この作品は「エースをねらえ!」キャラにファンタキャラをあてはめるという
いわゆるWパロディです。苦手な方はお気をつけください。
一応基本設定はレオシルですが、あくまでもお笑いですので、
過剰な期待はしないでくださいね!
学園ラブロマンスだと思ったり、スポ根熱血師弟愛だと思ったりすると、
大間違いです。
なんてったって、秋原みかるですから!
何が来てもどんとこいなあなたなら大丈夫。
お楽しみいただければ幸いです。
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テニスの名門、西高。数多くの新入部員の中に、いまや全校生徒の注目を集める少女がいた。 実績もなく、多くの生徒と同様に憧れだけでテニス部に入った、岡ひろみ=シルフィス。 そんな彼女に非凡な才能を見出したコーチ、宗方仁=レオニスによって、シルフィスは、過酷な特訓を受けることになった。 毎日のつらい練習、厳しいコーチ。チームメートのやっかみ。 シルフィスにとって、親友マキ=メイとのおしゃべりの時間だけが、安らげるひとときだった。 「元気出しなよ。あんたならきっと出来るって」 「そうでしょうか、どうしてコーチが私なんかを特別扱いするのか、私にはわかりません」 「私なんかって言っちゃだめ。コーチを信じようよ」 親友の言葉に励まされ、今日もコートに立つシルフィス。 コーチに命じられるまま、必死に千本サーブに挑んでいるところである。 練習着の白いテニスウェアが目にまぶしい。 「駄目だ、何度言ったらわかるんだ」 「はいっ」 「エースなんて、狙ってできるもんじゃない」 「はい、コーチ!」 「もう一度」 コーチの容赦ない叱責を受けながら、それでも練習を続けるシルフィスを遠くから憎々しげに見ているのは、お約束、新人の抜擢に納得いかない先輩=その他大勢の皆さんだ。 「コーチったら、どういうつもりなのかしら」 「まったく、あんなガリガリの小娘のどこがいいっていうの」 「きっと金髪が好きなのよ。くやしいーっ」 論点がずれている。 その時、かしましい部員たちの背後から、たしなめる声がした。 「そんな悪口はおやめになって」 「お蝶夫人!」 長い髪を華麗に揺らして登場するのは、西高女子テニス部の華にして、日本女子テニス界の宝、竜崎麗華その人である。 「ひろみはわたくしの大切なお友達ですわ。意地悪しないでくださいまし」 書き言葉だと微妙に伝わらないかもしれないが、この竜崎麗華、ピンクの髪のディアーナであった。 「いえ、私たちはそんな…」 「それならいいんですの。皆さん仲良くいたしましょう」 おっとりと微笑むディアーナの背後で、不意に高らかな笑い声が響いた。 「おーほっほ。そんな生ぬるい台詞、とてもお蝶夫人とは思えませんわ」 ディアーナが振りかえると、そこにいたのは、紫の縦ロールをひるがえす少女。 「お蝶夫人といえば、強く気高く美しく。そして何より縦ロールですわ。あなたなんかニセモノよ」 「まあ、ミリエール、そうなんですの? わたくし、言われたとおりにやってみたんですけれど…」 確かにディアーナの髪はたっぷりと長く、止め絵にしたらいかにもお蝶夫人のように広がりそうだが、ミリエールの言うとおり、縦ロールではない。 「なりきりが足りないのよ。お蝶夫人にふさわしいキャラは、このミリエールをおいて他にはありませんわ」 腰に手を当てて笑おうとしたミリエールの背後から、違う人物の高らかな笑い声が響いた。 「おーほほほ。たとえ縦ロールでも、そんなに短くては、とてもお蝶夫人とは言えなくてよ」 一同が振りかえると、そこにいたのは、水浅葱の長い髪を涼しげに垂らした女。 「あなたは!」 「ある時は神官エルディーア、ある時は隠密白鴉、そしてまたある時はお蝶夫人」 地の文ではノーチェにしておこう。 「だいたい、ひろみより年下のお蝶夫人なんて、あるはずないでしょう。本当に困ったお子様たちだこと」 「むう、言われてみればそうですわね」 「なによ、あんたみたいな年増に言われたくないわ」 「ふふん、すぐに頭に血がのぼるような小娘に、しょせんお蝶夫人が勤まるものですか」 ルックスも雰囲気も年齢も、何もかも異なる三人の竜崎麗華がそろった。 「なによなによ、偉そうに!」 「お蝶夫人ですもの。お下がりなさい、ミリエール、見苦しくてよ」 貫禄では、さすがにノーチェが一歩も二歩も先んじている。 だがミリエールも負けてはいない。 「台詞だけ真似しても無駄だわ。縦ロールじゃないお蝶夫人なんて、お蝶夫人じゃない。読者が納得しないわよ」 確かに、ロングでストレートのお蝶夫人なんて、想像できない。 「お黙りなさい。これはマンガではなく小説。台詞回しがすべてよ」 それも一理ある。 「三人でやったら、まずいですかしら」 「「まずいに決まってるでしょ!」」 ディアーナの提案は、気合十分の二人に一蹴された。 「じゃあ、コーチに決めてもらいましょう」 押されっぱなしに見えて、実はまったく引く気のないディアーナ、ちょうどコートに戻る途中のコーチを指差した。 「いいでしょう」 「望むところよ」 たちまちコーチを取り巻く竜崎麗華トリオ。 「宗方コーチ。私こそが真のお蝶夫人ですわよね」 「いいえ、わたくしですわ」 「わたくしでもいいですわよねー?」 疑問。お蝶夫人は自分で自分のことお蝶夫人とは言わないんじゃないか? 「……」 コーチは面倒そうに眉を寄せて黙っている。 「さあ、遠慮せずにおっしゃって!」 「……それは何だ」 「「なんですってー!」」 ようやく口を開いた思ったら出てきたとんでもない言葉に、絶叫が答えた。 ディアーナもびっくりして口をあけたけれど、他の二人に間に合わなかった。 「お蝶夫人といえば、ヒロイン岡ひろみの目標にしてライバル、そして良き理解者」 「星飛雄馬には花形満、北島マヤには姫川亜弓、スポ根には絶対必須の美形ライバルキャラでしょう!」 そうか、北島マヤってスポ根のヒロインだったのか。 「やはりお蝶夫人にふさわしいのは、家柄も美貌も備えた、このミリエールですわ」 「高校生なのに夫人と呼ばれる落ち着きと迫力こそ、お蝶夫人に必要なものよ」 「「さあ、どっちがお蝶夫人か、選んでちょうだい!」」 「でも最初はわたくしがお蝶夫人でしたのよ」 だが。無口、無表情、無反応。三無主義のコーチはただ、 「そうか」 と言ったきり、そのまま立ち去ろうとする。 「だから!」 「一人に決めてって言ってるの!」 「ですのよ」 ディアーナはともかく、他の二人の猫かぶりも限界を迎えつつあった。 コーチは再び眉を寄せて考える素振りを見せたが、結局言ったのはこれだけ。 「……誰でもいい」 これにはさすがに二人とも切れた。 「てめえ、話聞いてんのかあーっ」 「お蝶夫人は一人に決まってんでしょーっ!」 「…二人とも、お下品ですわ」 そんな罵声に少しも動ぜず、コーチは言い放つ。 「別に、シルフィスだけいれば、それで構わん」 そうして今度こそ、シルフィスがサーブを繰り返すコートに向かって歩き出した。 「ちょっと!」 ミリエールが青筋を立てる。 「シルフィスじゃなくて岡ひろみでしょ! なりきりが足りないわ!」 なりきりにこだわるミリエールであった。 その隣りで、ノーチェははっと気付く。 「さては、あんた、素でしょ、レオニス=クレベール!」 立ち止まったコーチは振りかえると、 「失礼。彼女は岡ひろみだったな」 それだけ言って、あとは一同を置き去りにして行ってしまった。 ジャージ姿の背中には、聞く耳持たない、という書き文字が浮かんで見えるような気がする。 ディアーナがため息をつく。 「レオニスとこういう趣向って、似合わないと思ってましたわ…」 「結局、彼女しか眼中にないってことか」 一瞬、虚脱感に襲われる竜崎麗華トリオだったが。 「こんなことで挫けるようでは、お蝶夫人の崇高な魂を体現することはできませんわ」 「そうですわ。あんなエセ宗方コーチは無視して、わたくしたちはわたくしたちの『エースをねらえ!』を完成させましょう」 「岡さん、負けなくてよ」 「じゃあ、今度はシルフィスに決めてもらいましょう」 「「だから、シルフィスじゃなくて、岡ひろみ!」」 団結が高まったようだ。 一方、そのシルフィスはどうしていたか。 お蝶夫人バトルに気を取られてしまったが、主人公はあくまでもシルフィスである。 今しも千本サーブを終えた彼女が、肩で息をしているところに、コーチが姿を現した。 校舎の向こうには大きな夕日。 美しくもお定まりの景色である。 「よくがんばったな」 「ありがとうございます、コーチ」 赤い空をバックにみつめあう二人。主題歌、カットイン。 ♪サーブ、スマッシュ、ボレー、ベストを尽くせ〜 「岡、エースをねらえ」 コーチ、それって最初の発言と矛盾してます。 てゆーか、それって死ぬ時の台詞です! とりあえず、最後はコーチらしく決めてくれたので、配役はこのまま。 次回、厳しい訓練を通じて絆を深め合うひろみと宗方をよそに、藤堂先輩役をめぐる新たな戦いが勃発。西高テニス部の運命や如何に。
「エースをねらえ!」第××話「お蝶夫人をねらえ!」終わり
これは、レオニスをおもちゃにして遊ぶ、というコンセプトのギャグ本にゲストとして書いたものです。 ネタは、チャットで「べるばら」をファンタキャラをやったら、という話をしていた時に思いついたもので、あとは速攻で書き上げることができました。 今読み返してみても、けっこう気に入っている作品だったりします。 あたしって、よっぽどお蝶夫人が好きだったのね。 もっとドタバタにできたかなあ?「藤堂先輩をねらえ!」はセイルとシオンあたりにやってほしかったんですけどね。(既に過去形) |
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