6月23日。
クラインを遠く離れたある国のある街のある小さな家で、ほんのささやかなパーティが開かれていた。
小さなテーブルには、薄紅のレースのクロス。薄い青紫の花が中央の白い花瓶に生けてある。そして並んでいるのは、1本の果実酒のボトル。2つのグラス。心尽くしの料理。
あとは主役の笑顔があれば、素敵なパーティの出来上がり・・・のはずなのだが、どうやら主役はふくれているらしい。
「むう、どーしてセイルが作った方がおいしそうなのかしら・・・納得行きませんわ。」
椅子にも座らず、テーブルの脇に立って、料理をじーっと見つめている。
「そんなことないだろう?お前が作った方だって、おいしそうじゃないか。」
「"方だって"っていうことは、自分が作ったものもおいしいって自信があるんですのね?!」
「いや、私はそんなつもりじゃなくて・・・」
「むうう、やっぱり許せませんわ。どーしてそう、なんでも出来てしまうの、セイルは。」
長い緋色の髪をすっきりと1つにまとめ、フリルの付いたエプロンを付けたディアーナはふくれて、横に立つ男を見上げる。
見つめられた男…かつては腰の下まであった流れるような水色の長髪を肩の下までに短くしたセイリオスは、やれやれとため息を付いた。
「私は万能じゃない。なんでも旨くやってるように見えていたとしたら、それは努力をしていたからだ。理想の皇太子として見られるように。・・・それが、お前の幸せにもつながると思っていたからな。」
少し、遠い瞳をして言ったセイリオスに、ディアーナはしゅんとして謝る。
「そうでしたの?ごめんなさい、セイル。」
素直さが、愛しい。
そう、セイリオスは思う。
「いいよ、気にしてない。なにより、水面下の努力を見せてはいけないのが、皇太子だった気がするしね。」
優しく微笑むと、セイリオスは次の瞬間、からかうような笑みを浮かべた。
「さて、と。では私の姫お手製の料理を彩る、最後のとっておきの1品を出そうかな。」
「え?もう作った料理はこれだけでしたわよね?」
「ふふ、実はね、こっそり準備してたんだよ。」
そう言ってセイリオスが差しだしたのは、銀の指輪。
「銀・・・」
ディアーナがずうっと持っていた憧れの王子様からもらった金と対比する、銀のそれをセイリオスはディアーナの目の前に出す。
そして。
「誕生日おめでとう、私の奥さん。」
ディアーナの左手を取って、薬指にはめたセイリオスは微笑んだ。
結婚式はないけれど。
ウェディングドレスもないけれど。
ふたりで決めたことだから。
だから、今日がふたりのWedding Day。
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