『できることを教えていきたい』

寄稿者:中嶋@管理人


発達障害の子を教えていて学んだことがあります。「できないことは教えない」ということ。これは、「できないからあきらめる」ということではありません。「できる」ということを前提として「できないことは教えない」のです。このことを学んでから、障害を持っていない子どもの生徒や大人の生徒に指導する方法が見違えてよくなってきました。では、「できないことは教えない」ってどういう意味なのか・・・?

いずれ「できる」であろうひとつのことがあるとします。でも、いきなりそのひとつのことを教えようとしても「できない」。でも、そこで「この子にこれはできないのね。」「この子は家で練習してこないから、練習不足でできないのね。」とあきらめるのはもったいないと思うのです。できることの方が多いのです。ここで必要なことは、そのひとつのことを「いくつかに細分化して指導する」ということです。そのひとつのことが、その生徒にとって「高い壁」だったとしても、それを細分化したひとつは、5に細分化してあれば「5分の1」の高さへと下がっています。この程度の壁の高さなら生徒も「がんばろう」と思えます。こうやって「できた!」という喜びの体験を増やしてあげることが大切だと感じています。

楽譜の認知→鍵盤の認知→指使いの認知→脳から指への指令→指を動かす。基本的にこのような流れを一瞬で行うのがピアノ演奏です。レヴェルが上がってくると、ここに「どのように演奏するか」という思考が加わります。これが細分化された基本です。この細分化したものを、ひとつひとつ少しずつ「できた」に結び付けていくのです。細かく言えば、さらに細分化することもできます。

楽譜の認知・・・リズムの認知・音の認知

発達障害のお子さんの場合、リズム譜は読めるようになっても、「図形」として微妙な音の高低を区別することができない場合があります。でも「できない」んじゃないんです。目の見えない方には点字の楽譜があります。それと同じように、彼らに理解できる楽譜を提供できればいいのです。この場合、私は「色音符」を用いています。色なら確実に音がわかります。これで初見奏がかなりできるようになってきた子もいます。障害を持っていない生徒さんの場合も、音の認知ができても、リズムがつくと混乱して音すらわからなくなる場合があります。まずは、リズムと音を別々に・・・それから統合していくとスムーズなようです。

鍵盤の認知・・・2つと3つの黒鍵の認知・単音での認知

2つと3つの黒鍵の位置が把握できたら、「ドレミ」「ファソラシ」の位置を覚えます。よく「流れ」で覚えていて単音で覚えていないことがあります。「ミはど〜こだ?」と質問すると、「ドレミ」と弾いてしまったり、「ド」を弾いてみたり。「ドレミ」というまとまりでしか覚えておらず、この「ドレミ」がそれぞれ別個の音なのだということは、まだ認識できていないのです。ということで、「ドレミ」と「ファソラシ」の位置がはっきりしてきたら、今度はそれを「単音」で覚えるように導きます。大切なのは、鍵盤で実際に音を出しながらやることです。これが演奏する際に必要な「反射」へと導いてくれるからです。

発達障害のお子さんの場合、この認知が難しい場合があります。ただ、それはこの時点で無理だというだけで、いずれ覚える可能性が大きいのです。発達障害のお子さんは常に成長し続けています。小学2年生で無理だったことでも、小学4年生になったら理解できるようになることがたくさんたくさんあるのです。この場合、私は「楽譜の認知」で使用している色と同じ色を鍵盤に貼ります。(鍵盤にシールを貼るとベタベタしてしまうので、クリアファイルを細長く切り、そこにシールを貼り、両端を折り曲げ鍵盤に引っ掛けています。)無理に教え込もうとするのではなく、自然に認知できるように持っていくことも重要だと考えています。この方法で、最近「ドレミ」の位置を理解できるまでに成長していることがわかってきた子がいます。まだ確実ではありませんが、理解できそうなところにいる・・・ということがわかったので、本格的に鍵盤認知へのレッスンを取り入れ始めました。

指使いの認知・・・数字の認知・指番号の認知

まずは1から5までの数字を認識していなければなりません。1から5までの数字を言えるようであれば、指番号を指導することができます。1から5までの数字がまだ言えないようであれば、そこから指導するのがよいと思います。音名は全く意識せずに「指使いの認知」だけを目標とするなら、「1354321」という数字通りに指が動くかな・・・とテーブルの上などでやるのがいいでしょう。鍵盤の上に手を置いても混乱しないようであれば、実際にその数字の指を動かして音を鳴らすのもよいと思います。この場合「指番号の認知」以外に「指を育てる」という目標を持つことができます。ただ、鍵盤があまりにも重くて、指を動かすことにばかり注意がいき、「指番号」が頭の中から飛んでしまう場合があります。そういう場合は、まずテーブルの上で指番号にだけ意識がいくようにするのがよいと思います。それほど意識を集中させなくても、指番号に対して反射的に指が反応するようになったら、実際に音を鳴らす練習へ持っていけます。

脳から指への指令→指を動かす・・・指の強化・指番号の把握・指の独立

指があまりにも弱くて鍵盤に押しやられてしまうような場合、これはまず指の強化に努めることが先決だと思います。もうそれだけで頭の中がいっぱいになってしまい、楽譜や楽曲どころの話じゃなくなります。いきなり5本の指すべてを強化することは無理でしょう。障害を持っていないお子さんでも、最初は「2,3」の指あたりから入るのではないでしょうか。私は、この指の強化を楽曲とは離れた状態で使うことが多々あります。いきなり5本の指を使える子には、「ドレミファソファミレド」だけ。これは指の独立も促せますし、鍵盤に指が慣れることもできます。それ以前に、指が弱くて弱くて・・・・という子の場合は、「2の指だけでエレベーター」などといい、「丸い指の形で」中間部の音から最高音まで(右)、中間部の音から最低音まで(左)をやります。最後に「とうちゃ〜〜く!」と手と手をパチンと合わせたりすると、ゲーム感覚になるので楽しんでくれます。最近ダウン症の女の子が、他の指が強くなってきたので「5の指」で挑戦しています。

指番号の把握については「指使いの認知」でお話したので、ここでは省きます。続いては指の独立です。テーブルの上に基本的な手の形で手を置いてもらいます。「この指動かしてみて〜」とある指を『触らずに』指し示します。ぱっと動く子もいれば、なかなか動きの鈍い子もいます。動きの鈍い子は、その指へ指令を出す→指が反応する・・・という回線がまだまだ発達していない子です。子どもの発達は、体の中心部から徐々に始まります。まずは「肩」それから「ひじ」、そして「手首」、最終的に「指」です。これは子どもの描く絵を見れば一目瞭然で、丸がかけるようになった子は「手首」が発達してきたということなのです。丸の書き始めと書き終わりがちゃんとくっつくようになるということは、「指先」が発達してきたことと言えるでしょう。ということで、ピアノを弾くという難しい行為以前に、指がある程度発達している必要があります。まずは、テーブルの上で、重たい重たい鍵盤のことを意識せずに「指先」にだけ集中できる、「この指う〜ごけ!」などといったゲームで、指の反応を速くしていくことを目標にするのがよいと思います。

ここまで基本中の基本を細分化してきましたが、あらゆることを細分化することが可能です。細分化で私がすごいなぁと思ったのは、コルトーのピアノメトードです。「指の均一、独立」に始まり、「スケール」や「アルペジオ」の練習方法は、それらのテクニックをできる限り細分化したものです。あらゆる箇所で、弾けない理由は複合的だったりします。「親指の支えがしっかりしていない」と同時に「手首が下がっている」とか、「指の付け根の支えがしっかりしていない」と同時に「手首が硬い」だったり。これら複合的な原因を、一度に求めて受け入れてくれる生徒と、混乱してしまう生徒とがいます。ひとつひとつを確実にクリアして、統合していくと「確実さ」が増してきます。これは、自分の練習にも言えることで、いかに自分の演奏を分析して、効果的な練習方法を編み出すか・・・これは、どこまで「細分化」できるかということなのだと思います。

発達障害の生徒に指導することによって、このような効果的な練習方法というものの重要性と、視点を学んだ気がします。「どこまで細分化し、理解し易く受け入れられやすく指導できるか。」これは私が指導する上での楽しみでもあります。受け入れてもらえたときや、その場でできるようになったときの喜び!自分の編み出した指導法が「ヒットした!」という楽しみ。生徒の顔も生き生きとし、「できた」という喜びで満面の笑みが浮かびます。大人の生徒さんなどは、「何故だろう。なんか上手くいかない。しっくりこない。でも理由がわからない!」とわからないまま練習してくる場合があります。それがレッスンで解決したとき「これだったんですね〜!わかった〜!」と満面の笑みで言ってくれます。私は生徒さん以上に喜んでいたりします。「やった〜、指導法がヒットした〜!」と。(笑)人それぞれ「ヒット」する言葉かけや方法が違います。だから、毎回いろんな方法で「ヒット」を探します。「ヒット」を生徒と一緒に喜び合える、そんな楽しみがレッスンにはあります。ピアノを指導する喜びは、音楽を一緒に体感し、一緒に分かち合える楽しみとともに、こんなところにもあるんだなぁと思います。

指導するスタンスは、発達障害の人も、子どもも大人も、みんな同じです。「できることを教えたい」「音楽を分かち合いたい」。「なんでできないの?」ではなく、「こんなにできてすごいね!」そう言えるレッスンをしていきたいです。