音の余韻

前回のフレーズに続いて、「美しく歌うため」に必要な感覚。それが「音の余韻」です。言葉をかえるなら「音の切り方」となります。前回例に出した尻もちをついてはいけないフレーズ最後の「ド」。このドの音の切れ方ひとつで、美しさや表情が、がらりと変わってきます。全く余韻なしに音を切りたいのでしょうか?それともすぅっと余韻を感じながら音を切りたいのでしょうか?音の余韻というものを全く意識せずに感覚だけで弾いている演奏は、荒っぽい演奏に聴こえてしまうものです。

例えばスタッカート。「音を切る」にもいろいろな長さが考えられます。どの程度の長さがその曲にふさわしいのか、自分の求めているスタッカートなのか。アチッとやけどしたときのようにすばやく指が鍵盤から離れるスタッカートから、わずかに音の余韻を感じる程度のスタッカート、テヌートスタッカートのようにその音符の長さよりわずかに短いスタッカートまで。あらゆる種類のスタッカートがあります。音の切れ方ひとつで、聴こえてくる音色も変わってきます。柔らかで含みのある音色が欲しいのであれば、「音の余韻」をしっかり感じて音を切らなければなりませんし、はぎれのよさが欲しいのであれば、瞬間的に指を鍵盤から離さなければなりません。

では、「音の余韻」を感じるような切り方をするには、どうしたらよいのでしょうか?まず、1音だけ3の指を使って鳴らしてみてください。全音符分、音の響きを十分に感じたら、ゆっくりと指を鍵盤から離していきます。ピアノ内部では、弦を開放していたダンパーが徐々に弦に触れていき、弦の振るえを止めていく・・・という動きが行われています。このダンパーの動きをよく感じることが大切です。振るえている弦に一気にダンパーが触れると、音は余韻を感じずに即座に消えてしまうのです。余韻が欲しいのであれば、徐々にダンパーが弦に触れていく必要があります。

この練習には、2種類の方法があります。まず第1の練習方法は、手首を使った動きです。基礎テクニックで私が「ゆうれいの手」といっている動きをします。基本の手の形から、徐々に手首を上げていき(これがゆうれいの手の形)、最終的に指が鍵盤から離れていく・・・という方法です。基礎テクニックBのビデオをご覧いただければ、動きから「余韻」を感じることができるのではと思います。徐々に指が鍵盤から離れていく様子が見られます。Bのビデオに見られるテンポ・動きは、4分音符のテヌートスタッカート程度の余韻・・・と言えるでしょう。

次に第2の練習方法です。指をコントロールする集中力が第1の比ではないほど必要になってくるので、非常に難しい練習といえます。しかし、鍵盤の「重さ」、指への意識を確認するには、最高の練習方法です。この練習方法では、「鍵盤の重さの把握」「指の独立」「指のコントロール」が習得できます。鍵盤の重さを感じて指をコントロールするということは、音の余韻を思ったように演出できるようになるということでもあるのです。



一瞬わけのわからない楽譜に見えるかもしれませんが、単純です。いずれの音も2分音符分伸ばしているのです。8分音符をタイで繋いでいるのは、それぞれの8分音符に鍵盤内で感じなければならない「ルール」があるためです。

1.1つ目の8分音符

その音を弾く。その際必ず他の指を上げないでください。他の指はすべて軽く鍵盤に触れた状態になっています。音を弾いたはずみで、他の指が鍵盤から離れることのないように注意が必要です。

2.2つ目の8分音符

1で弾いた音を伸ばしたまま、その指でさらに鍵盤を深く押さえます。音は1の状態で伸びたままなので、音色にはなんら変わりありません。ここで必要なのは、さらに鍵盤を深く押さえるという指への意識です。このとき他の指に力が入ったりしないように気をつけてください。常に手首や腕はラクに・・・です。

3.3つ目の8分音符


鍵盤が徐々に上がっていくのを感じてください。「徐々に」が重要です。指の力を少しずつ抜いていく必要があります。これが、ここで学ぶべき「指のコントロール」です。鍵盤が指を押し上げていく感じをつかんでください。鍵盤の重さを感じる瞬間です。

4.4つ目の8分音符

3で徐々に上がっていった鍵盤が、ここで終着します。指は他の指と同様に、鍵盤に軽く触れているだけの状態になり、音は消えています。

上記の練習を、♪=60で練習します。速くやっても意味がありません。ゆっくりと十分に指の動きを感じながらやることが大切です。