じっとりと汗が流れるのを感じながら、レオニスは目を開けた。 
すっかり日が昇りきって、窓からは朝の光が強く差し込んでいる。 
(まずいな、このままでは・・・) 
倉庫を改造したようなその部屋の中で、彼は壁にもたれて床に座っていた。 
向かい側の壁は鏡張りになっている。 
今の彼はまったく身動きが取れない状態だった。 
両の腕は太い鎖に絡め取られ、動かすことができない。 
鎖は壁の上部に引っかかったまま、びくともしないのだ。 
これでは、身体の他の部分が自由でも、どうしようもない。 
鏡には、頭の上の壁に刺さった大きな三日月型の鎌も写っている。 
忌々しい鎖と鎌。 
レオニスの胸に、名状し難い屈辱の思いが浮かぶ。 
(・・・・・・まだこれからだ・・・・・・) 
もう一度、向かいの壁に写る自分を見る。 
  
    鎖隊長
  
疲労と憔悴の色が濃い。 
どれくらいの時間こうしていたのか。 
レオニスはただ、人が来るのを待っていた。 
扉の外を、部屋に近づいてくる足音がする。 
勢いよく扉が引き開けられた。 
「遅い」 
「すんません・・・って、隊長、またですかあ〜」 
ガゼルが情けない声を出しながら駆け寄って来て、鎖をほどき始める。 
「しかたがない。まだ不慣れなのだからな」 
「だからって、なんで毎回、鎖が絡まるんですかあ〜」 
「言ったろう、これは鎖鎌という、外国製の武器で、使い方が今一つよくわからない」 
「でも、こんな誰も使ってない部屋で早朝に練習しなくても・・・」 
「鎖の先の鎌の動きを確認しながら動くためには、この大きさの鏡が必要だ。いいから早くほどけ」 
「はい〜」 
ようやくガゼルが、鎖の先の鎌が壁に刺さっていたのを引き抜いたので、レオニスは腕を下ろすことができた。 
そうして二人がもつれた鎖を解きかけた時。 
「ガゼル? どうしたの?」 
廊下から部屋を覗き込んだのはシルフィスだった。 
「あ、隊長も・・・そこで何を?」 
「あわわっ、シ、シルフィス!?」 
動揺するガゼルと対照的に、レオニスは全く動ぜず、 
「特別訓練だ。戻っていろ」 
「はい隊長」 
シルフィスも素直に立ち去った。 
ガゼルは猛烈に不安になった。 
「隊長・・・口止めした方が・・・」 
「何をだ」 
「いえ・・・・・・いいです」 
(隊長に言っても無駄だった。あとでシルフィスに口止めしておこう) 
シルフィスの誤解を恐れたのではない。その逆だった。 
ガゼルの不安は的中した。 
レオニスとガゼルが朝誰もいない部屋で鎖を使った特別訓練をしていた、と、理解した通りそのままを語ったシルフィスの言葉は、その後ガゼルがシルフィスに口止めするのを見た、という説とあいまって、騎士団の中に密かに一大センセーションを巻き起こすのであった。 
  
illustrated by トロワさん(トロワの壷)
  

    くだらないですね・・・前半と後半のギャップを狙ったのですが、いかがでしたでしょうか。 
    本当は、もっともっとくだらない鎖の使い方にしたかったのですが、これ以上は思い付きませんでした。 
    誰もいない鏡張りの部屋でひとり鎖鎌を振るう隊長って、怖いような笑えるような・・・ 
    隊長と鎖を使った特別訓練、ぜひ私も参加したいです(大馬鹿者) 
    トロワさんのサイトで募集していた、イラストに創作を付ける企画に投稿したものです。 
    イラストごと転載をお許しいただきました。ありがとうございます>トロワさん 
 
 
 
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