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それは幸せな午後のお茶の時間。 (うーん、今日のブレンドも完璧だ) 満足そうに紅茶を味わうシオンだったが、ディアーナの方は、さっきから紅茶よりもおしゃべりに夢中だ。 お昼ご飯を、メイやシルフィスと一緒に食べたらしい。 年頃の女の子が集まれば、どうせ話すことは一つしかない。 「それでね、メイったら、またキールと喧嘩したんですって」 (どういうわけか、女ってやつは、集まると自分の恋人の噂話をするんだよなー。まったく男にとっては厄介なことだ) ディアーナの話を聞きながら、シオンは思うが、表面に出したりはしない。 「メイが言うにはね、キールはいつも、自分で勝手なことばっかりして、メイがしてほしいことは何にもしてくれないって言うんですの」 「ほー、そーなのかあ?」 (キールもおんなじこと言うぜ、絶対) という心の声は置いといて、 「んで? メイがキールにしてほしいことって何なんだ?」 とりあえず相づちの代わりに適当に言ってみる。 「そうそう。シルフィスもね、そう聞いたんですのよ。でもメイは、別に具体的に何がどうってわけじゃないからって」 (そりゃあそうだろう。キールもメイも、要するにじゃれあっているだけなんだから。もっとも、恋人にそんな愚痴をこぼして回られるようじゃ、キールもまだまだ修行が足りないな) そんな内心をおくびにも出さず、シオンはにこにことディアーナの話を聞いている。 「そうしたら今度はメイがシルフィスにね、何かレオニスに文句はないの?って逆に質問したの。」 ふんふんと相づちを打ちつつ、シオンは紅茶のカップを口に運ぶ。 「シルフィスったら顔を真っ赤にして、文句なんかありません、て言うのよ、きゃあ〜」 そう言いながらディアーナも、他人のことなのに照れている。 (そうだろうそうだろう。あいつら真面目な顔して、臆面もなくのろけやがるんだよな。…ったく、真面目なやつらほど扱いにくいものはない) レオニスも、同様の話でシオンを呆れさせたことがあるのだ。 「それでね、メイがまた、じゃあ、何かしてほしいことは?って聞いたんですわ」 ディアーナの話は、まだまだ続く。 シルフィスとレオニスのことなんかどーでもいーじゃないか、と思うシオンだったが、 「シルフィスがね、いつもレオニスがしてくれることで、とーっても好きなことがあるんですって。わたくしたち、教えて!って言ったんですけど、とっても恥ずかしくて言えないって言うんですの。」 「ぶっ」 ここで思いっきりお茶を吹いた。 (なんだ、それはーーーっ! 恥ずかしくて言えないって、あーんなことやこーんなことのことか? あのおっさん、しれっとした顔でなんという・・・) さすがにそういう方面(どういう方面?)には造詣の深いシオン、たちまち様々な妄想ヴィジョンが頭をかけめぐる。 「ねえ、シオン、どう思いますこと?」 (いや、待てよ。あの二人のことだ。お互いの肩を揉んだだけでも、赤くなって照れているに違いない。そうだ。きっとそうだ。そうに違いない。) あっという間に、妄想の宇宙の彼方から戻ってきたシオンは、余裕ありげな表情でディアーナに言った。 「いいじゃないか。あの二人のことは放っておいてやれよ。」 「それはそうですけど。」 ディアーナは、ぶーと頬っぺたをふくらませる。 「なんだ、そんなにあの二人が気になるのか?」 「違いますわ。そういうことじゃなくて…」 ディアーナが不満なのは、なんとなくシオンの応対がいい加減なのを敏感に感じているからだ。 今だって、お茶を吹くほどびっくりしておきながら、興味なさそうなことを言うなんて、なんだかつまらない。 実のところ、そんなディアーナの気持ちがわからないシオンではない。 「そんなことより、ディアーナは何て言ったんだ?」 「え?」 「メイとシルフィスだけが話した、なーんてことはないんだろ? ディアーナも、いろいろ聞かれていろいろ喋ったんじゃないのか?」 「ああ、ええと、そうですわね…」 急にディアーナの口調が歯切れ悪いものになる。 「ははーん、さては俺の悪口を言ったんだな〜」 「そ、そんなことありませんわ、わたくしはただ…」 困っているというより、はにかんでいることを示す、うつむいたディアーナのばら色の頬っぺたを見て、今度はシオンを、別な妄想の波が襲うが、ここはひたすら我慢する。 「シオンのことで、言いたいことはたくさんありますのよ。やめてほしいことも、してほしいことも、たくさん」 (たくさん? たくさんてのはどういうことだ) と考えをめぐらすシオンをよそに、ティーカップを見つめたまま、ディアーナは続ける。 「でも、シオンがすることで一番好きなことは?って聞かれたから、わたくし、何気なく不意にキスされるのが一番好きですわ、って言っただけ…うふ、ちょっと照れくさいですわね」 ちょっとどころではない。 これもまた、聞かされた方が海の底に沈んでいくほどの、強烈なのろけであることに間違いない。 そう言ってからディアーナが、ティーカップに手を伸ばした時、シオンの手が彼女のあごに添えられた。 何気ない、不意打ちの、キス。 頬を紅くしたまま目をぱちくりさせているディアーナに、シオンは微笑みかける。 「お前の好きなことなら、いつだって何だってしてやるよ」 「シオン、大好きですわ」 目を閉じるディアーナに、今度はゆっくりと唇を重ねる。 それはいつもの、幸せな午後のお茶の時間。
シオンディア本のゲストで書いたものですが、すごい。今読み返すとあらゆる意味で赤面します。 ネタも恥ずかしいし、文章も硬いし。ごめんね、ディアーナ、シオン。 なのにそのままアップしてしまう大胆不敵。書き直すともっともっとお笑いに流れていくこと確実。 レオシルではできないネタなので、それなりに悔いはないです。 同じネタでも、甘いのが得意な方はもっと上手に料理するんだろうなあ。くう〜 もしかして、キルメイ設定って、今のとここれだけかも。 |