料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI
   

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ふたたびハガサンボン
 
 イソさんとふたたび歯の話になった。
「ぼくの歯ァ、七本とちがいました。十本はありますよ。あれ、八本だったかな」
「この際、一本や二本の差、ないと同じでしょうに」
「まあ、そう言えばそうやな。一、二本、すぐに抜けてしまうんやから」
「自分でぬいちゃうんでしょ?」
「それは弟ですよ。ぼくも抜くことはありますけど、だいたいはほんまにポロと抜けてしまうんですよ。なあ、平田くん?」
 平田くんというのは相棒の女性である。
「そうなの、食事してて急にイソさんが静かになると、もう抜けてるの、歯が」
「それは何なの、料理が口に、じゃない、歯に合わないからなの?」
「さあ、なんでもおいしく食べられるほうですけど。とくに羊が好物で、どこやらの国で食べたカバブなんて固くて、それこそ何の肉かと思うような感じですけど、これがえらく旨いんですわ。あれ食べとうてまた行ったりして」
「歯を失ってまで食べたいカバブねえ。そりゃ食べてみる価値ありそうね。で、日本じゃ抜けないの?」
「それが日本だと、家に帰ってから抜けますねん。そんな固いカバブ出すとこありませんしね。クリクリのだって柔らかいし。そや、湿気とちゃいますか?外国は乾燥しているから歯茎がパサパサになってしまって歯ァが抜けやすい、とか」
「乾燥肌じゃなくて、乾燥歯、だ、ね」
「なにゆうてるんだか、もう」
 
 
  ***  
 
 
 くすくす笑いながら聞いていた平田さんが、
「イソさんたら、外国へ行く度に髪まで少なくなるって心配してるの」
「そうですねん。なんや少―しずつ外国へ落してきよるみたいで。ぼくはこっちの方がこたえますな」
「外国だから特別に落ちるってもんでもないでしょ?それとも乾燥で抜けやすいとか?」
「イソさんは帽子ばっかりかぶってるから乾燥しないと思うんだけど」
「ははん、じゃあムレだなムレ。歯は乾燥で抜け、髪は湿気で抜ける」
「なんや、ひどい店やな。ぼろぼろに言いよる」
 イソさんは目を丸くしてため息をついた。
「失礼、失礼。でもね、どうしてイソさんの周りばっかり抜けるのかしら、歯」
「そやそや、友達の△△もそやった。そんなんばっかりですわ、まわり。これって時代とちがいますか?ぼくの年代は親がろくなもの食べんと子ォ作りよるさかい。……ああ、知ってますか、作家の○○?あの人もホテル缶詰になるたんびに歯が抜けるそうですわ」
「身を削って作品を書いてるのね、文字通り」
「ぼくは、そんなんようしません。仕事で歯ァ抜けるの嫌ですわ」
「だってもう、歯ないじゃない」
「意味がちがいますよ。ものを食べて歯ァがなくなるならしょもないけど、仕事で歯ァ抜けるほど打ち込んだりするの嫌ですねん。歯ァ抜けないように適当に仕事するのがよろしおま」
「でもさ、総入れ歯になった後ならいいんじゃない、仕事にうちこんでも?もうないんだから。あ、そっか。今度は髪にきちゃうか」
 
 
    * * *
   
 
  「もう、他人ごとだと思って。でもね、その作家、とうとう歯が三本しかなくなって、結局さいごはグラグラの歯を自分で抜いて、三十五で総入れ歯ですって。だからあの××賞は歯でとったんとちがいますか?」
「ふーん。歯を捨てて賞をとる、ね。やっぱり三本になった時が分かれ目だわね。ああ、早く弟さんのハガサンボンに会いたい。今日つれてくるって言ってなかった?」
「それが弟のやつ熱だしよって来られませんねん。せっかくぼくらの引越してったわせよう思たのに」
「あ、そりゃ大変。熱なんか出すと残りの三本抜けてしまうかもよ。熱はまずいわよ。ほらあたしたちだって熱出すと、なーんか歯が浮くようになるじゃない?あたしが見たいのは、残った三本の歯とそれを取り巻く石膏なんだから」
「じゃ、ちょこっと家へ電話して、うちのお母にどんなことがあっても弟の歯ァ抜かしたらあかんと言うときます。石膏でもセメントでもつけておさえとけて。なーに、それ見せれば金になるかもしれへん言うたら、あいつ必死で我慢しますわ」
「ちょ、ちょっと。誰がお金なんか払うって言った?」
「あれっ、お金にならんかったら弟、平気でスッポンスッポン抜いてしまいますよ」
 
 
     
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