01/novembre/2000
実録・スーパーやまびこに激突した女
 
女は走っていた。階段を駆け上がる。だが、既に息は切れ、足はふらつく。
上の方で、ちゃらんらんらんと発車の音楽が鳴るのが聞こえる。
―――駄目だ…間に合わないのか…
これを逃すと時間までに東京に着けない。東京に着けないと、神戸に行けない。
東京で落ち合うはずの人物の顔が頭をよぎる。
諦めるわけにはいかない。のぞみの指定席券は自分が持っているのだから。
ようやく階段の上に出る。見れば、今まさに列車のドアが閉まろうとしている。
叫んでいる暇などなかった。
女はためらうことなく、閉まりつつあるドアに駆け寄る。
だがそれはあくまでも駆け寄った「つもり」であって、現実にはふらふらとよろめいただけだった。
左手を伸ばすと、ドアに触れた。
―――ということは、もうドアは閉まっているのだな
頭ではそう思っても、身体を止めることができない。
女の頭はそのまままっすぐドアに突っ込み、身体はホームに崩れ落ちた。
周囲が騒然とする。
「大丈夫ですか!?」
誰かが女を後ろから抱え上げる。
左の方から車掌が猛然と走ってくるのが目に入る。
女は左手を差し伸べたまま、絞り出すように言った。
「乗れませんか〜〜」
それが呪文だったかのようにドアが開き、いつのまにか複数の人間の手によって荷物ごと車内に送り込まれ、
「頭は大丈夫ですか?」と心配する車掌に向かって
「ころんでぶつけただけです〜」(←だから危ないんだろ)
と手を振り、デッキに立っていた人にも心配されながら、女は東京へと旅立った。
触ってみたら当然、前頭部にこぶができていた。(今もある)
こうして女(とその連れ)は無事に神戸のオフ会に出ることができたのだった。
(↑全然無事じゃない)
 
駅員さん、車掌さん、乗客の皆さん、もうしません、ごめんなさい〜
 
 
 
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