ご祝儀はみんなの笑顔で」  片加 凪様

 結婚式の招待状は、普通、格式張ったものが多いようだが、
式を挙げる当人たちが堅苦しくないとくれば、
当然、格式張ったものが届くはずもないわけで…



「ディアーナ。お前宛の手紙だ。」
 ディアーナは、自室で兄からその手紙を受け取った。
「…お兄様自ら、持ってきて下さいましたの?」
「私宛にも、同じような封書が届いていてね。気になったものだから。」

 それは、薄いブルーの封筒だった。
 差出人の名前はなく、ただ、花が一輪付いている。
 ディアーナ宛の花は、薄紅。
 セイリオス宛の花は、水色。
 おまけに、封筒に花の香りづけがされているとくれば、ふたりが思いつく差出人は…

「シオンか?」
「…ですわよね。ほかにこんな酔狂なことしそうな人って、浮かびませんわ。」
「まあ、開けてみるか。とくに危険な魔道の波動も感じないし。」

 そんなわけで開けて見れば、書いてあるのは日付と一言。
『服装指定:普段着で。かたくるしーのは厳禁!
 顔を出すだけでもいーから、絶対来ること!絶対、ぜったい!』

「なんか、この文体って誰かを彷彿とさせません?」
「…台風のような少女、とか?」
 見つめ合って、思わず冷や汗をかいたふたりである。
「…なんだか、嫌な予感がしますけど…」
「行かないと、もっと恐いよ、私は。」
「…ですわね。」
 そんなわけで、セイリオス兄妹は出席決定、である。
 

 騎士団にも、おそろいのブルーの封筒が3通。
 もちろん、宛先はレオニスにガゼルにシルフィスである。
「…?なんだ、これ?」
「さあ。花が付いてるけど…」
「……大方、シオン様だろう。」
 こちらの花は、レオニスが濃い青の花。
 シルフィスは純白の花。
 ガゼルは元気なオレンジ色である。
 せーの、で3人それぞれに開けて見れば・・・

「なんだろう、この日。なにかあったっけ?」
 シルフィスとガゼルが受け取ったのは、セイリオス兄妹のものと同じもの。
「…私のものは、内容が違うようだな。」
 レオニスのものだけ、文章が違う。

『親愛なるレオニス
いつもいつも、お前さんにはお世話になりっぱなしですまない。
この機会に、しっかり礼をしとこうと思ってるので、是非来て欲しい。
服装は、ま、てきとーにいつもの服でも着てきてくれりゃいいからな。
あ、そうそう。殿下と姫さんも来るから、剣は忘れないように。
当日、俺はそっちまで手が回らないからな。じゃ、頼むわ。』

 とこまでも人を喰った、その手紙。
 おまけに、レオニスの王家への忠誠をしっかりとふまえた上で、どうあってもその日来させよーという魂胆が見え見えなのに、レオニスには逆らえないってあたりが、極悪である。

「隊長には、シオン様からなんですね。」
「………」
 声を出せないほど、疲労を感じたレオニスだった。
 

 セリアン兄弟のもとにも、しっかりと手紙は届けられた。
「げ。それ、シオン様からだろ?捨てろよ、そんなもん。」
 見た途端、キールは言ったが、もちろんアイシュがそのまま捨てさせるはずもない。
「ダメですよ〜。ちゃんと見なくちゃ。」
 アイシュ宛の手紙に付いていた花は優しい黄色の花。
 キール宛は鋭い印象のある、赤である。
 中身は、ふたりともほぼディアーナ達と同じ。
 ただし、アイシュのものにはもう1文おまけが付いていた。
『悪いけど、アイシュ。絶対絶対、キールを引っ張ってきてね。お願い!』
 くす、とアイシュは笑って、弟の顔を見た。
「何があるのか、楽しみですね、キール。」
「俺は、行かないって。」

 何が何でも、連れていく。
 アイシュは心の中で、メイに誓った。
 

 イーリスのもとにも、手紙は届いていた。
 付いていたのは、花の咲かないグリーン。
 手紙の内容は、ディアーナ達と同じものに、付け足しがあった。

『お願いだから、来てよね?』
 これはメイの筆跡で。
『今後3回分、飲み代は俺持ちでいいから。来い。』
 こちらは、悪友の筆跡で。

 あまりにらしくて、笑ってしまう。
 

 あと2通、届けられた手紙がある。
 1つは、森の奥の屋敷の中へ。
 1つは、国外にいる元気な少女の元へ。

「お姉ちゃんからなんだね?」
「ええ、そのようですね。いかが致しますか?」
 左右色違いの瞳の少年は執事に問いかけられて、手紙に同封されていた青の花と赤の花、2輪を見つめながら微笑んで答える。
「もちろん、行くよ。だって、大好きな人が幸せな顔をしているところは、見たいからね。」

 少女は、手紙を見てひとり微笑む。
「…なーに考えてるんだか。」
 王都に立ち入ることは禁じられている少女ミリエールは、同封されていた紫の花をつまんだ。
『今度、そっちに行くからね。二人で。』
 王都を離れているミリエール宛は、そんな内容の手紙になっていた。
「ふたりで、ねえ。…やっぱり、そうなるのね。まったく。シオン様、メイを大事にしないと、承知しないんだから。」
 ミリエールは、1輪の花を大事そうに花瓶に生けた。
 その顔に浮かぶ微笑みは、ミリエールがメイと出会ったばかりの頃の、作りものの笑顔ではなく、心からの笑顔になっていた。
 

 そして、約束の6月のある日。
 普段着の招待客が集まって、シオンとメイ主催の結婚披露パーティが執り行われた。
 身分は関係なく、そこにいるのはただ、ふたりの友人たち。
「おめでとう、シオン。」
「おめでとう、メイ。」
 台風カップルがめでたく結ばれたその日、出席者一同は、心から祝福をすると同時に、心からため息を付いていたのである。
(…クライン、最強かも…)
(クライン1、はた迷惑なカップルかも…)

 それでも、友の幸せを祝わないはずもない。

(ふたりとも、幸せに。)
 

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