Next World Story

序章
古い遺跡から奇妙な箱が発掘された。どうやらコンピュータ機器のようであったが、金属の腐食状態から、おそらく紀元前に作られたものと推定された。しかしコンピュータが紀元前にあるわけがない。学者達は理解に苦しんだ。古代の人類はそれをどうやって作ったのか?そのような技術をどこで得たのか?そして、それが一体何に使われていたのか?これらについて様々な議論が交わされた。後世に何者かが埋めた、或いは異星人と交流があったという説も出た。中にはタイムマシンを使って未来人から伝わった、などという奇抜な説を唱える学者もいた。こうした中で一つのとんでもない推論が登場した。それはこんなものである。
「今、地球上に繁栄する我々人類を含めた生命体は、実は第1世代ではなく、過去にいくつもの生命体がこの地球上で繁栄し、滅亡していったのではいか。つまり我々は第1世代ではなく、何世代か後の生命体なのかもしれない

Circle Of Life
地球上の生命と地球は運命共同体である。それぞれが協調しあい、尊重し合ってはじめて調和が保たれるべきものである。しかし、人類はその知能でどんどん自分たちの都合のいいように振る舞う結果、自然は破壊され生態系は崩れ、地球上の生命の輪が壊れかけている。これは地球滅亡へのほんの序曲だった…
ある日、ハイキングに来ていたまだ幼いハリーは森で両親とはぐれ、道に迷ってしまった。途方に暮れて泣いているとそこにアースと名乗る美しい少女が現れた。彼女はハリーに、助けてあげる代わりに自分の願いも聞いて欲しいという。アースも助けを求めていた。「この地球(ほし)を救って欲しい」と。しかしそう言われても、ハリーには何をどうすればいいか皆目わからない。戸惑うハリーにアースは「サークル・オブ・ライフ」という木のツルでつくられたリースをくれた。それはところどころに綺麗な石がちりばめてあり、光に反射してキラキラと輝いていた。
「これを大事に持っていて欲しい。そして『その時』が来たら、その先はこのサークル・オブ・ライフが教えてくれる」
と、それだけ言うとアースは彼を両親の待つ湖まで案内してくれた。こうしてハリーは無事に両親と再会することができたのである。
それはとても奇妙で不思議な体験であった。しかしその森はもうない。開発の手が伸び伐採されてしまった。そして「サークル・オブ・ライフ」は今もハリーの部屋に飾られている。幼くして死んだ彼の生前の写真とともに…

Internet Killed Cinema Star
コンピュータの進歩はめざましく、人々の生活に当たり前のものとなった。しかし、そのために追い込まれた一人の女がいた。彼女の名はメリンダ。一時は一世を風靡した有名なポルノ女優だったが、インターネット上にアダルトサイトが蔓延するにつれて、彼女の存在意義は薄れていった。ほどなく職を追われたメリンダは今や惨めな生活を強いられている。こんなにまで寂しい末路を誰が想像できただろうか。彼女にも昔は家庭があった。夫ブライアンは貧乏な遺伝子学者だったが、そんな夫に彼女は必至で金銭的な援助をした。しかしある日突然、彼は出て行ってしまったのだった。何が彼を変えたのか、それは未だにわからなかった。一人息子のハリーをも病気で失い、今や飼い猫のトミーだけが彼女のよき理解者であった。
失意のうち、ついに彼女は自ら死を選んだ。自分を追いつめたコンピュータ社会を心底恨みながら。それは恨みに満ちた霊魂の復讐の始まりであった。

Parasite X

コンピュータは世の中にはびこり、便利になった世界はもうそれ無しでは生きられない体になっていた。その一方でコンピュータ・ウィルスも進化していた。それはまるでイタチごっこのようだったが、現在ではそのほとんどが駆除されたと言われていた。しかし今、密かに恐ろしいことが起きようとしていた。今までにない強力なコンピュータ・ウィルスの出現である。それはすぐに症状を出さないため、感染していることがわかりにくく発見が遅れてしまう。しかもこの新種のウィルスはあたかも「意志」を持つかのように自ら宿主を求めて彷徨うという。いつしか「Parasite X」と名付けられたそのウィルスは、さながら底知れぬ怨念を抱き彷徨う霊魂のようであった。
Parasite Xは今まさに宿るべき「体」を求めていた。しかしターゲットはすでに決まっていたのだ。ある日、とある研究所の一つのコンピュータが人知れずこのParasite Xに感染してしまった。

DNA
ある研究所でひとりの学者が遺伝子学の研究をしていた。彼の名はブライアン。熱心な研究者であった。彼の目的は遺伝子操作でハイブリッドな人間を創ること。あらゆる分野の優秀な人間の遺伝子を組み込んだ個体を創り、様々な学問の進歩や政治的統制に結びつけたいと願っていた。それは軍の命令でもあったため、最新の設備と潤沢な資金のもとで彼はただひたむきに自分の研究に没頭することができた。ブライアンには、それが軍が密かに目論む世界統一という陰謀に繋がるものだとは全く知る由もなかった。
やがてブライアンはハイブリッド人間を創ることに成功した。それは有能な平和の指導者と同時にヒトラーやナポレオンの遺伝子が組み込まれた勇敢な軍人でもあった。キアズマンと名付けられたハイブリッド軍人は、ブライアンが彼の研究室に作り上げた遺伝子組み替えのシステムによって、祖国に対して忠誠を誓うようにプログラムされていた。しかし彼のシステムの中に恐ろしい侵入者がいることを誰も気付いていなかった。ブライアンのコンピュータはあのParasite Xに侵されていたのである。感染したコンピュータの誤作動により、キアズマンの遺伝子情報は密かに書き換えられていたのだった。

Crazy Chiasman
ブライアンの血と汗と涙の結晶ともいえるハイブリッド軍人キアズマンは、各地の内戦で指揮をとり、いざこざをことごとく平定していった。その功績は高く評価され、キアズマンは今や押しも押されもせぬ要人となった。そして軍は彼に全面的に平和維持を一任した。
ところがある日突然、キアズマンはまるで何かに取り憑かれたように狂変してしまった。「いつか世界を征服してやる」と。それは当初軍の思惑通りだった。しかしいつしか祖国への忠誠心すら失った彼は、「自分が世界を征服する」という、とんでもない思想を持つようになった。今や彼のDNAの中に潜む底知れぬ怨念がキアズマンの心と体を支配していたのだ。逆らう者は容赦なく殺された。
予想もしなかった出来事に軍は、大統領の指示で彼の暗殺を謀った。しかしキアズマンの優れた知恵と強力な武装の前には為す術もなかった。ついに彼は大統領をも脅迫し、国の実権を握ってしまったのだった。こうして突然平和と秩序を失った街には犯罪が横行し、無法地帯と化した。
ある日キアズマンは彼の創造主であるブライアンの元を訪れた。そしてブライアンに凶暴な肉食獣の遺伝子を組み込んだ「人食いネズミ」を作るように指示し、言うことを聞かなければこの研究所を爆破すると迫った。

Mouse Cage
キアズマンに脅され、ブライアンはやむなく人食いネズミを作り始めた。遺伝子操作により繁殖力も強化されたネズミたちは、ケージの中でどんどん増え続けると今度は餌が足りなくなり共食いを始める。ブライアンはそんなケージの中のネズミたちを眺めながら、まるで今の犯罪が横行する世の中をそのまま見ているようだと思った。このままではいけない。自分が良かれと思って創ったキアズマンが世界を破滅へと向かわせている。全く自分はいったい何をしているのだ。今まで何のために大切な家族を捨ててまで研究してきたのだろうか?彼は自分の人生を振り返って恥じたが、もう後の祭りだった。こうなったら、なんとかしてキアズマンを滅ぼさなければならない。そしてこのネズミたちをこのまま生かしてはならない!…
そう思った瞬間、ブライアンは背後に気配を感じた。
「お前はもう用無しだ!」
振り返るとそこにはキアズマンが立っていた。そして一発の銃声が研究所に響き渡った。ほどなく人食いネズミたちは街に溢れ出し、みるみるうちに世界中に散らばっていった…

The End Of The Ruin
やがてネズミ達は世界中の街を襲った。あっという間に緑の星、地球は死の星となった。地球征服を目前にしたキアズマンは要塞を作り、そこには彼の言いなりになる人間だけが集められた。すべては彼の筋書き通りだった。しかし予期せぬ出来事が起こった。世界中に散らばったネズミたちがキアズマンのいる要塞めがけて、一気に押し寄せて来たのだ。
「そんなバカな!ネズミたちは標的を失うと自滅するようにプログラムされていたはずだ!」
それは大きな誤算だった。ネズミたちを狂わせたのはブライアンの遺伝子操作の仕業か、それともParasite Xの感染の影響か、今となっては知る由もない。殺しても、殺してもネズミは減らず、とうとうキアズマンはネズミたちに取り囲まれた。そして

After The Rain
ある日、廃墟の街を一人の若者が訪れた。彼の名はハリソン。実は彼はブライアンによって創られたクローン人間であり、死別したブライアンの一人息子、ハリーの遺伝子を有していた。もちろん本人は何も知らない。彼は自身を孤児だと思っていた。今は温かい家族を持ち、そしてそれを何より大切にしていたが、育ての親であるゲン老人の命を受け、ここ数年ほど遠い島国へ修行に行っていたのだ。久しぶりに長い旅から帰り、故郷の土を踏んだ彼は愕然とした。そこに彼の愛すべき家族はいなかった。家族はおろか、町中の人々が、そして虫さえもいなくなっていた。人食いネズミに襲われ廃墟と化した故郷は、さながら紀元前に滅びさった古代文明の遺跡のようであった。彼は声が嗄れるまで叫び続けたが、誰一人としてそれに答えるものはいない。そこにはもう彼しか生き残っていなかったのである。悲しみの雨が通り過ぎた後、彼を濡らすものは、もう涙以外何もなかった…

Brilliant Circle
ハリソンは悲しみにくれながら生まれ育った孤児院を尋ねた。そこは街からだいぶ離れた丘の上にある。もちろん孤児院にも誰もいなかった…いやいたのだ。人がいたのだ。現れたのはゲン老人であった。ゲンは数年前に孤児院を閉め、難を避けひとり山籠もりしていたのだという。そしてゲンはハリソンを待っていたのだ。ゲンはハリソンに、この世界を襲った出来事をすべて話してくれた。そしてゲンは言う。「ハリソンよ、これは地球の危機なのだ。そしてまた、人類が自分たちの都合のいいように振る舞い続けた、その代償なのだ」と。同時に彼は自分自身の出生の秘密も知ることとなった。突然真実を告げられ呆然とするばかりのハリソンに、ゲンはブライアンから預かったと言ってあるものを差し出した。それはあの「サークル・オブ・ライフ」であった。 そうだ!ハリソンはそれが、ずっと忘れかけていた記憶のように感じた。彼には子供の頃の記憶が全くない。しかし、その古びたリースを見せられて、はっきり思い出された。
その時だ!「サークル・オブ・ライフ」が突然宙に舞い、輝きはじめたのだ。そしてその輪の中にぼんやりと少女の姿が映し出された。それは幼い迷子のハリーの前に現れたあの美少女「アース」であった。彼女はハリソンに言った。「光の大陸へ行け!」と…

Next World
今や、地球上の生命はみな絶滅に瀕していた。そこにボロをまとってさまよう一人の男がいた。男の名はハリソン。不思議な光るリース「サークル・オブ・ライフ」の中に現れた謎の少女アースの言う「光の大陸」を探していた。光の大陸には無数の扉があり、その中のたった一つだけが復活を約束する扉なのだという。光の大陸がどこにあるのか、そして扉を開けると何が起こるのか、今の彼には全く知る由もないが、ただひたすら自分を信じて歩き続けていた。扉を開けられた者は「神」になれる。そして「神」はまた次の世代の生命を創造できるのだと。それは扉を開けた者だけが、「選ばれし者」だけが手に入れることのできる「幸運」、いや「運命」なのだ。しかし扉は無数にあり、どれが正解かは開けるまで誰にもわからない。もし正解の扉を探し出すことが出来なければ、この地球は死の星となるのだ。
歩き始めていったいどれくらいの月日が流れたのだろうか、ある日ハリソンは海に出た。その時突然サークル・オブ・ライフが再び輝きはじめ、目の前に小さな筏(いかだ)が現れた。と同時に、水平線の彼方に明るく光り輝く場所があった。「光の大陸だ!」彼は直感的にそう思い、筏に乗りこんだ。
近づくにつれてだんだん島影が明らかになってきた。そこはまさに天国のようであった。浜辺は金の砂、木々も金粉が塗れたかのように光り輝いていた。そして島のあちらこちらに「扉」があった。ハリソンは目を閉じた。ゲンの教えを思い出し、精神を無心にして、サークル・オブ・ライフに導かれるままに一つの扉を開けた…
扉の向こうには真っ白い霧が立ちこめた森があった。どこかで見覚えのある森。そう、それは幼い時不思議な美少女アースと出会ったあの森であった。そして霧の中にはぼんやりとアースの姿が浮かび上がっていた。彼女はやさしく微笑んでいた。ハリソンは急に意識が遠のいてゆくのを感じた。そして薄れてゆく意識の中で、いつしか彼も微笑んでいた…