「勝ったのはどっち?」  片加 凪様
「ねえ、ガゼル。じゃんけんしよ。」
 突然、メイがそんなことを言った。
「はあ?」
 オレにはさっぱり、理解できない成り行きだけど、メイはとにかく急かす。
「ほら、いーから!3回勝負ね?」
「勝負って…何が?」
「はいはい、いくわよー、じゃーんけーん」

 オレの言うことはまったく無視。
 まったく、いつまでたってもマイペースだな、メイは…。
 それでも、つられて思わず「ぐー」とか出しちゃってる自分がいたりする。

「はい、あたしの勝ちね。はい、2回戦。じゃーんけーんぽいっ!」

 ちょきとちょき。

「あーいこーでしょっ!」

 5回ほどあいこをくりかえしたのち、軍配はオレにあがった。

「むう。1対1ね。じゃ、ラスト!じゃーんけーんぽいっ!」

 「ぱー」と「ちょき」。パーを出したのは、オレだから…

「よっしゃー、あたしの勝ちね〜。」
 喜ぶメイ。…それは、いいけど。

「いったい何なんだよ、突然。」
 けろっとした顔でメイはオレを見て言う。
「あれ?言ってなかったっけ?」
「言ったもなにも、突然押しかけてきて、いきなりじゃんけんしたんだろー?」
「あはは、そうだったっけか。ま、とにかくガゼルが負けたってことで、はい、これ。」
 そう言ってメイは持っていた袋の中から、小さな小さな四角い箱を出して、オレにくれた。
 手のひらにすっぽり収まるような赤い箱には、綺麗にリボンがかかっている。

「・・・・もしかして、これ、チョコレートか?」
 確か今日は世間一般にいうバレント・デーで。
 その上確か、オレはメイの恋人、のはずで。

「うん、そだよ。一応、手作りなんだからね!」
「…ありがと。嬉しいよ。」
 そう、くれたことに対しては、素直に嬉しいんだ。だけど、ちょっと待て。

「で、じゃんけんがいったい何の関係があるワケ…って、お前!
その袋の中にある大きな箱はなんだよ?!」

 しかも、どーみてもバレンタイン用にラッピングされた、ケーキとおぼしき箱。

「だって、負けたじゃん。」
「ま、負けたからって、どーして小さい方をくれることになるんだよ?
だいたい、その箱は誰にやるんだよ?ずるいぞ!」

 勢いよく言ったオレの前で、メイはべーっと舌を出して、言った。
「これはー、シルフィスにあげるんだもん。」

 メイがシルフィスと仲がいいのはわかってる。わかってるけど。

「なんで女同士でチョコやったりするんだよ?!」
「いいでしょー、シルフィスかっこいいんだもん♪じゃね!」

 そういって去っていこうとするメイを、オレは慌てて引き留めた。

「お前なー、オレはお前の恋人、だろ?」
「うん、そうだね。だから、じゃんけんで選ばせてあげたでしょーが。」

…そういうの、選ばせた、とは言わないぜ、普通…

「もー。しょーがないなー。」
 オレがすねたのを見て、メイは出口へと向かっていた体をくるり、と反転させた。
 そして。

「・・・」
「・・・じゃあ、ね。」
 ばたばたばた、と走り去っていく音。

 残されたのは、頬のくちびるの感触。

「・・・ま、いっか。」
 手のひらの中の小さな包みを開けて、オレは小さなハート形のチョコレートを口に入れた。
 じわりと口の中に広まった甘さは、しばらくほのかに続いた。
 

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