料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI
   

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  平田くん  
     
   同じ職業の男女がいっしょに住むというのはどんなだろう。どんなだろうと私が言っているのは、かなり悲惨じゃなかろうかという意味である。

 たとえばマスターの奥さんも料理人だったらどうだろう。片方の料理人はもう片方の料理人の作った料理が口に合わない。ああだこうだとケチをつけて、しまいには「ええい」とばかりに自分で作ってしまう。同じ料理をふたつ前にして、運ぶ私が一番悲惨かもしれない。せいぜいケンカに巻き込まれないよう注意するしかあるまい。まあ、これは想像だから、実際のマスターは一人で料理を作っているし、奥さんはたまに店に顔をだして口もださないかわりに手助けもしないから、ケンカになりようもない。それでいいのだろう。

 イソさんのところはどうだろう。イソさんには平田さんという同業の相棒がいるわけだが、あまり悲惨な話はきかない。それもこれもイソさんが大阪人であることがいいのであろう。一におもしろい。二にもおもしろい。三、四がなくて、五にもおもしろい。おもしろい人とケンカしてても、なんだかどこかで笑ってしまう気がする。あくまでも気がするだけだけど。
 
 
  ***  
 
   ところでイソさんが平田さんのことを君付けで呼んでいるために、方々でどういう関係だろうかと詮索のもとになるらしい。
 ある時、とある喫茶店でイソさんはそこのママさんとおぼしき人から、大胆不敵単刀直入好奇心満々即広劇(ワイドショー)的質問を受けたのであった。

「いつもおふたりでお見えになりますけど、ドーユーゴカンケーですの?えっ、よいお友達?じゃあ男女の関係とみてよろしいですわね?それで、いつごろからカンケーをもたれたんですの?えっ、忘れてもうたあ?」

 どーゆーカンケーでも他人の知ったこっちゃなかろうが、人のいいイソさんはママさんのニンニクくさい息にむせながらなんだかんだと正直に答えてしまったそうである。
「ほらね、やっぱりアタシの見たとおりでしょ?」
ママさんは今度はウエイトレスたちにニンニクの匂いを吹きかけた。
「えーっ、うっそー。信じられなーい。親子だと思ったあ」
「自分の娘だったら、平田くんなんて呼びゃあしないわよ」
「わー、ママさん、観察チョウするどーい」
「ふっふ、アタシの目は千里眼よ」
「ぼくも千里に友達いてますよ」

 イソさんがのんきに言った。するとママさん、「ちょっと火をくださる」とタバコをぬっとイソさんに近づけた。喫茶店にはマッチが山ほどある。それでも自分のものは使うまじ、の構えである。イソさんは真っ赤なマニキュアが目の前でヒラヒラするのを見ていたらめまいを起こしてしまった。
「ヒラ、ヒラヒラ……」
 イソさんのつぶやきを聞いた千里眼的地獄耳のママさん、
「あーらやだ、こんな時までイイ人の名前呼んでる」
 
 
    * * *
   
 
   とにかくイソさんと平田くんは親子に見えるのである。ふたりで実に親切でおもしろいイラスト紀行本を共著で何冊も出版しているが、イギリスでもイタリアでも必ずこのママさんのような女性がいてカンケーをきいてくるそうである。ただ違うのは、その息がブルーチーズくさかったり、バジリコくさかったりすることだけである。
 平田くんの方は親子に見られて決して悪い気はしない。
「そんなことどっちでもいいじゃないですか」
 とあいまいにして、そのまま親子に思わせておこうとする女性的な計算が働く。
 さてさて、親子に見えるイソさんと平田くんの同業者生活がどのように展開されているのか、一度ゆっくりお訪ねして広劇的興味を満足させてみたいと思っている。もちろん、その時は、あらかじめギョーザなど食して相手をケムに、いやいや匂いにまかなくてはなかなか成功するものではあるまい。
 
 
     
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