強くつぶやいた メイは小さく首を振った・・・ だけど・・・キット今のガゼルは止められない・・・ だからいまは見守るしかない・・・ ガゼルは走った・・・夕闇に染まる王宮の芝に大木をよじ登り ディアーナの部屋のテラスへと降り立った 「ディアーナ!!」 「ガゼル?」 昼間の事をまだ怒っているような面持ちのディアーナにガゼルは声をかけた 「昼間はゴメン・・・ディアーナが花が好きなのに引っこ抜くなんて」 「もういいですわ・・・」 「と、とにかく早く逃げよう!! 俺絶対守ってみせるから」 「どうして私が逃げないといけませんの?」 「だってシオンと婚約させられたんだろう?」 「ええ・・・シオンと婚約はしてますわ」 「いやなのに無理に結婚なんて辞めちまえよ」 「?」 ガゼルの言葉にディアーナは首をかしげた 「だから!! 俺ディアーナのこと守るからシオンにけがされたりしないようにするから!!」 ディアーナは小さくため息を吐いた 「ガゼル・・・私はシオンの事愛してますのよ?」 「俺にまでそんな嘘付かなくってもいいって」 「私の中で結婚したいと思う相手はシオンだけですわ」 かちゃ・・・ 奥の扉が開く音がする 「早く帰った方がいいですわよガゼル・・・」 「へ?」 「シオンがきましたわ・・・2,3発筆頭魔道師の魔法を食らう覚悟が有るなら構いませんけど 何を勘違いなさったの知りませんけど・・・私ガゼルと逃げる気も ガゼルに対して恋愛感情も全く有りありませんから」 それだけいうとディアーナははいってきたシオンに抱き付いていた ガゼルはうな垂れたように真っ暗になった道を歩いていた 「ガゼル?」 「メイ・・・ははは・・・・俺の勘違いみたいだ・・・」 「だからいったじゃない・・・ディアーナはシオンのことがすきだって」 「ディアーナが頬を染めたのはシオンにあったからで怒ったのは シオンの花をおったからなんだな」 うな垂れるガゼルにメイがいった 「あたしじゃだめ?あたしじゃだめなの?ガゼル」 大きな瞳が目の前でゆれている 「メイ?」 訳が分からずガゼルがメイをみつめかえすと・・・ 不意に視界が暗くなった 唇に柔らかい感触 「あたしは・・・アタシはガゼルの事が好きだったんだから!! ずっとずっと好きだったんだから!!」 そういってメイ走り去っていった・・・ ガゼルのあたまの中が真っ白だった・・・ むねがどきどきする・・・どうしていいのかわからない ディアーナはかわいいとおもった・・・だけど こんなどうしていいのかわからないような感情は知らない ガゼルは騎士団のレオニスの部屋へと足を運ぶ 「どうかしたのか?」 そう聞くレオニスに事の次第を話した・・・ 「隊長・・・俺はディアーナとメイ・・・どっちが好きなのか分からないんです」 「ガゼル・・・この間の続きだが・・・マリーレイン様を失って・・・ 時間が経つに連れてそれがこいでこそあれ・・・愛ではないということに気付いた あれからだいぶ時間がかかったが・・・本当に大切な人は そばにいるものだ・・・きづかないあいだにな・・・ お前が姫に引かれたのは・・・私の真似をしているだけのような気がする 真意はお前にしか分からないと思うが・・・」 ・・・・愛と・・・・恋の違い・・・・ ガゼルはそれから2,3日ろくに訓練もできなかった 考えれば考えるほどメイの泣きそうな顔が浮かんできた どんな気持でディアーナとのことを聞いてたんだろう どんなおもいで応援してくれてたんだろう・・・ 気が付けばいつもそばにいた気がする そこまで考えるともう日も落ちてしまったにもかかわらず ガゼルは明日になるまで待つのももどかしくって研究所に走り出した 「メイ!! メイ!!」 突然ガゼルに呼ばれたもののメイは出てこなかった・・・ ガゼルはメイの部屋の外から叫んだ 「おれ!! お前の事すきだ〜〜〜〜〜!!」 そういってその場にひざを突くガゼル かちゃ・・・ 小さく音がしてメイがでてきた 「だって・・ディアーナの事・・・」 「隊長にいわれて気付いたんだ愛と恋は違うって 隊長みたいになりたいから何処かあこがれのような思いでディアーナを見てたんだ だけどあの時は気持に余裕が合ったんだ・・・次の事を考えられるだけ 本当に人を愛したら・・・そんな余裕なくなっちまうんだな おれ・・・メイにキスされたとずっとそのこと考えてた・・・」 「だって・・・あたしは・・・」 「もうだめか? 俺の事嫌いになったか?」 「だって・・・・・」 「それでもいい・・・今度は俺が追いかけるからな」 「ガゼル・・・」 「好きだ・・・・メイ・・・」 「うん・・・・・・・・」 メイはちいさくうなづいた この夜・・・小さな恋人が誕生した 「一安心しました」 「そうですわね〜でも・・・ガゼルももう、4、5年たったらもっとかっこ良くなりますかしら?」 ディアーナが考えると後ろから長い手がその首に回された 「こぉら。おれ以外の男の事なんか考えなさんな」 「きゃぅ」 「返事は?」 「はい・・・ですわ」 ディアーナの微笑みにシオンは吹き出した 「ま・・・一件落着ですね」 紅茶を飲んでる部屋の窓から王宮に向かってガゼルとメイがはしってくるのが見える 「はやく!! お茶会おくれちゃうよ」 「おう!!」 「シオンお紅茶っておいしいんだから!!」 「アイッシュのお菓子もな!!」 「そうそう!! はやく!!」 「ま・・・あの二人まだまだ花より団子だな・・・」 二人が部屋に来る頃何故か笑っているディアーナ達を見て 一緒に首をかしげる二人だった
いやあ、ガゼルのコーナー、作ってみるもんですねえ〜 ガゼル×ディアだと思った方はいないでしょうが、なかなか凝った設定です。 隊長、いい味出してますが、そもそもあんたが中途半端なことを言うからガゼルが勘違いするんや、 とそっちが気になる私であった。 こういう健気なメイは、なかなか自分では書けないので、嬉しいです。 ありがとうございました。 |