『いろんなジャンル、いろんな鍵盤』

寄稿者:中嶋@管理人


インターネットを俳諧していると、
結構驚くことがあったり・・・。
例えば、ブルグミュラーしか弾けないのに
ピアノを教えている人がいたり、
独学でしかピアノをやったことのない人が、
ピアノを教えたいと言っていたり。
あまりの無責任さに驚き、
言葉にならないことが結構あるんですヨ。

何故こんな現象が、
ピアノに限って生まれてしまうのか?
だってね、習字、水泳、バレエ、華道など、
他の習い事では
こういうことって起こらないと思うんですヨ。

私はそれを、電子鍵盤楽器の普及が原因だろうと思っています。
鍵盤楽器がとても身近になった。
そして、クラシック音楽だけでなく、
ポップス、ジャズ、ロックなど、
さまざまなシーンで使われるようになった。
ピアノは、クラシック音楽のためのものだけではなくなったわけです。

ここに大きな誤解というか、すれ違いが生まれる原因があると思うんですよネ。
この程度でもピアノは教えられる・・・という浅はかさや、
基礎を学ぶことへの嫌悪感など。
これだけのジャンルで、これだけの種類の鍵盤楽器が普及している中、
果たして”基礎”ってなんなのよ?!という議論さえ生まれてきそうです。

例えば、私はクラシック音楽を専攻し、
クラシック音楽中心にピアノを弾きますが、
もちろんたまにはジャズっぽい曲を弾いてみたり、
ポップスを弾いてみたりもします。
しかし、果たしてそれがジャズといえるのか・・・というと、
私が弾くジャズは、なんちゃってジャズにしか聞こえないことでしょう。
ノリが違う。しかも即興してるわけじゃない。

では、逆にジャズやロックをやっている人が、
クラシック音楽を演奏したら?
やっぱり、なんか違う、ノリが違う・・・ってことになると思うのです。
第一クラシックの基本がなければ、
時代の様式ってなによ?
楽譜を深く読み込むってなによ?ってことになるわけで・・・。
ここいら辺がしっかりしていなければ、
なんか違う・・という演奏になって当然なのです。

また、鍵盤楽器はピアノばかりではありません。
キーボードやエレクトーンなどの電子楽器がある。
ピアノが弾けるからキーボードが弾けるのかというと、
機械音痴の私には、使いこなせなかったりもし。(笑)
エレクトーンは足がつくので、やはり特別な技術が必要です。
その上、エレクトーン独自の奏法というものもあり、
手の動きもピアノにはない動きがあるものです。

逆に、そういった電子鍵盤楽器が弾けるからといって、
ピアノが弾けるかというと、これまた別問題なわけで、
エレクトーンばかり弾いてきた人は、
ピアノに向かったときあまりの鍵盤の重さに辟易します。
また、和音ばかり押さえていた左手が、
クラシックピアノに置き換えられた瞬間に、
今までにないような動きをしなければならなくなり、苦労するようです。
その上、鍵盤の押さえ方そのものにも違いがあるようで、
ピアノを弾くための基本的なタッチから学ぶ必要がでてきます。

これは、クラシックをやっている人間が、
ジャズやポップスを弾くときにもいえること。
リズムが違う。
クラシックより複雑なリズムが使われていたりする。
ハーモニーの動きもクラシックとは違うので、
どうも勝手が違う。

また、クラシックはコードを知らなくても弾けますが、
機能和声は知っている必要があります。
ジャズやポップスは、
コード進行法や即興を学ばなければなりません。

クラシック音楽の中にですら、こういった壁はあるんです。
例えばチェンバロやフォルテピアノ。
モダンピアノが弾けるからといって、
即行チェンバロやフォルテピアノが弾けるようになるわけじゃない。
それぞれの鍵盤楽器には、それぞれの奏法があり、
鍵盤に触れる感触も、演奏する作品の時代も違います。

楽器の違いだけではありません。
クラシックピアノには大きく分けて4期あります。
バロック、古典、ロマン、近現代です。
押しなべてすべてを経験し、弾けるようになることが求められますが、
やはり得意、不得意は出てくるものです。
バロック中心のピアニスト、近現代中心のピアニスト・・・。
一流と呼ばれるピアニストにも、
好みの作曲家、好みの時代があるものです。

これは、きっとジャズにもいえることなのでしょう。
ビックバンドが好きなのか、トリオが好きなのか、
現代っぽいジャズが好きなのか、
昔かたぎの古典的なジャズが好きなのか。

一口に鍵盤楽器といっても、
これだけの視点があるわけで、これはかなぁり複雑です。
この複雑な中に、初期のピアノ教育がある。

何をもって”基礎”とするのか?
それはもう、こちら側が押し付けるものじゃなくなっているんですよね。
どういうスタンスでピアノを習うのか、次第なのです。
もちろん、すべてに共通した基本中の基本はあるかと思います。
私は、このすべてに共通した基本中の基本を、
独学で学べることだとは思っていません。
ピアノはそんなに甘い楽器じゃぁない。

トランペットだって、サックスだって、習わないと吹けない。
多少音が鳴ったとしても、それは鳴ったというだけの話で・・・。
ジャズのピアノ弾きにしたって、
現代のジャズピアニストを見ていると、みんなしっかと基礎を学んでいるのがわかります。
これはノリではなく、基本的な指の動きを見ての話。

ピアノは弾かない。
キーボードしか弾かない・・・というのであれば、
ピアノを習う必要がどこにあるのだろう、という気もします。
それよりも多くの電子楽器に触れ、
それらの使い方を深めていった方がいいでしょう?

大手の楽器店ではピアノではなく、
キーボードを教えてくれるところもありますね。
キーボードの基礎は、ピアノの基礎とまた違ったところにあるような気がします。
エレクトーンとピアノの違いに似ていますネ。
キーボードをやりたいのであれば、
ピアノよりエレクトーンを学ぶ方がいいのかもしれません。
鍵盤が似ているので、奏法はエレクトーン寄りだろうと思うからです。
また、機械で音を作るという作業も、エレクトーンの方がキーボードに近いでしょう。

どの鍵盤楽器を愛好し、
どのジャンルの音楽を愛好するのかは、それぞれの自由です。
それは人に押し付けられるものでもなければ、
人に押し付けるものでもない。
ただ、それを自分でわかっているということ。
それって大切なことだと思うんですヨ。
知らないうちに視野が異常に狭くなっていたり、
無責任な行為に陥ってしまっていたり・・・。


鍵盤楽器がより身近になり、
音楽を自由に表現できるようになった現代。
これはと〜っても素敵なこと。
日本ほど鍵盤楽器が普及している国はないんですヨ。
ヨーロッパでは、ピアノは特別な楽器、
特別な人が特別な教育を受けて弾けるようになる楽器、
という位置づけだそうです。


でも、日本は違う。
この素敵な面を存分に生かすことができたら、
どんなにいいだろうと思います。

インターネット上では、いろんな議論を目の当たりにします。
でも、なんかすれ違いが見える。
そこには一口に鍵盤楽器といっても、
これだけいろんなスタンスがあるのだ・・・ということを無視して、
議論されているからのように思えます。
お互いのスタンスが違ったら、
議論しても言葉のキャッチボールができなくなってしまう。
議論が議論にならない・・・というか。
もったいないことですよね。

私は、それぞれのジャンル、それぞれの鍵盤楽器には、
それぞれの”基礎”があるのではと思っています。
そして、それぞれの間に優劣をつけることはナンセンスですし、
クラシックには基礎があり、ジャズやポップスには基礎がない、
というのも大きな勘違いだと思います。

キーボードの指導者には、
キーボードに熟知すること、コード進行法を知っていること、
現代の音楽事情(楽器事情)に詳しいことが求められるでしょうし、
ジャズの指導者には、
即興ができること、ジャズのノリを知っていること、
ジャズの歴史に詳しいこと、
実際にしょっちゅうセッションしていることなどが求められるでしょう。

音楽に限らずどの世界にも、
楽しいだけではない”基礎”があるものです。
クラシック音楽だから”苦”音楽、
それ以外の音楽だから”楽”音楽とはいえない。
それぞれのジャンルの基礎、それぞれの鍵盤楽器の基礎を
どれくらい深く追求していくかは、人それぞれですが、
”基礎”というものは、どの世界にも必ずあるはずなのです。

冒頭に書いたような人たちは、
どんなジャンルの音楽であれ、
この”基礎”をないがしろにしているように感じますし、
音楽だから楽しけりゃいいだろうという考えも、
あまりにも一面的な見方のように感じます。
基礎があるから楽しいという一面を、
見逃しているように思うんですヨ。

どのジャンルであれ、どの鍵盤楽器であれ、
音楽を味わいながら、基礎を学ぶというのが一番ですネ。
音楽のないところに基礎はないですし、
音楽のないテクニックだけの基礎追求ほどつまらないものはないですから。