音色(3)
〜 切り方・繋ぎ方による音色の変化 〜

今回は、音の切り方・繋ぎ方による音色や響きの変化についてのお話です。「余韻」のときに、この切り方を意識できる練習方法を取り上げました。今回は、簡単な実験を通して音色(響き)の違いを感じてみましょう。



以下の3通りを、同じ音量で実験してみてください。

@できる限り短く切って演奏してみましょう。
A4分音符の4分の1くらいの短さに切って演奏してみましょう。
B4分音符の2分の1くらいの短さに切って演奏してみましょう。


いかがですか?「音色」を感じるよりも、「響き」を感じて弾く方が違いがわかるかもしれません。音色の変化は、響きの変化でもあるからです。音が長くなればなるほど、柔らかい響きになりますね。もしくは、音量によっては「重たい」響きになるかもしれません。逆に、短く切ると非常に鋭い音色になりますし、響きのよいホールでピアニシモで演奏すると、それはそれは美しい可憐な響きになります。

ちなみに、このたった2小節を楽しく音楽的に演奏しながら実験していただくために・・・。できる限り「4拍子」を感じて実験してみてください。生き生きとした4拍子で実験をすると、さらに響きの違いを感じることができると思います。拍子感をもって演奏すると、それぞれの音の長さが自然に異なってくるものなのです。(しかし、物理的に頭で1つ1つの音の長さを同じにしたり違えたりすることは困難ですし、音楽からかけ離れたことです。)同じ@の短さに切ったとしても、「ドレミレ」という4つの音の長さや強さは、拍子を感じることで微妙に異なります。これが「生きた音楽」です。機械にはとても真似のできないことだと感じます。

次にレガートのお話をしましょう。基本的にバロック・古典派時代のレガートとロマン派以降のレガートでは奏法が異なってきます。バロック・古典派のレガートは「音と音が切れていない」という程度のもの。ロマン派のレガートは、音と音が微妙に重なり合うレガートです。



青い線はそれぞれの音の長さです。この青い線は、次の音にバトンタッチしながら進むレガート。切れ間もなければ、音と音が重なり合う瞬間もありません。ピアノを習いたての頃に習う「レガート」ですね。テクニック的には、腕は使わず指でのレガート・・・と考えたらよいかもしれません。

次の青い線は、ロマン派以降の基本的なレガートです。



赤いは、音と音が重なり合う部分です。この重ねる長さによっても音色や響きが変わってきます。テクニック的に言うと、重心の移動による奏法です。先程の奏法と違うのは、指だけではなく腕の重さを移動させる点にあります。ただ、場合によっては指だけで演奏した方が効果的な音色を演出することができます。それは、自分がその楽曲をどのような雰囲気でどのような音色で演奏したいかによるのです。

これは、どちらにしても「意識」しながら演奏するということが難しいです。最初の奏法にしても、指がどうしても鍵盤に残ってしまい「音が重なってしまう」ことがあります。特に小指や親指は鍵盤から離れにくいものです。とはいえ、逆に「わざと重ねよう」と思うと重なりにくい。意識するって難しいですね。しかし「意識」することによって、欲しい音色が確実に得られます。「なんとなく鳴っている音」がなくなるのです。そこには「こう演奏したい」という説得力と、意識された美しい音色や響きがあります。

ちなみに、どちらのレガートも基本で時代区分しましたが、「こういう音色や響きが欲しい」と思ったとき、例外もあるのだということを忘れないでください。バロック期の音楽には、わざとある1音を伸ばす奏法もありますし、ロマン派の音楽のレガートがすべて「重ねなければならない」わけでもないのです。あくまでも「基本」であり、例外があってこそ「表現に深み」が出てくるのだろう・・・とも感じます。

最後に、微妙に切れてる・・・というタッチについて。私はこのタッチが大好きで、バロックや古典ものの演奏には多用するクセがあります。ポロポロッとした美しい響きが得られるからです。ショパンの速いパッセージなどにも使える音色です。



赤い四角の部分が、微妙に音が切れる部分です。本当に微妙に切ります。明らかに「切れている」と感じさせない程度に切るのがコツです。一粒一粒が立った音に響き、上手くいくととても美しいパッセージが弾けます。これは特に親指がとても難しい。指が残らないように、「指を鍵盤から離す」という意識がとても強くなければできない奏法で、1本1本の指への意識もかなり強く持つ必要があります。

音を鳴らす瞬間は、誰でも「こう弾きたい!」とある程度意識しているものです。しかし、一番単純な単旋律で音色を考えたとき、最も音色に命を吹き込むのは、この「鍵盤から指が離れる瞬間」なのです。