『音で表現するということ』

寄稿者:中嶋@管理人


音で表現するとはどういうことなのか。ピアノ講師になってから、ずっとずっと考えてきました。生徒に「表現してごらん」と言ったところで、音で表現するということがどういうことなのかわからなければ、「うたう」なんてことはできません。また、公開レッスンを見ていて感じることですが、生徒の反応がよいか悪いかは、「質的な部分」にまで理解が及んでいるかいないかが深く関わっているようです。

例えば「この音をもう少し強く弾いてごらん。」といわれたとします。反応のよい子は、すぐに直る。でも、反応の悪い子は「もう少し強く。いやいやもう少し弱く。」と具合を探すのに手間取ります。
ここで重要なのは、先生が何故もう少し強くと言ったのかということです。拍子感がないので1拍目をもう少し感じて欲しかったから?だとしたら、拍子感を感じて弾けば「強く」などと思わなくても、自然にそう演奏できるようになるでしょう。フレーズの頂点を感じて欲しいから?だとしたら、もっとフレーズそのものを感じれば自然にそういう音になるでしょう。重要なことは、言われた「もう少し強く」という言葉だけにとらわれるのではなく、その意味合いを汲み取ることができるかどうか、なのだと思います。

アクセント。これは「強く」という意味ですが、私は「強調する」と捉えています。大事なのはその音を感じたいから。もちろん「強く」という意味合いでアクセントが書かれている場合もあります。そこにはリズムが生まれてきます。他の作曲家だったらアクセントと書かずに「テヌート」と書いたかもしれないな、なんて意味合いのアクセントもあります。要は、何故作曲家がそこに「アクセント」と書いたか?です。アクセントと書かれているからといって、何が何でもその音を強くビンッと突き立てて弾けばよいというものではありません。

スタッカート。ただ短くすればよいというものではありません。「短く切る」にもいろんな長さがある。そこからリズムや表情が生まれてきます。クレッシェンドのときなどは、短いスタッカートから少しずつ長めのスタッカートにすることもあります。スタッカートが書かれているからといって、ただ音を切るだけでは表現している、とまではいえないでしょう。
このように音で表現するためには、様々なコツがあります。こういったコツを知らなければとても浅い表現になってしまう。ただ感覚だけでなんとなく表現していても、BGM留まりだったりします。

最近、西洋音楽を表現する上で一番大切だと感じるのは「拍子感」です。この拍子感を感じるだけで、非常に音楽的になる。音楽が流れていくのです。感じないとリタルダンドは不自然になるし、ルバートは気持ち悪く船酔いしたようになるし、アクセントもスタッカートも無表情に聞こえてきます。例えばバイエルの最初の方の曲。短くて1度と5度のハーモニーしか使っていないような単純な曲でも、この拍子感を感じて弾くだけで、素敵な旋律やリズムが生まれ、生き生きとした曲になります。ただ4分音符が並んでいるだけだとしても、そこにはリズムが生まれてくるのです。1234と唱えるだけでは音楽になりませんが、拍子感を感じてこの数字を唱えると、それだけで音楽です。よくソルフェージュにリズム譜がありますが、ただ楽譜どおりに「タンタンタタタン」なんていっても音楽にはなりません。重要なのは拍子感を持ってリズムを唱えること。そこには抑揚が生まれ、素敵な音楽がリズムで奏でられることになります。

もう一つ大切なこと。それは
音のバランスです。「この音をもう少し強く」と言われたとき、それは音のバランスが悪いせいなのかもしれません。もしかしたらその音を強くするよりも、それ以外の音を弱くと感じて弾く方が、理想的な音を奏でられるかもしれません。重要なのは、音が強いだとか弱いだとかいうことではなく、「旋律なのか伴奏なのか?」ということをはっきりさせることなのかもしれないし「クリアな和音にしたいのか、ぼかした感じの和音にしたいのか?」ということなのかもしれない。または「二つの旋律を全く違う楽器で奏でているようにしたい」からなのか・・・・。バランスというものを全く無視した音楽は、とても耳に心地悪く、あまりにも無頓着な演奏に聞こえるものです。

私は教える際に、
「何故なのか?」ということをしっかり理解してもらいたいと思っています。表現についても「表現するための技術」というものがあると思っています。これらの使いどころ、使い方、得られる効果・・・などなど、口で説明すると同時に、感覚で伝えていくようにしています。拍子感などは口で「ここは強拍、ここは弱拍」なんて教えても伝わりません。一緒に1234を音楽的に唱えてあげることが重要になってきます。楽譜に書かれていることは記号です。私たち演奏者はそこに「音楽」を読み取らねばならず、そのためにはたくさんのことを知っておかなければなりません。たった8小節の単旋律。これをいかに美しく表現するか?楽譜通り音を鳴らしただけでは音楽にならないのです。

自分の欲しい音、自分の欲しいノリ、自分の欲しい雰囲気。それらは楽譜から多くのことを読み取れるからこそ生まれてくる欲求です。そこに音楽をする楽しさ、面白さ、醍醐味があるのではないでしょうか。

※ここには、一部の要素についてしか書いていません。動機、フレーズ、ハーモニー、構成感、音色など、表現するために必要な要素というものは、追求すればきりがないほどたくさんたくさんあります。音色への追求はタッチだけでなくバランスなどとも深く関わっていますし、拍子を感じないフレーズはまとまりを感じていたとしても違和感を覚えるものです。それぞれの要素は深く関わりあっており、その複雑さが深みのある表現、個性へと繋がっていくのだろうと思います。