「ガゼル=ターナに国境警備を命じる。」 重々しく、壇上から国王陛下になったセイリオス様が、オレに命じるのを聞きながら、オレは深々と頭を下げた。 「謹んで、お受けいたします。」 今年、オレは17歳になった。騎士になって二年目になる。 念願の騎士になった今のオレの目標は、二つ。 まず、一つ目は憧れのレオニス隊長のような男になること。…これは、騎士見習いだった頃から、ずっと変わらない目標だ。強くて、身も心も大きくて、包容力のある大人の男!って感じの隊長の背中を、オレは追い続けている。 そして、二つ目の目標。それは、壮大でなかなか先が見えないけれど、絶対に叶えたいもの。15の年に見つけて以来、ずっとずっと掲げてきたものだった。「好きな女と、幸せになる」という、言葉にすると実に簡潔な目標。問題は、好きな女が王女で、対する自分が一介の騎士に過ぎないということだ。 好きなのは、可愛い笑顔。優しい声。おっとりした大人しそうな外見の下に隠された、いざというときの強さ。 本気で怒らせたくはないけれど、ちょっとふくれた顔も好きだからちょっとからかったり、微笑んだ顔が大好きだから、喜びそうなところに連れていったり… ほんとに、ディアーナのことが好きなんだ。だから、一緒にいたいんだって思うのに、王女と騎士ってことが、この恋を複雑にする。 みんなに認めてもらえるようにオレが出来ることは、騎士として名をあげて、「コイツだったらディアーナ姫にふさわしい」って言ってもらえるようになること。だから、オレは積極的に任務に当たってきた。でも、今のところまだまだ下っ端のオレの毎日の任務は街の警護が主で、手柄を立てて上を目指すと言っても、スリやごろつきを捕まえるくらいの毎日ではたかが知れているのだ。 そこへ持ってきての今回の任務は、まさしく手柄を立てるチャンスだ。 絶対、オレは、成功させてみせる。 ディアーナのためにも、自分のためにも… 「ガゼル、います?」 任務を言い使った翌日の昼。 騎士見習いの時と同じく、寮で生活をしているオレが部屋で任務に向けての荷造りをしていると、声がした。聞き間違うはずもない、ディアーナの声。 慌てて扉を開けに行く。 「お前、よく抜け出してこれたな…」 と言いながら開けたオレは、言葉を失った。ディアーナは可愛い顔が台無しな程、怒っているのだ。 「抜け出してきましたわよ、それはもう一生懸命。お兄様の監視の目は厳しいし、最近ではシオンも筆頭魔導士権限で見張りをしていたりするのに、わたくし、全部すり抜けて来ましたわ。今まで培ってきたお忍びのテクニックを駆使しましたのよ。」 ディアーナが、成人して女性としての魅力をつけるほど、監視の目は厳しくなってきている。王女にあるまじきお忍び好きのディアーナを、兄のセイリオス陛下やその親友が心配するのはもっともなことだ。…でも、デートするのにはいつも迷惑なんだけど。 「…お疲れさま。」 とにかく、ディアーナの苦労は分かったので、オレは言った。でも、それはディアーナの神経を逆なでしたらしい。 「なにが、お疲れさま、ですの! もう、もう、信じられませんわ、ガゼルってば!」 「…だから、何そんなに怒ってるわけ?」 これ以上、扉の外で大声を出されて騒ぎになってもまずい。 オレはとにかくディアーナを部屋へと連れ込んで、聞いた。 「…ガゼル。わたくしに、言い忘れていることがあるのではなくて?」 「へ? なんか、あったか?」 思い当たることは、特にない。 「…もう! ガゼル、もうすぐ国境警備で遠征に行ってしまうのでしょう?」 「…ああ。そっか。言ってなかったっけ、そういえば。」 「しばらく会えなくなるんですのよ? どうしてそういう大事なこと、言い忘れるの? 信じられない。」 すっかりふくれっ面になったディアーナのほっぺを、オレはそっとつねった。 「ガゼル〜!」 「ぷ、変な顔。」 「もう、許しませんわよ!」 本気で怒りそうなディアーナに、オレは謝る。 「…遠征に行くことちゃんと伝えてなかったのは、ごめんな。でも、オレ、ちゃんと帰ってくるから。お前の元に。お前といられる時間を作るために。」 「わたくしのために行くというんですの? だったら、行って欲しくないですわ。あなたがわたくしのせいで危険な目に遭うのだったら、それは、嬉しくないですわ。」 「…オレ自身のために、いくんだ。お前といるのが、オレの幸せだから。」 「……」 悲しそうな目をしたディアーナに、オレは謝った。 「わがまま言ってごめんな…」 「………」 黙って、オレはじっとディアーナを見つめた。 「…わかりましたわ。わたくし、ガゼルの無事を祈ってますわね。きっときっと無事で帰ってきてくださいましね?」 「…ああ。」 ぎゅっとディアーナを抱きしめて、オレは力強く言った。 ディアーナも、オレの体を抱きしめ返してくる。 行って来る。 短く告げた決意に、ありったけのお前への思いを込めたことに気が付いてくれるだろうか。 「好きだ」も「待っててくれよな」も「オレに勇気をくれよな」も… 全部、全部。 そうして、きっと。 ただいまって、お前にちゃんと言いに帰ってくるから。 今は見送ってくれよな。 「行ってきます」
17歳のガゼルはEDの一歩手前でしょうか。 ひたむきに前向きに、困難を乗り越えて幸せをつかもうとする姿が、このカップリングの基本だと思います。 「夢幻堂」の8000hitsを踏んだ記念にいただきました。 ありがとうございました。 |