Get a little drunk  水瀬しのぶ様
 
 
 騎士団宿舎の消灯時間も過ぎた、深夜の事。 
 何故か目が冴えてしまって眠れなかったシルフィスは、枕元に置いた時計に目をやった。 
 …もう、2時だ。困ったな、明日も早いのに…。 
 瞳を閉じて眠ろうとすればするほど、目は冴え、意識もはっきりと覚醒してしまう。 
 シルフィスは諦めたように小さくため息を付いて、ベッドからゆっくりと起き出した。 
 窓の外には、静寂の闇の世界が広がっている。 
 机の上にある読みかけの本を手に取ろうとして、ふと窓の外を横切る人影に気が付いた。 
 その見覚えがある人影に慌ててカーテンを開け、窓から身を乗り出すようにして目を凝らした。 
 宿舎の少し先にある電灯の下に佇む、長身の…。 
「…隊長?」 
 シルフィスが窓を開けるのと丁度同じタイミングで、レオニスはシルフィスの部屋の窓辺へとゆっくりと 
近付いてきた。 
「…まだ眠らないのか?」 
 掛けられる言葉は、いつものようにとても優しい。 
…けれど、どこか違和感を覚えたのは気の所為だろうか。 
「あ、いえ…なんだか目が冴えてしまって」 
「…そうか」 
 レオニスの表情は、月明かりを背中に背負っているためによくわからない。 
「あの、隊長は、どうして…こんな夜中に?」 
 部屋の窓から外へと半身を出したシルフィスと、長身のレオニスの顔が丁度同じくらいの高さになる。 
 何時の間にか窓辺に手をかけられる程近くに寄った、レオニスの顔。 
 そこでシルフィスは、先ほど感じた違和感の正体を知った。 
「…お酒を?」 
「ああ、少しな」 
 酒豪、というよりも、幾ら飲んでも顔には出ず、酔いもしないレオニスにしては珍しく、 
顔が僅かに色付いて…声も、いつもより少しだけ高いような気がする。 
「少し?…そうは見えないですよ、隊長」 
 拗ねたような、怒ったような表情になったシルフィスに、レオニスは苦笑しながらああ、と呟いた。 
「そうだな…少し、ではないかもしれない」 
「早くお戻りになって、お休みになれたほうが…わ…っ!」 
 言い終わらないうちに、窓から乗り出していたシルフィスは腰をつかまれてレオニスに抱き上げられ、 
そのままバランスを崩しそうになって、思わずその長身にしがみついた。 
「あ、危ないですよ、隊長っ」 
 咎めるようなシルフィスの言葉も、レオニスは僅かに笑うだけ。 
「もう…っ、本当に、酔ってらっしゃるでしょう!」 
 顔を真っ赤にして怒り出した恋人に、レオニスは今度はくすくすと、小さく声を立てて笑った。 
「ああ…そうかもしれない」 
「そうかも、じゃないですよっ!降ろして下さいっ」 
 シルフィスの金色の髪が、月光を受けてきらきらと輝く。 
「…綺麗だな」 
「え?」 
「…お前は、本当に…綺麗だ」 
 レオニスの言葉に、赤かった頬が更に赤く染まる。 
 恥ずかしくて顔を上げられなくなって、シルフィスはレオニスの胸に顔を埋めたまま、ぽつりと呟く。 
「…本当に…変、ですよ?…かなり、酔われてます」 
「私が酔うのは、酒とは限らないから、な…」 
 耳元で、レオニスのくすくすと笑う声がする。 
 …お酒に酔ってらっしゃるんだよ、ね? 
 鼻につく、僅かなアルコールの匂い。 
 …お酒以外に、って…何に、酔うんだろう…? 
 金色の女神は、首を傾げてゆっくりと顔を上げた。目の前の蒼い瞳に映るのは、自分だけ。 
 優しい色になった蒼は、その中に映る恋人に酔いしれながら… 
 金色に輝く恋人を、優しく抱きしめた。 
 
    無理矢理キリ番666を踏んで、書いていただきました。
    こういうさり気なく、しかし確実に甘いお話は、自分じゃ書けないので、水瀬さんに書いてもらえて幸せ♪
    隊長、やっぱりオトナですね〜 
    水瀬さん、ありがとうございました。 
 
 
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