*好奇心ブック73〜 グレートメカニック1〜14(01/10〜 定価各980円、続刊中)双葉社刊


正確にはマクロスMOOKではなく新旧を問わずアニメメカ全般を解説する存在考察本。
何故か英語の表記はグレートメカニクスなんだがカタカナ表記はグレートメカニックになっている。
1では時代背景も含めたマクロスメカ論のテキスト記事、2ではVFシリーズ総解説
(歴史、運用、考察などを含みダイジェスト的に各機体の図版が入っているが、
図版が模型的に揃わないのでカタログ的な使用しかできない。)
3ではデストロイド総解説の特集記事が組まれている。
この本、ガンダムを中心にアニメメカにSF考証を付けていく考証本らしいのだが
科学/軍事兵器/工学、いずれにも詳しくない人が書いているらしく、素人目にもおかしな記事が多い、
また元の作品についてもよく知らないらしく、論が成立しない記事も少なくない。
とくにマクロスに関しては全体に事実関係の認識の間違いが目立つうえ、
オフィシャルな設定や説明でコンセンサスを得ているようなことまでガンダム式で
独自のSF考証を繰り返すため異説というより「誤り」と呼んだ方が正しい。
特に1に収録された「マクロスのデザインはなんだったのか?」の記事はほぼ妄想と
憶測の集大成なので決して納得しないように。たしかに当時のアニメブームの雰囲気なんて
少々調べてもわかるもんじゃないが、「懐かしモノで適当に記事を書いたれ」の典型。
これで書かれているガウォークの発明ゆえにマクロスメカは云々に言及すると
鳥足メカがレギュラーに登場するのはザブングルから、ゲストメカではゴーディアンやゴールドライタン
の敵メカ(この二つは河森メカ)ですでにTVに登場しているし、古くはガッチャマン/タイムボカンなどの
動物メカでも存在している。いってしまえば動物を範に取った有機的なメカという発想は
それほど特殊なアイディアであったわけではないので、ああ鬼の首を取ったように騒がれると
読んでいる方が恥ずかしくなる。もちろんさらに加えるなら毎度の誤認ながらVF-1は
F-14等の現用戦闘機からデザインされたのではなく、企画が路線変更したため、ダイアクロン調の
メカロボだったものを現用兵器風にいじった結果、三胴式のジェット機風になったにすぎない。
(プロメテウス、マクロスも同様、最初は遠未来調のアニメメカ然とした設定で
ガ・キーンの母船の如きデザインでマクロスそのものも顔まで付いたまさにダイアクロンだったものを
シリアス路線に変更後、現用兵器風にいじってある。これらは各種資料、インタビュー記事から論証可能。)
F-14に似ているといってもゼロ戦やSR71やB29より似ているという程度の類似しかない。
(長谷川の旧金型でいいから作って並べてみれば全然別物なのがわかる。)
従って、現用兵器のデザインから発想されたアニメメカ云々のくだりも全てデタラメな妄想。
同時にこの筆者はガンダムに端を発するアニメメカのミリタリ化の流れを全く理解していない。
(昔よくあった、ただ現用兵器をコラージュしたような機能/構造不明なメカが闊歩するなか、構造や機能を
理解した上でデザインを行う事ができた河森正治(+他、アニメファン出身のデザイナー)が飛び出してきた歴史であり、やがてこれは関節構造等の、
子細な機械的な構造や作品世界のテクノロジーや歴史をもメカデザインに盛り込んで行く近代的な流れへと繋がる。
言い替えれば、アニメを職人的に作っていた普通の大人の仕事を、それを熱狂しつつもある種の欲求不満を抱えながら
応援/支持していたマニアックでオタクな子供達が駆逐していく歴史で、非常に精密で高度なものになる一方、
メカアニメそのものが、より間口の狭い特殊なゲットーのおもちゃになっていく弊害を産むんだけど
恐ろしく長くなるので、割愛。)
もっともこの記事ではVF-1のデザインベースはF-15らしいから、最初から
お話になりません。インタビュー記事もあたかも本人から直接取得したように
見えるが、いずれも筆者の勝手な論旨に沿って都合のいい部分を
既成のインタビュー記事から抜き出しただけの可能性もあるので全く信用ならないのでまずは疑ってかかるように。
3のデストロイド特集はあいかわらず下調べの悪い思い付きに近いの記事乱発で、
コンバージョンの三種にスパルタンを加えて4種とも同一ベースの機体と見なすなど
(公式設定でも別の会社が別途に開発したことになっとるのよね。)
普通の資料で読み取れる設定も理解できていないようだ。モンスターと称してケーニッヒの図版を載せる
(後ろからの図版はちゃんと元祖モンスターなので、もはや同人誌以下。)に至っては
ここの編集部がいかにデタラメか分かるというもの。この本の執筆者陣はかなりのマニアを自認しているだけに
こちらが感じる痛いさは並み大抵でない。例をあげればキリがないが、従来の戦車は主砲を上に向けられないので
デストロイドが開発された云々の件(注釈3)はつっこみどころ満載で飽きない。
戦略概要図もなんだか戦国時代の合戦なみの発想でお子さま騙しな内容。
これで納得出来てしまうのなら、あまり兵器や戦争について語らない方がいいかも。
筆者はこの本のデストロイド運用法云々より、デストロイドを主戦場までどうやって運ぶか、
というか、そもそもデストロイドはどういう環境での運用を想定して開発されたのかが、
昔からの悩みなのだが。まさか焼き付くされた荒野の平地を前提にしているわけではないだろうし。

余談ながら、この号のオーラバトラーの俺解釈なんかも本家本元の宮武氏が最近、MG誌の特集で
語った世界観と比較するといかに付け焼き刃で思慮のないものかよくわかる。(下の注釈1を参照されたし。)
もちろんこのGM3の記事はMGの特集よりも数カ月後だから、この本の記事がまともな下調べを
やってないことの一例であるのはいうまでもない。
個人的にはこの辺の記事を鵜呑みにしたお子さまが大発生しそうでとても怖い。

また、この本に限らず近年この手のSF考証記事でみられる傾向なんだけど、ある種の
ガンダム中毒が蔓延している節があって、このシリーズでは特にそれが強いように思われる。
ガンダムの世界観や設定は出発点の状態が(商業的な理由やスタッフの知識、時代の所為もあって)
元々穴だらけで、これを愛ゆえに後のファンなりスタッフなりが増改築を繰り返して、
現在のそこそこ整備された状態があるわけなんだけど、その結果、
無理矢理な力技や超えられない構造的な欠陥を内封してて、
いわばD51を改造してスペースシャトルにしたようなモノというか、
築50年の木造2階建てにリフォームを繰り返して5階建ての鉄筋ビルに(見えるように)したモノなんですね。
もちろんガンダムに関してそういう風にしちゃった人達とそれを応援した人(筆者を含めて)の気持ちは凄く分かるし、
それはある意味でファンとサンライズ(+バンダイ?+MG誌?)の血と汗と涙の結晶と言えるんだけど
ガンダムそのものの世界観やSF設定をスタンダードなものと見たり、ガンダムを基準に
他の作品のSF設定を測ったり、ましてやガンダム世界で行われたように設定を拡張したりするのは
言い換えれば5階建てガンダムビルを基準によそのビルのことを云々するようなもんで、
甚だ筋違いなんですね。

4〜5にはマクロス関係の記事はほとんどなく、心静かに読めるのだが、
4は「MSは戦車と比べものにならないくらい強い」5は「可変MSとドダイ系の飛行機に乗ったMSは
飛行機と比べものにならないくらい強い」という内容なので、普通のガンダムマニアも笑っていられない。(注釈2)
確かにガンダムメカのSF考証をするのは困難だとは思うけど、
真剣にやるならAMBACくらいの面白い嘘を組み立てられないと、お子様に鼻で笑われます。
またコレとは別に5のほうには長谷川YF-19のキットレビューが載っていて、うちの予想通り「可変機として物足りない」
の評。あれで不満な方は復刻版VF-1を大量に購入した上でバンダイに手紙でも書いてください。
なお、あそこで持ち上げられているステルス調パネルラインのほとんどはプラスムックなどですでに公開されている
詳細三面図や公式設定に沿ったものなので模型独自のものではありません。これも揃ってライターの
勉強不足というやつなので、次回はマクロス関係の基本的な資料だけでも当たってから書いて下さいませ。
長谷川のキットは一貫して設定を徹底的に下調べした上でキット化していて、独自解釈の部分は
非常に少なくなっております。はい。(分からないところはわざわざ河森氏に聞いてたりしてます。)

またF-22(実機、ラプター)はF-15を滑らかにしただけなんだそうだが、これも1の記事と同様、
二式大艇やコンコルドやF-104よりは似ているというレベルの話なので、恥をかくのが趣味の人以外は
努々友達の前で言わないように。
(どうでもいいけどここのライターは現代の戦闘機をF-15しか知らないのではなかろうか?
誰か止める人はいないんでしょうかね。)



注釈1:当該記事で宮武氏はダンバインのようなまだ歴史が浅くて、実際に戦闘が絶えまなく起こっている状況では
(エングレービングや貴金属を象嵌する等の)装飾的な要素はなりを潜め、より実用的な簡素で効率重視のデザインであるはずで
ヨーロッパの甲冑や日本の鎧兜に見られるそういった装飾的な要素は戦乱が一段落して文化的にも
熟成し、技術/人材的に余剰が生じないと出て来ないとして、過去の装飾的なオーラバトラーの解釈を否定している。
ヒロイックファタジーだからなんでもかんでも無分別に中世ヨーロッパ調にすればそれでいいという考え方と
どちらがリアルだろうか?


注釈2:もはや寝言の領域なので個別の言及を避けるが、もしそういう(戦車や飛行機を凌駕する)MSを
開発できるテクノロジーがあるなら、MSよりも効率的で安価な(従来の能力を遥かに超えた)超戦車や超飛行機が
開発できないとおかしい。戦車の死角に走り込む事ができるほどの機動力を支えるモーター等の動力が
あるのなら対空戦車のように駆動する大口径砲を積んだ戦車が開発できるし、あれだけ繊細で複雑な構造の
可変MSを空気抵抗を跳ねのけて変型することができる推力と構造が得られているのなら、戦闘機も現代のものとは
全く違う「大口径砲の弾丸も弾き返して超機動を掛けてもバラバラにならないもの」が可能になるはず。
(乗ってる人間様がどうなるは別として。)つまりあそこでの論は現代のテクノロジーによる飛行機、戦車と
未知のテクノロジーによるMSを比較してる典型的なダブルスタンダードなので論もへったくれもありゃしない。
そもそもガンダム世界をこの観点で考証しようとするのは
(なぜ、戦車や戦闘機でなくて人型巨大メカでなくてはいけないのかという問いは、)自殺行為なので
ガンダム放送当初から鬼門になっていて、分かっていても突っ込まないのが礼儀だったんだけどね。
あの時代のガンダムの存在ってこういう変な考証で補強しなくても十分凄いと思うのだが、
やっぱ中島みゆきの「世情」は不滅ってことなんでやんしょうか?

注釈3:身長10mの巨人の載る兵器と戦闘するに当たって、砲身を上に向けなくていけない戦車は
どんな距離で打ち合うのだろうか?
現実の戦車の最大射程距離は90年代ですでに数キロにまで伸びており、不整地を移動しながら、
なおかつ移動している目標を高い精度で射撃できる。しかも打ち出された弾頭は放物線を描く為、
砲身はもとから上向きに補正されているため、目標の高さが2mでも10mでも大して問題にならない。
(ものは試しで1/100で図を書いてみればどれくらい角度が変化するかよく分かる。)
戦車が数十メートルぐらいの相手をはっきり目視できる距離で弾をかいくぐりながら打ち合うと
いうのはアニメ的錯覚に過ぎない。だいたい上に向けられるだけで対異星人兵器が成立するなら
上に向く戦車を作ればいいだけの話。
(03/7/28 若干改稿)

追記03/7/30:もし放送当時のマクロスがどういう存在でどういう受け取られ方をしたのか
知りたいのであれば、ラスカルにしお女史による以下のサイトの「ロボアニ千本組み手」の
マクロスの項を参照すべし、よくも悪くもマクロスの本質を正しく言い当てているテキストはほかになく、
80年代ロボットアニメ評論としてもこれ以上のものは読んだ事はありません。
こころよりその才能を嫉妬申し上げます。

やめてけれメカニクス

(関係者各位様へ:リンクフリーとのことなので、連絡なしで繋げさせていただきました。
もしお気に触りましたら御一報くださいませ。)

追記2004/9/21:グレートメカニック14号では伝説巨神イデオンの特集が組まれとるんですが、
A/B/Cメカの名称が「イデオ・デルタ」「イデオ・ノバ」「イデオ・バスタ」
に加えて「イデオ・アンバー」「イデオ・バニア」「イデオ・コンバー」って書いてあるんですが、、、、
(ほんと編集者は全くチェックせんのか?つうかイデオンを知らないのなら特集するなよ。)
もっとも劇中では「ソル・アンバー」「ソル・バニア」「ソル・コンバー」って呼称は
ほとんど使われてなかったような気がしますが、毎度のことながらこの程度の基本設定なんか
どの資料にも載っているだろうに、、、、、。呆れ果てるというか、毎回、毎回、デタラメ大行進で
恥ずかしくないですが?


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