料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI
   

ホーム
  ご来店になる前に
  歴史
  お知らせ
  メニュー
  最近のおすすめメニュー
  おすすめワイン
  マスターのコーナー
  マスターの奥さんのコーナー
  おもろいお客さん
  花族
  畑情報 嵐のち晴れ
  リンク集
  地図
  更新情報
   

  おもろいお客さん

 
  喧嘩イソ  
     
   

 イソさんはケンカっ早い。

 ケンカの多くは車道で起こる。自転車を無視するような車を見過ごすことができないのだ。エッチラオッチラ自転車をこいで追いかける。そんな馬鹿なと思われるだろうが、新宿周辺はいつも混雑している。かならずどこかの信号で追いつくそうだ。追いつくやいなや窓をバンバン叩き、「おいこらっ出てこいっ」とやる。ドライバーはひょっと外を見ると小柄なおっさんがすごい形相でバンバンやっている。相手にせず走りだすと、また信号で追いつかれる。何度でも何度でも汗びっしょりになって追ってくる。一度は「なにをっ」と窓を開けてもみるが、最後には根負けして謝るハメになる。

 タバコにまつわる武勇伝も多い。とくに映画館では「おいこらっタバコ吸うな」と声をださないときはないという。どんな映画館に行っているのかはさておき、とても道徳心の強い人なのである。しかしイソさんのケンカが勝つとは限らない。その良い例が先日の都庁前事件であった。 

 

 
 
  ***  
 
   

「ハイ、それは、イソさんが歩いていた時のことでございます。家からさほど遠くない、歩いて二、三分の、ということは家からすぐ近くといってもいい都庁の、その前の道を歩いておったのございます。

 すると陸橋にもたれた若きカップルが濃厚なるラブシーンをくりひろげておりました。イソさんは自分の方が真っ赤になって足早に通り過ぎようとしたのでございます。ところがどのような神のいたずらか、通り過ぎようとする正にその時、チラッとカップルの方を見てしまいました。見てはいけないと思うと、つい見てしまうのが人間というものなのでございます。ですから神のいたずらなんかじゃなかったわけですね。
 その時、男の人と目が合ってしまいました。これは間違いなく悪魔のいたずらでございました。あるいはただ単に間が悪かっただけかもしれません。イソさんはいつも間が悪いのです。「ヤバ」と思ったとたん、その男が舌を出しながら「バーカ」と言ったそうです。舌を出したのは「バーカ」と言った後かもしれません。試してみましたが、「バーカ」と言いながらなかなかうまく舌は出せませんので。なんならやってごらんなさい。世の中には舌でコヨリを結ぶなんていう器用な人がいるそうですから、案外あなたになら簡単にできるのかもしれません。

  ちょっと脱線してしまいましたが、なに、これもイソさんの話をするときの味の素みたいなもので。実はイソさんも私も味の素世代なのでございます。そういえば頭が良くなると言って母が雪のようにふりかけてくれたおしんこの味の素のききめはいったいどうなったんでしょうねえ。またまた脱線してしまいました。いえこれもイソさんを語る味の素だと、あれ、なんだかドードー巡りをしているようです。味の素をふりかけて頭を良くしなければ・・・。
 

 
 
    * * *
   
 
 

 さて、陸橋の上の男がイソさんを馬鹿にして至極わかりやすり言語を発した時、プッツーンとものすごい音がしてイソさんのカンニンシテヤ袋のオが切れたそうでございます。
「なんやて、もういっぺんゆうてみい」
 こういう時に大阪弁はスゴ味があります。男は突然、テレビでしかきいたこともないような大阪弁のタンカをきいて口をパクパクやっていたそうでございます。もしかしたらコヨリ結びで舌がこんがらがっていただけかもしれませんが。


 さてイソさんは、売られたケンカは買うのがナニワ男の心意気や、トーキョーの若造になめられて都庁のそばで生きていけるか(カンケーないですが)と、真っ赤な顔で立っておりました。もちろん、今度は怒って赤い顔になっているのでありました。
「やめてっ、お願いやめてっ!」
 やおらカップルの女の方が男の前に立ちはだかり、カン高い声でくり返したそうです。その場面はまるで映画のひとこまのようだったとは、後になってその辺りに住まいいたす青テント族の方に聞いたことでございます。


 あまりの騒ぎに青テント族以外にも、外国人はくるわ、今までどこに潜伏していたのかと不思議になるほどのたくさんのカップルが来るわで、にぎやかなことおびただしかったと申します。もし、黒装束の方が大挙して顔をお出しになっていたら、それはノゾキの先生たちでございます。

 今度はイソさんは真っ青になりました。他人さまの目には、まるで自分が悪漢のように映っていることがわかったからであります。カップルはひしと抱き合って被害者を装っております。こういう時中年は損をしたします。いや、ホントの話。

 イソさんはその後どうしたのか、なにも言ってはくれません。でも多分、以下のようなことではなかったかと想像しております。
「ちゃうて、ちゃう。おれはなーんもしてへん。通りすがりに見ただけや」
 とイソさんが言い、群集は、「やっぱりチカンよ」と囁く。
「ほんまにちゃうて。ちゃうてちゃう。チャウチャウ犬ちゃうで」
「あら、コワレてる。やーねえ」 
なにが怖いって、群集ほど怖いものはおまへん。

 その事件の後、イソさんは野球帽を目深にかぶり、カップルを見るとさっとビルの陰に隠れるようになったそうでございます。なんともはや、お気の毒なことで、ハイ」 

 
 
 
     
   

目次へもどる

   
     
    ページの一番上へジャンプ