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扉の外に立っていたのは、ノーチェだった。 「ごきげんいかがかしら、シルフィス。」 意外な訪問者に戸惑うシルフィスを制して、彼女は静かに部屋に滑り込んだ。 「聞きました。騎士にはなれなかったのですってね。」 「はい…」 シルフィスは答える。単刀直入なノーチェの言葉だが、不思議と腹は立たない。 「これからどうするか、もう決めているのですか」 「いいえ。とにかくアンヘルの村に帰るしかないかな、と思っているのですが」 そう答えるシルフィスの目を覗き込むように見つめると、ノーチェは言った。 「私と手を組む気はない?」 「えっ…」 これって、悪の道に誘われてるんじゃ…、というシルフィスの動揺を見透かすように、ノーチェは笑う。 「約束したでしょう、もう、闇に生きるのはやめるって…。ねえ、シルフィス。騎士になって王家のために忠誠を尽くすことだけが剣の道ではないわ。市井の中にあってこそ活かせる剣というものも、あるとは思わなくて?」 それは思いがけない問いかけだった。確かに、たとえ騎士にならなくとも、騎士団で学んだ剣を人々のために役立てることができるはずだ。 「あの、でも私、まだ分化してないんですけど…」 「ふふ、あなたが男でも女でも、私には関係ないわ。あなたと私、志を同じくする者として、よきパートナーにはなれないかしら」 シルフィスは嬉しかった。この人は、成人しても未分化の自分を、ありのままに受け容れてくれる。この人と、共に歩んでみるのもいいかもしれない。 「さあ、行きましょう、シルフィス。この塀の外に広がる、新しい世界へ…」 こうしてシルフィスは騎士団を去った。 それから間もなく、王都には、護身のための剣と体術を、庶民、とりわけ女子供に教える道場ができた。 それと時を同じくして、昼には、喧嘩を売り歩いていたチンピラがいつのまにか伸されていたり、夜には、強盗が未然に縛られていたり、といった事件が次々と起こるようになる。 「女神の使いと見まごう、美しい二人組の剣士に助けられた」という噂がたちまちに広まった。 こうしてクラインに、また一つ伝説が生まれた。
ノーチェEDといえば男シルフィス、というイメージを壊したくて、未分化のままに設定しました。 当時の私の気持ちでは、女シルフィスと明記したかったくらいです。 王都の平和を守る女剣士。かっこいいと思います。気分はラ・セーヌの星!(古すぎ) 今なら、男シルフィスでもいいかな?とも思いますが、カップリング物という訳ではありません。 |