【ベートーヴェン(1770〜1827)第3期】

1809年秋頃からベートーヴェンが使用していた楽器。
どうやら判明していないものが多いようです。
作品の中から、どういったピアノだったのかを
ちょっと垣間見てみましょう。

エラールのピアノを物足りないと感じていたであろう
この時期のベートーヴェンが作曲した作品、
 ・・・・そして「傑作の森」の最後の年を飾る作品
告別ソナタとピアノ協奏曲第5番には、
これまでにない変化があらわれます。
それは、最高音c4を越える音が使われているということです。
 ・・・・F1-f4の6オクターブ
これら2曲は、これまで使用していたエラールでは演奏できません。

この時期のピアノは、使用音域やベートーヴェン書簡などから、
シュトライヒャーが貸したピアノを使用していたのではないかと考えられています。
当時シュトライヒャーのピアノには6オクターブの音域があり3本ペダルが付きで、
これらの楽曲に符号するからです。

告別ソナタから次の作品、ソナタOp,.90を作曲するまでには、
4,5年の空白がありますが、
この楽曲の音域はF1-c4と再びエラールの音域と同じです。
さらに2年後の1816年に作曲された次のソナタop.101では、
E1-e4の6オクターブの音域。

なんだかこれまでのベートーヴェンに比べ、
この時期のベートーヴェンは、
ずいぶんとピアノ作品の数が少ないですよね。
音域を広めたかと思うと再びエラールの音域になったりして、
これまでピアノの発展に合わせてイケイケ!で作曲していたベートーヴェンらしくないというか。
なかなか納得できるピアノに出会えなかったということなのでしょうか。
なんだかベートーヴェンのもどかしさを感じますね。

1816年ベートーヴェンの希望により、
シュトライヒャーが6オクターブ半のピアノを作ったという説があるようですが、
ベートーヴェンは1817年シュトライヒャーに宛てて手紙を書いています。

『さて、シュトライヒャーにとくにお願いがあります。
私の弱った耳にあうように、
あなたがたのピアノのうち1台を調整していただきたいというのが、
私の願いです。
できるだけ大きな音にしてほしいのです。』

1816年冬から翌年にかけて、
ベートーヴェンが2台のピアノを持っていたことがわかっています。
1台は5オクターブの桜材の古い二重弦のピアノ、
もう1台はマホガニー材の四重弦の6オクターブのピアノです。

シュトライヒャーから借用したと思われる、
このマホガニー材のピアノにはシフト・ペダルが備わっていました。
ソナタop.101には、
この鍵盤を横にずらし1弦だけを打つようにする、
「スール・ウナ・コルダ」の指定があります。
ベートーヴェンが初めてシフト・ペダルの指示を記入した作品です。

1812年ウィーンの出版者ゲッツルは、
ベートーヴェンが即興演奏したときのピアノの状態について、
こう書きました。

『もはや音楽を弾くどころの騒ぎではなかった。
弦の半分ほども切れてしまったからである。』