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あの頃はよく夢の話をした気がする。 稽古場で後片付けをしている時とか宿舎に戻った、そういう何でもない時間。自分達が目指す騎士、それはどういったものかなんて話をした。最後は隊長を引合いに出し、あんな風になりたいと言うのが定石だった。 夢以外の話もやっぱり沢山したものだ。日常のこと、家族のこと、自分達を取り巻く人達のこと。そんな中でオレ達は互いのことを少しづつ理解していったのだ。 実を言うと話すと言ってもオレが一方的に喋っていることのほうが多かった。相手はそれに別段嫌な素振りも見せないでただ黙って聞いてくれている。気を遣い合うような仲でもないし、相手はそういう事をはっきり言う正確なのを知っていたので、それについて直そうと思ったことはない。 そして何かふとした折りに相手は自分について語ってくれるのだ。それが特別なことの様に自分には感じられたのだった。 あの頃のビジョン。それは酷く鮮明で今も思い出すことが出来る。 白い正装に身を包んだ二人の騎士。肩を並べて歩いていける最高の仲間。 今は少し形を変えてしまったけれど。 日曜日は人が多い。 皆が休日なのだから仕方がないのだが、何も今日みたいな日に外に出ることはないと思う。 そういう自分も日曜になって仕事以外の目的で出かけているのだから自分勝手な言い分だ。シルフィスもそれは自覚している。 いつもなら一人で出かける時は森とか湖とか比較的人が来ない場所ばかりなので、正直人込みに参ってしまって半ば自棄になってるのだ。 待ち合わせた後は相手に頼んでもう少し人通りの少ない場所を回らせてもらおう。そう決意する。 それでなくても今日は動きにくいのだ。 左にパン屋の赤い看板が見えたら今度見えるのは待ち合わせた噴水だ。 初めて通ったのはいつのことだったか、一年経つうちクラインの地理が自分に浸透したのを自覚し軽い感動を覚えた。 「ごめん。待たせてしまったな。」 待ち合せの時間は過ぎてなかったが、相手が待っていた様子なのでそう言う。他に言葉が思い浮かばななかったとも言う。大体、こうして改まって外で会うこと自体照れくさい。 「お・・・・・・・・・・。」 にこやかに振り返った相手が絶句したのが分かった。 「・・・・やっぱり変ななのか、ガゼル。」 そうではないかとは思っていた。普段から人目を引く自分ではあったが、今日は一段と酷い。 いい意味ではないだろうと思っていた。その理由を知っているから。 しかし、リクエストされた以上覚悟を決めてきたのだ。 「や、そうじゃない。」 やはり視線はシルフィスに釘付けのままガゼルは言葉を絞り出す。 そう言うだろうな、彼なら。人一倍思いやりのある男だから。 ため息一つシルフィスは落とす。 「本当だって、あんまりキレイなんで見とれたんだ。」 そんなことはない筈だ。鏡の前で何度も確かめたのだ。似合わなさでは自信がある。 自分のはいている巻きスカートを少し持ち上げて再び自分の姿を見直す。 違和感。一言で言い表すとそんな感じだったのだ。気になって何度も直したのだが拭えなかった。髪を降ろしてもみたが無駄だった。時間に遅れるわけにいかないので諦めて出てきたのだ。 折角だからスカート姿なんか見られるとすっごく嬉しいぞ。か、気軽に言ってくれたものだ。 でもそれは単に着られないものを着た為の違和感でしないこと。気付かないのは本人のみだった。 「信じてないな。オレが気安いおべんちゃらを言う人間に見えるか。」 ビシッとガゼルが言い切った。 「う、・・・・見えない。」 どちらかというと見える見えないの前に能力的に出来ない人間だと認識している。 ひょっとしたら本当にそうなのかと彼が言うとそう思えてくるから不思議だ。 それに嬉しそうに照れくさそうに笑むガゼルの顔が見れた。彼が喜んでくれたのだからもうどっちでもいいのだ。 そう、仲間とはもう呼べなくなってしまった。 そんなことを思いながらガゼルは笑う。 少し困ったような顔でそれでも笑うシルフィス。キレイなだけでなく可愛いのだということには最近気がついたのだ。 そのシルフィスが自分の隣に居る。そのことが堪らなく嬉しい。誇らしい。 二人で騎士位を取った後、ガゼルは実家に戻った。春になると入る新しい騎士見習い。それでいて宿舎は自動で増築されるわけではない。一応一人前の評価がされた後は当然のことだ。シルフィスは実家が遠方なのでそのまま残ることになった。 同じ仕事に就いているので当然日常的に会うのだが、それでも偶にこうやって待ち合せて遊びに行ったりする。 今はただそれだけだ。 でも、いずれは・・・・・そう思う。 肩を並べるのではなく共に歩いて行く、そういう存在。 「さあ、そろそろ行こうか。」 自然に差し出される手。 「そうですね。」 シルフィスは屈託なくその手を取る。 それまで離れないように迷わないように見失わないように。 だから手を繋いで行こう。
同人誌用にいただいた原稿でしたが、空葉月さんがご自分のサイトには アップなさらないそうなので、こちらに掲載させていただきます。 空葉月さん、ありがとうございました。 |