【ウィーン式アクション】

これまでお話してきたイギリス式アクションは、
現代と同じく鍵盤の先端方向にハンマーが付いていました。
しかし、18世紀後半ウィーン式と呼ばれたアクションは、
それと逆向きにハンマーが付いています。
演奏者に向かってハンマーが付いている感じです。
これはイギリス式の突き上げ式に対して、
跳ね上げ式と呼ばれるものです。

ドイツでのピアノ製作に貢献したアンドレアス・シュタインは、
この跳ね上げ式を改良し、エスケープメント装置をつけました。
1777年モーツァルトがこのシュタインのピアノに出会っています。
第1ピアノ:シュタインの8歳の娘、
第2ピアノ:モーツァルト、第3ピアノ:シュタインという形で、
3台のピアノのための協奏曲(K.242)を演奏。
もちろん、このとき使われたピアノはすべてシュタイン製作によるものです。

これは、シュタインのエスケープメントについて、
モーツァルトが父に宛てて書いた手紙の一文です。

『エスケープメントなしのピアノ・フォルテでは、
打鍵したあとで雑音が出たり、
音がのこって震えたりしないようにはできません。
彼の楽器では、打鍵したあと、
鍵盤を押さえていようと離そうと、
ハンマーは弦を打ったあとすぐ落下するのです。』

その後、シュタインのピアノは優れたピアニストとなった娘、
ナネッテに受け継がれます。
1794年ナネッテは作曲家ヨハン・アンドレアス・シュトライヒャーと結婚し、
ウィーンに移り住みピアノの製作を開始しました。
ナネッテ・シュトライヒャーのピアノは、
ウェーバーやベートーヴェンに気に入られ声価を高め、
息子に継承されます。

このほかにも、18世紀末から19世紀初頭のウィーンには、
多くのピアノ製作者がいました。
その中でも特に有名なのはアントン・ヴァルター。
モーツァルトお気に入りのピアノ製作者です。
ヴァルターは、シュタインのメカニズムをさらに発展させ、
落下の際のハンマーのリバウンドを防ぎ、
ハンマーが落下点に安定するように工夫しました。

ウィーン式ピアノについてのフンメルの言葉です。
(『ピアノフォルテ奏法』1828年)

『ウィーン式アクションは、
きわめて繊細な手でも容易に弾くことができる。
演奏者はこのアクションによって、
さまざまなニュアンスをこめて弾くことが可能である。
はっきり弾いたり、丸みのあるフルートのような音を出すこともできる。
大して骨を折らずに流暢に弾くこともできる。』

ウィーンのピアノの音が繊細だったのは、
ハンマーが小さく軽かったことにありました。
シュタインのハンマーはエンドウ豆ほど?!
木の外側に鹿のなめし皮を巻いてあるものでした。
ハンマーの木の材質も軽い木を用い、さらに中心部を細くし、
できるだけ軽くするなるよう工夫されていました。
なんと、打鍵に必要な力は30グラムほどだったそうです。
これはなんとも羨ましいですねぇ〜。
現代ピアノの標準的な重さは約80グラムもあるのですから!

これら軽い音色のウィーン式ピアノは、
クラヴィコードやハープシコードのための曲を演奏するのに適していたそうです。
とくに音の持続が長く、バス声部では音の分離がよい。
メロディは歌いやすく、繊細な装飾音もくっきりと演奏できたからです。
この時代はまだまだ、クラヴィコード、ハープシコード、フォルテピアノが
混在していた時代だったのですね。