『幼児教育におけるリトミック』

中嶋@管理人


この文章は、私が大学1年のときリトミックという授業の宿題に提出したものです。多くの本を読み、多くの刺激を受けていた当時、それらの情報をまとめてみたくなったのでした。こういったネット上に載せるには、あまりにも稚拙でつたない文章ですが、久々に読んでみたら10年前の青かった頃の自分を思い出し、未熟な考察でありつつも、新鮮な印象を受けたので、初心を忘れないためにもアップすることにしました。(本当に、1語1語キーボードで打ち込んでいて、当時のことを新鮮な気持ちで思い出しました。)

本当に、言葉の使い方やら、文章の構成やら、あまりに稚拙なのですが、どうぞご了承くださいませ。m(_ _)m 医学的に間違った見解を述べている箇所もあるかと思いますが、当時のままの文章で載せることにしました。お医者様で「これはおかしいぞ!」という箇所を見つけられた方。是非メールでご一報ください。今後の勉強の糧にさせていただきたいと思います。



1.教育とは何か

教育とは、知識・技術・規範・信条・慣習を伝え、自分の二本の足で歩けるよう導いてゆくものである。自分の意志をもち、それによって突き進み、人生を切り開いてゆくだけのエネルギーをもった人間へと導くのだ。そして、こうしたエネルギーが真の社会の維持と発展へと結びついてゆく。

〜中略〜

教育小辞典では、"教育"についてこう書かれてある。『社会は自らを維持し、発展させるために、今までの経験の貯蓄、すなわち知識・技術・規範・信条・慣習などをその成員に伝達し、その社会に適応するように働きかける。以下省略』

私は、今の世の中が完璧だとは思わない。しかし、人間にはこの世の中をもっとすばらしいものへと発展させていく可能性があると思っている。この可能性を秘めた子ども達によりよい教育を与えてやりたい。世の中どんどん複雑になってゆく。しかし、それに流されて己を見失ってしまっては、何も始まらない。人生を切り開いてゆくだけのエネルギーをもった人間への教育が必要なのだ。


2.幼児の脳

人間が生まれたときに、脳の中の神経細胞は、呼吸などの生命を維持する最小限のもの以外は、ほとんど発達していない未発達状態である。しかし、月日が経つうちに神経細胞間に、からみ合いができてくる。これにより、体の動きが発達し、少しずつ知恵もついていく。この神経細胞同士のからみ合いが、脳の発育の姿なのである。頭の良さは、この神経細胞のからみ合いの発達の程度によって決まる。このような神経間のからみ合いは、新しい体験を積めば積むほど発達する。

脳の神経細胞の発達は、生後三歳くらいまでの期間に、急速に発達する。「三つ子の魂百までも」ということわざは、脳の発達からみて非常に正確なものである。発育の初期の時期には、見たり聞いたりかいだりしたことに、とくに鋭敏で、その印象は成長しつつある脳に、特別な神経の連絡を残すのである。

脳の発達の最初の急成長期は、脳の発育のための基礎固めの時期である。二〜三歳の子どもはよく積み木で遊んでいるが、これはもののパターンを覚え、形の細かい違いなどを見分ける、脳の勉強をしているのである。

このような視覚の問題について、有名なチンパンジーの実験がある。生まれてすぐに、親からチンパンジーを引き離して別々にし、一匹は普通に育てた。こちらの子は目に見えるものに興味を持ち始め、木の枝などにとびついて遊ぶようになった。もう一匹は、暗闇の中で育て、さらに別の子は、明暗はわかるが、形は何も見えないという中で育てた。その後、三週間〜七、八週間育てたのちに、ものが見える状態にしてやり、普通に育てた子と一緒にしてみた。普通に育てたほうは、自由に遊ぶのに対し、これらの子は全く遊ぼうとせず、木を見てもとびつこうとさえしなかったという。

脳の発育の基礎固めの大切な時期に、もののパターンを勉強することが出来なかったチンパンジーは、見えるものに対する興味を失ってしまったのだ。目に見えていても、何ものにも触発されない。なんと恐ろしい実験の結果であろう。

人間特有の心ー思考力・創造性・意志力・情操ーこれらは、四歳頃から働き出す。前頭連合野で営まれている。0歳から三歳ころまでは、運動や感覚などをつかさどり、それをもとにして、前頭連合野以外の領域の脳細胞が配線され、四歳頃から十歳にかけて、前頭連合野の脳細胞が配線されるのだ。

この前頭連合野は、コンピューターでいうソフトウェアに相当するものである。このソフトウエアをいかに利用するか、というところに頭のよしあしが出てくるのではないだろうか。四歳をすぎると、子どもにやる気が芽生えてくる。自分で考え、自分で行動しようとするやる気を働かせることが大切である。心理学者であるピアジェは、『最終的な正しい答えに到達するためには、子どもは、後になって誤りとわかるようないろいろな考えによって特徴づけられる、たくさんの段階を通過しなければならない。』といっている。ハードウェアの機械には間違いはない。ソフトウェアで行動している人間にだけ、間違いがあるのだ。前頭連合野には、間違うとそれを間違いと自覚し、反省して、再びそのような間違いをしないように心がける、といった働きがある。間違いを気にしていては、いつまでたってもソフトウエアが発達せず、人間らしい行動ー自分で考え、自分で行動するーに欠けた人間になってしまうのだ。

〜中略〜

最後に、記憶について書きたいと思う。人間は、興味のあることや好きなこととなると労せずに記憶することができるものだ。江南女子短期大学の大木幸助講師は、やる気が起きる源泉は、脳のA10神経という無髄神経の働きにあるという。『人間の脳には100億を超える神経細胞がありますが、そのなかでこのA10細胞は人間の心にもっとも重要な場所にだけ広く分布しているんです。このA10神経が活性化すると快感が湧いてきて意欲が高まり、記憶力が増強されてくるのです。』

このA10を活動させるのはドーパミンである。好きなことや興味のあることに関わってくると、脳内麻薬の分泌量が増え、A10神経が興奮し、記憶することが快感となり、記憶力が高まるのだ。

このように、記憶力の増強には、いかに脳内麻薬を分泌させるかがポイントとなる。この脳内麻薬は、何度もストレスをかけてやることによって分泌量が増えてくる。訓練すれば訓練するほど記憶することが快感になり、記憶力もよくなるのだ。また、βエンドルフィンという脳内麻薬は、脳ばかりでなく身体でも作られる。身体をきたえることも、記憶力を高めるよい方法なのだ。

東京大学工学部の甘利俊一教授は、脳の記憶のメカニズムについてこう語っている。『我々が記憶している情報は、事実を事実としてそのまま貯蔵しているわけではないのです。膨大な情報を圧縮したり、一般化したりし、手がかりやヒントになる小さな断片にして、概念として記憶しています。』

記憶力を増強させるには、脳により多くの記憶の断片を貯蔵させる必要があるのだ。それには、脳に情報をインプットさせるとき、強烈な刺激を与えながら行えば、より効果的となる。五感は我々に多くの情報を与えてくれ、それは強烈な刺激を伴うことが多い。人には記憶の上で、視覚型の人、聴覚型の人、言語表象型の人、手の運動感覚型の人など、それぞれ得意とする「感覚」がある。これら多くの感覚が鋭ければ鋭いほど記憶には有利であろう。

これらの知識は、医学方面だけでなく、教育方面でもどんどん活用していくべき知識であろう。もちろん教育の第一前提は「愛情」である。愛情なくして教育はありえない。こんな話がある。ある国の王様が、人間が本来持っている言語を調べようとした。村々から多くの赤ん坊を集め、誰一人として彼らに話しかけずに育てていれば、赤ん坊はいずれ自らの言葉を発しはじめるだろう、というのだ。ところが、栄養はきちんと与えているはずの赤ん坊が、次々と死亡していったのだ。これは歴史的事実である。誰にも声をかけられずにいた赤ん坊は、愛情に飢えて死んでしまったのだ。

教育の第一条件は、まず愛情なのである。そして、これらの知識はプラスαとして、教育が益々良い方向へ発展していくために、活用すべきものなのである。教育が、こういった科学のみに傾倒してしまうのはいけないが、プラスになる知識はどんどん活用していくべきであろう。


3.幼児の脳とリトミック

大学へ入学してからしばらく経った頃、私は『右脳を使えない子は頭が悪い』という本に出会った。本屋をブラブラしていたら、たまたまその本が目に付いたのである。それ以来、私は脳に興味を持ち始めた。

その頃、大学ではリトミックという授業があり、私はそこで初めてリトミックという存在を知った。私は小さい頃、ピアノのレッスンで非常に苦しんだ覚えがあり、音を楽しむべき音楽なのに、といつも不思議に思っていた。もっと別のレッスン方法があるのではないか、とつねづね考えていた。そんな時、私はリトミックと出会ったのである。

〜中略〜

幼児教育において脳の発達は重要である。そして、リトミックは脳の発達において非常に有益なのではないか、と思うようになったのだ。

リトミックは、もともと音楽教育のために開発されたものである。しかし、ダルクローズはこう述べている。『リズム運動を教えることは音楽を基盤とするものではあるが、単に音楽学習の準備であるに留まらず、むしろそれ以上に一般教養の一体系なのである。』こんな話がある。中世ヨーロッパのある中学校で、校内暴力が頻繁に起こっていた。そこで、校長はある対策を考え、それを実行にうつした。その結果、校内暴力は激減したという。その対策とは「体育」だったのである。これは、身体が精神に及ぼす影響の具体例である。

幼児にとって、身体運動は非常に重要なものである。緊張・弛緩・速さの変わる運動など、身体の感覚を呼び覚まし、自らの能力を知ることは、彼らにとって貴重な体験となる。

〜中略〜

リトミックのリズム体操は、"リズム"のみで行われるものではない。感情や情緒ー楽しい・悲しい・寂しいーを表現していくものである。幼児期に感覚をともなう情緒をイメージすることは、非常に大切なことである。これらの印象は、彼らの急激に成長しつつある脳に特別な神経の連絡網を残すのだ。私がリトミックに惹かれる理由はこんなところにある。人間特有の情緒というものを、この幼児期に身をもって体験し、表現することが出来るのだ。

先の"幼児の脳"のところで、私はこう書いている。『このような神経間のからみ合いは、新しい体験を積めば積むほど発達する』ダルクローズはこんなことを述べている。『どんな活動も、それが習慣となるほど繰り返されたのでは刺激としての利点を保つことができない。』これは、幼児の注意力について書かれたものだが、それだけでなく脳の神経の発達においても重要なことである。ひとつのことに対し、多くの経験をするということは、そのことに対して多くの神経間の配線が作られるということである。たった一つの材料よりも、多くの材料を持っていたほうが有利なのはいうまでもない。多くの材料があるほど、柔軟性を持って物事に対応しやすくなるのだ。

しかし、いくらリトミックが幼児のためになるといったところで、幼児に無理矢理やらせたのでは、何の意味ももたなくなってしまう。そこには自らの意志が含まれていなければならない。記憶のところでも述べたが、興味のあることや好きなことに関わっていないとA10は活動してくれず、やる気もおこらないし記憶力も低下してしまう。

〜中略〜

ダルクローズはこう述べている。『子どもはどんなゲームでも分析本能に訴えるものであれば、ひどく面白がるものだ。だからその傾向を利用し、自分で分析できる新鮮な課題でその好奇心を満たしてやり、いつも敏活に保たせることが大切である。』例えば、岩崎光弘著の「リトミックってなあに」の中にこんな遊びがある。『高い音で速いときは速く走る新幹線です。ゆっくりになったらゆっくり歩いて、音楽が止まったら駅になります。低い音でゆっくりのときのイメージは貨物列車です。音楽が突然ドンとなったら脱線ですよ。』幼児はピアノの奏でる音に注意し、想像力を働かせ、それを行動に移す。こういった注意力は集中力を生み出す。

〜中略〜

かれらのこの経験による集中力や鋭い感覚や身体の調和は、彼らの土台となり、自らの力で人生を切り開いてゆく力となるに違いない。


4.真の幼児教育者

〜中略〜

ここで書かれる(「リトミックってなあに」)レッスン風景で私が惹かれるのは、母と子の姿である。幼児は母親の愛情という保護の中で、安心して自由に遊ぶことができるのだ。母と手と手を合わせ、同じ音楽に耳を傾け、身体を動かす。これは、幼児にとって最高の環境である。

幼児が一日でもっとも長い間共に過ごす相手は母親である。このレッスンで覚えた遊びを理解してくれる母親と共に、自宅で遊ぶということは非常に大切である。母親が参加していなければ、自宅へ帰って一緒にリトミックで遊ぶことはできない。ダルクローズはこういっている。『リズム体操が毎日二時間ずつ行われているクラスに比べて回数も少なく間を隔てて行われるとき、その効果は弱くならざるえない。』幼児にとって最も大切なのは、毎日二時間のレッスンに通うことではない。一番良いのは日常にリトミックを取り入れることである。一人じゃない。「お母さんと一緒。」というだけで、幼児はどんなにか嬉しいだろう。

〜中略〜

リトミックだけではなく幼児教育全般にいえることだが、真の幼児教育者は幼稚園の先生でもリトミックの先生でもない、母親である。しかし、人間は他の動物のように本能のみで子どもを育てることは出来ない。現代、幼児教育に関する情報は雑誌・本・TVなど、あらゆるメディアを通して手にすることができる。しかし、それらすべてが真の幼児教育本であるとはいえない。
私がこうして大学で幼児教育を学び、一番声を大にして言いたいことは、幼児を持つ母親への教育である。私が手にしていく知識のすべては、今幼児を持つ母親にもっとも必要なものなのだ。


〜参考文献〜
・リトミック・芸術と教育
 エミール・ジャック=ダルクローズ著
 全音楽譜出版社
・リズムと音楽と教育
 同上
・リトミックってなあに
 岩崎光弘著
 ドレミ楽譜出版社
・子育ての大脳生理学
 高木貞敬著
 朝日新聞社
・脳と保育
 時実利彦著
 雷鳥社
・右脳を使えない子は頭が悪い
 品川嘉也著
 青春出版社
・教育小辞典
 五十嵐・大田・山住・堀尾編
 岩波書店
・賢い脳の作り方
 講談社Quark編集部
 講談社
・ピアジェ理論と幼児教育の実践(上)
 R・デブリーズ/L・コールバーグ著
 北大路書房