音量に幅を持たせる
〜 想い出の樹2007.8.05より 〜

音量の幅。
よく使用される記号は、ピアニッシモからフォルテッシモまで。
でもね、いつも思うのです。
これは
相対的なものであって絶対値ではないと。
ようは、そのように感じればいい話。

例えばピアノの音楽に出会ったとき。
ちょっと歌いたいなぁと思って抑揚をつけると、
あっという間にフォルテの音量にまで達してしまう。
その結果、押し付けがましいうるさい音楽になる。

例えばフォルテの音楽に出会ったとき。
最初から最後までフォルテで演奏してしまい、
聴くものの耳が強音に慣れてしまう。
慣れるということは、フォルテに聴こえないということ。

でも、自分に出せる音量の幅は限られています。
一体この決められた幅を、
どのようにしたら広く無限大に感じられる演奏になるのか?
何も考えずに、ただ大きく、ただ小さくと弾いていたのでは、
感じられる音量の幅は狭くなる一方です。

ピアノは、右手・左手と2本の手を使います。
左手が受け持つ低音の弦は太くて長く、
右手が受け持つ高音の弦は細くて短い。
このことを知るって、とても大切だなぁと思うのです。

例えば、右手に10段階の音量の幅。
左手に10段階の音量の幅があったとしましょう。
左右合わせると20段階の音量の幅が持てるようになるのです。

極小さい音で演奏したい。
でも、少し抑揚をつけたい。
だけど、どうしてもうるさくなってしまう・・・。


そんなときは、是非右手だけで抑揚をつけみてください。
左手はがまんがまん。



もちろんメロディが左にきている場合は、
逆でも構わないのです。
その場合は、右手をがまんがまんです。

テクニック的に難しいのは、
このがまんがまんの手が、
歌っている方の手に流されないこと。
このように
左右全く違う音量で弾けるということは、
表現の幅を広げるために、どうしても必要なことです。
 
→このテクニックを身につけるための練習方法は、
  ミューズクリニックのこちらをどうぞ。


長い長いクレッシェンドなのに、
あっという間に最高音量に達してしまう。
昔よく先生に言われました。
「もっと計算してクレッシェンドしないと。」
でも、自分の持てる幅は決まっています。
気持ちが高揚するとあっという間に最高点に達してしまう。

それは計算の方法がわからなかったから。
両手一緒くたに考えていたので、
自分の持てる幅がとても狭かった。
その狭い段階の中で計算するには限界があったのです。

低音の弦は太くて長い。
高音の弦は細くて短い。
このことを利用すれば、長い長いクレッシェンドが可能になります。

最初は右手でクレッシェンド。
そのとき左手はまだまだがまんの子。
少しずつ左手を加えていき、
最終的に両手でフォルテシモ。


どこまでも無限に大きくなり続けるのではないか・・・と思わせる、
そんなフォルテシモになります。

この方法を応用させていくと、
いくらでも音量に幅を持たせることができてきます。
右手と左手・・・と2本だけに分ける必要はないからです。
内声と外声がある。
左手でバスと内声の両方を受け持っていたのであれば、
そこで変化をつけることが可能になります。




上の楽譜のような音型が長く続くクレッシェンド。
こんなのはどうでしょう?

最初はバスのドだけで少しずつクレッシェンド。
次第に内声の「ミソドソミ」の音量を上げていく。


ぼやけていた内声がはっきりしてくるだけで、
すごいクレッシェンドを感じるものです。
このように、左右の音量に変化をつけられるというテクニックだけではなく、
片手だけでも使用する指によって音量に変化がつけられるということ。
音色の変化も多様性を増しますし、
音量の幅もグンッと広がるのです。



【他の指に影響されない指を作る練習】

たぶんみなさんやっていることだとは思うのですが・・・。





別にハノンじゃなくてもいいのです。
今弾いてる楽曲の一部を使ってもいい。
大切なのは
「差をつける」ということです。
アクセントにくる次の音が重要です。
大抵の人は、アクセントに流されて次の音も大きく弾いてしまう。

練習の目的を”他の指に影響されない指を作る”ことに置くのであれば、
アクセントに流されたまま弾き続けていても練習になりません。
指は強くなるかもしれませんが、
指のコントロールまでは身につかないのです。

指のコントロールを身に付けたいのであれば、
アクセントの次にくる音を意識的に弱音で弾けなければなりません。
差は大きければ大きいほどいい!
私は生徒さんに”かすれるくらいの音”で構わないと言っています。
とにかく前の指に流されないこと。これが重要です。

すぐに早く弾きたくなってしまうものですが、
まずはゆっくりから。
大切なのは確実に音量に差をつけることです。
音量に差があまりないまま速く弾いても練習の意味がありません。
目的は速さではなく
音量に差をつけることです。




上の楽譜のように重音が続く長いクレッシェンドに出会ったら。
すべての音を同じようにクレッシェンドしていったのでは、
3小節も弾けば最高点に達し、あっという間に息切れしてしまうでしょう。

最初はすべての音量を等しくして極小さい音で。
次に最高音の「ド」を少しずつクレッシェンド、
それから最低音の「ド」を少しずつクレッシェンド。
最終的に内声を加えていく・・・。


こういう方法をとると、壮大なクレッシェンドになります。
この場合、必要となるテクニックは、
重音をそれぞれ異なる音量で弾けるということです。
それができずに、いきなりこのようなクレッシェンドをやろうとしても無理でしょう。
まずは、単純な練習をお勧めします。


【@最高音「ド」だけ大きく弾く練習】

右手だけで練習します。
「ミーソード」とずらして弾きます。
ミとソはかすれるくらい弱く、ドはしっかり大きく弾きます。
最初はゆっくりずらします。
それで確実に音量の差が出るようなら、
少しずつずらしを速くし、アルペジオのような感覚で弾いていきます。
速いアルペジオでも、確実に音量に差がつくようなら、
同時に「ミソド」の和音を弾いてみます。
ずらして弾いたときの指の感覚を思い出しながら弾きます。

どんな指でも、出したいと思っている指の付け根がしっかりしていないと、
他の指に流されてしまいます。
また、出したいと思う音の指をしっかり意識してつかむのもコツの1つです。

【A最低音の「ド」だけ大きく弾く練習】

左手だけで練習します。
基本的に@と同じ方法ですが、
この練習方法にはルールがあります。
強く弾きたい音を一番最後に弾くということです。
なので、この場合は「1指→5指」という順番で、
「ドードー」と弾くことになります。
1指を極小さな音で弾き、5指のドをしっかりした音量で弾きます。
あとは@と同じです。

この方法は、内声に出したい音がきているときにも使えます。
その際もルールは一緒。
弱い音から弾きます。
例えば上の楽譜で、内声の「ミ」を一番大きく弾きたいと思ったら、
「ドーソーミー」と練習することになるのです。
ドとソは極小さい音で、ミをしっかりと弾きます。
内声にメロディがきている場合、
この練習方法は絶大な効果をもたらしてくれます。