〜招待状〜
9月21日午後3時より、セリアン家にてティーパーティを開催いたします。
是非ともお越しください。
アイシュ・セリアン
「こんな感じでよろしいでしょうか?」
書き上がった文章にもう一度目を通し、アイシュは大きく頷いた。
午前中、アイシュとしては珍しく仕事そっちのけで作成した招待状は、思いの外シンプルなものとなっている。
「あまり言葉を飾っても、裏の意味を勘ぐられますからね」
突然、ティーパーティに誘われること自体が変、というあたりまで考えが回らないのがアイシュらしいところではある。
「あとは〜、これと同じものをいくつか用意して、配るだけですね〜。そうそう、キールにも予定を念押ししておかないと〜」
王宮は女官たちも多く勤め、華やかな場所である。ボーッとした外見はともかく、気配りが出来て優しく、お菓子作りも上手いとなれば、意外と女性に人気のあるアイシュであった。
だが、ふと思うのは弟キールのこと。研究が恋人とでも言いかねない勢いで没頭する様子では、恋人との出会いがあるとは言い難い。
このままでは、キールの老後は寂しいものかもしれないと危機感を抱いたアイシュだが、いきなりお見合いパーティというのも変である。
とにかく研究一筋で友達少ない人だから、とりあえずは友達の輪を広げるところから始めようと、ティーパーティーを企画。まずは気心の知れた女性同僚数人に声をかけることにしたのだが……。
「これは何だ?」
シオンは王宮の廊下に落ちている紙片を拾い上げた。二つ折りを広げて、中に書かれた文字を読む。
「招待状……? ははぁ、これは面白そうだな」
ニヤリと笑い、シオンはその招待状を懐にしまった。
「キール……って、どしたの? いつにも増して仏頂面して」
バシン、と小気味よい音をたてた肩をさすり、キールは振り向く。
「手加減しろよ、メイ。それに、なんだよ、その『いつにも増して』ってのは」
「いや、ごめん。あはは、いつもより眉間のしわが多いよ? どうしたのよ、このメイさんにどーんと相談してみ?」
んー? とキールの顔を間近に覗き、メイはニッコリ笑う。
「いや、別に……」
「ふふん、別に、なーんて顔じゃないわよぉ。……って、あれ、その紙何?」
キールの手に握られている紙に気付き、キールが隠すより一瞬早くメイはその紙を取り上げる。
「なになに、招待状?」
「バカ兄貴が、また変なことを始めたらしい」
メイから招待状を取り上げ、クシャリと潰して机の上に放り投げる。
「ふーん、ただのお茶会じゃない、どこが変なの?」
その丸めた招待状をメイは拾い上げ、肩をすくめて見せた。
「突然お茶会を開くなんて、変じゃないか? 何か下心があるに違いない」
長いつきあい、気心も知れていれば、考えそうなことも予想が付く。
「そうかなぁ」
ボール状の紙を手のひらで転がし、メイは小首を傾げる。
「まあいい、行く気はないからな。元よりその日は都合が悪い」
キールは招待状をあらためて取り上げ、今度は屑籠の中に放った。
「あれ? どうして?」
「お前の誕生日だろうがっ。自分の誕生日を忘れるなよなっ」
「あ、あはは」
「その日はお前と一緒に過ごす。だから、欠席決定」
照れて視線を泳がせながら、キールは言った。
「えへ、嬉しいっ」
メイに背中に抱きつかれ、キールは狼狽える。
「ばっ、離れろよ、暑苦しい」
「ふふーん、やーですよーだ」
嫌そうな顔を作ろうと思いつつ、思わず苦笑を漏らすキール。
兄の心配を余所に、ちゃっかり職場恋愛(?)を謳歌している弟なのであった。
さて、アイシュのティーパーティ当日。
「シオンさま、こちらのケーキ美味しいですわよvv」
「あら、シオンさまにはこちらがよろしいですわvv」
「ちょっと、狡いですわ。私のも食べていただかないと。ね、シオンさまvv」
お茶会は盛況だったが、どうにもアイシュの思惑とはかけ離れている。
「どうしてシオンさまが? それに、肝心のキールも来ないし。どーなっているんでしょう〜??」
がっくりと項垂れるアイシュの視線の先に、ティーパーティに正規に招待された女官たちに囲まれて、招待されていないはずのシオンが満面の笑みを浮かべていた。
「まあまあ、みーんな少しずついただくから、喧嘩しないようにな〜☆」
その様子を眺めつつ、アイシュは一際大きな溜息を吐いた。
沙月さんのサイトの7周年記念企画でリクエストして、書いていただいた作品です。
今回のテーマ映画は「間宮兄弟」。
女性と出会う機会のない兄のために弟がカレーパーティーを開くシーンをもとに、セリアン兄弟でリクエスト。
楽しくアレンジされた展開になりました。がんばれアイシュ!
沙月さん、ありがとうございました。
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