6月を前に、クラインの国民には各家庭に1通ずつお知らせが届いていた。
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次の日程で、クライン王国第2王女ディアーナ=エル=サークリッド姫と
クラインの誇る騎士シルフィス=カストリーズ大尉の婚儀を執り行うことをお知らせします。
期間:6月22日−24日
(22日:婚礼前夜パーティ 23日:エーベ神殿にて挙式 24日:お披露目パーティ)
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「休む暇、ありませんわね…。」
「はっきり言って、肩がこりそうだ。」
この婚儀の主役であるふたりは今、ディアーナの部屋でお知らせを仲良くのぞき込みながら、しみじみとため息を付いていた。
「結婚式って、好きな人と結ばれる式で…ふたりのためのものですわよね?」
「…そのはず、だけどね。でも、貴女は王女だから。」
「盛大な式になるのは、大人しく受け入れなさいって言いますのね?」
「…まあ、ね。」
ふう、とディアーナはため息を付いた。
「わたくしは、ただ、あなたとこれからの人生を重ねられることを喜びたいだけですのに。そしてわたくしの選んだ人生を友達が祝福してくれるのが嬉しいだけですのに、ね。」
少し考えて、シルフィスはディアーナに微笑みながら言った。
「祝福してくれる人が、私たちにはたくさんいる。そう考えればいいんじゃないの?」
「…そう、ですわね。」
「そうだよ。それに…どんな形であれ、式が済んだらようやく貴女と一緒に暮らせる。それが、私には嬉しいよ、ディアーナ。」
シルフィスはそっと、ディアーナの髪を撫でる。
「わたくしも、ですわ。…大事なのは、形じゃないんでしたわ。忘れてました。」
微笑んで、ディアーナはぎゅっとシルフィスの首に抱きついた。
「シルフィス…大好きですわ。」
ディアーナの耳元に、シルフィスはささやき返した。
「私も大好きだ。…でも、ディアーナ?愛してるって、言ってくれないのかな?」
照れて、未だになかなか「愛してる」と言えないディアーナをそっとからかうシルフィスだった。
「…いじわる。」
「言ってくれたら、止めるよ、意地悪は。」
「……」
「さて、どうする?」
「……愛…」
「聞こえない。」
「あ、あい………ああっもう!結婚してから言いますわ!」
「…しょうがないな、姫は。」
くすくすと、シルフィスはディアーナの耳元で笑い続けた。
「愛してる」なんて、本当は言葉に出さなくても伝わってることを、お互いよくわかっていた。
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そして、ふたりの婚儀はクラインの民が見守るなか、盛大に執り行われた。
ディアーナ姫の綺麗さはいつにも増して輝き、金の騎士と謳われるシルフィスもまたいつにも増して凛々しく、とても美しく微笑ましい二人の姿だった、と人々は褒め称えたのである。
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