音色(1)
〜 タイミングによる音色の変化 〜

ピアニストの演奏を聴いて、「なぜ1台のピアノでこんなにいろんな音色が聴こえてくるんだろう?」と思ったことはありませんか?ピアノは誰にでも簡単に鳴らすことのできる楽器です。それは猫にだってできること。ただ鍵盤を押さえればいいだけのことなのですから。しかし、鍵盤の上を歩き「ピアノを鳴らす」だけの猫に、ピアノの魅力を引き出すことはできません。鳴らそうと思えば誰にでも簡単に鳴らせるピアノを、ピアニストのように豊かな音色で演奏するには、どうしたらよいのでしょう?

試しに、隣合った音のない、たった1音を全音符分鳴らしてみましょう。(ペダルは使わないでください)一体いくつの音色を作ることができるでしょう?音量以外の変化を感じ取ることはできましたか?隣り合った音のない単音を全音符で鳴らしてみたところで、音量以外の変化は物理的につけられないのです。

それでも私はピアノを演奏する際、この「音色」というものに非常にこだわります。本当は「気持ち」だけで音色に変化がつけられればいいのですが、それには限界があります。よほどの天才で、音色に対する感覚と指先が非常に優れている場合は別でしょうが、普通の人間には(笑)、ただ感覚だけで音色を求めても限界があると感じています。少なくとも、私には限界があります。

このように、「どのような音色で演奏したいのか?」という具体的なイメージがあったとしても、そのような音色を実現させるのはとても難しいことです。「どうしたらそのような音になるのか」ということがはっきりわかっていなければ、天才でない普通の人間には、そのイメージした音を実際の音にするのは難しいことなのです。

楽譜から音楽を読み取ったとき、様々なイメージが湧き上がってきます。その気持ちを大切にした上で、これから先の話を読んでください。かなり理屈っぽい話になってしまいますが、これらは「私はこういう演奏がしたい」という感性があった上でのことなのです。これからお話することは、自分の中にある「感性」をピアノを通して実現させるためのものなのだとご理解ください。



音楽は1音では成り立ちません。隣り合った音があるからメロディやハーモニー、リズムや拍子感が生まれるのです。ピアノの「音色」もそれと同じです。音楽を奏でようと思うから、様々な音色が生まれてくるのです。では、単音を全音符で鳴らすだけでは音量以外に変化をつけられなかった音に、どうやったら「音色」を与えることができるのでしょうか?

ピアノの「音色」は、一言でいうと「錯覚」です。そんな風に聴こえる・・・という錯覚なのです。単音では全く変化しなかった音色は、この錯覚を利用することで豊かな「音色」へと変貌を遂げます。


(1)タイミングによる音色の変化

音楽には拍子があります。拍子ぴったりに音がくるのか、それともちょっとゆっくり目に入るのか、拍子に突っ込む感じで音が入るのか。これによって聴こえてくる音色も変わってきます。

柔らかい音色で演奏したいとき、私たちは指を寝かせ、指の腹で演奏します。指の腹についた柔らかい肉が、鍵盤を押さえるタイミングを少しずらしてくれるのです。実際の拍感より微妙に遅く発音されるため柔らかい音色、もしくは深みのある音色に聴こえてきます。

鋭い音で演奏したいと思うとき、私たちは基本の手の形より指を立てて指先で演奏します。指の腹とは逆の行為です。そして鋭い「イメージ」が、鋭く鍵盤を押さえさせます。発音のタイミングが拍感より微妙に早くなることにより、鋭い音に聴こえてきます。

これはたった一つの和音を奏でるときにも使います。柔らかく深みのあるフォルテがほしいとき、微妙にタイミングを拍感より遅らせてみてください。逆に、鋭く荒れ狂ったようなフォルテがほしいときは、タイミングを拍に突っ込んでみます。あとは「具合探し」です。ただし、このタイミングのずらしは「微妙」でなければ、大きく拍感からずれておかしく聴こえてしまいます。

また、こういった音色の効果は、隣り合った音同士の関係や、これからお話していく他の錯覚方法との複合で成り立つことが多いので、一概に「荒れ狂った音がほしい場合は、突っ込めばいいのだ。」とは言えません。音楽は隣り合った音同士の関係があって成り立っているのだ・・・ということを忘れないでください。

私は、こういうことに考えを巡らせていると、イメージと実際の動きに共通点を見出し感動します。イメージとこの錯覚に対する理解力が融合して、様々な音色の変化を身につけることができるのでしょう。

次回は「バランスによる音色の変化」です。