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タカちゃんはある組織のお偉いさんである。そんなえらい人がどうしてくりくりを気に入ってくれたのか謎である。私たちにも謎であるが、タカちゃんの秘書や部下たちにはもっと謎のようだ。いつもタカちゃんだけが上機嫌で、取り巻きの人たちはぶすっとしている。酔ったタカちゃんが「わしゃあ、この店が好きじゃ。ほーんとに好きじゃあ。おいオヤジ、なあ?」などとわめいても、皆、「ははははは」と声だけで笑ってまずそうにワインを飲んでいる。
タカちゃんというのは私がつけたあだ名である。西郷隆盛に似た外見や話し方から九州出身だとばかり思っていたら東京っ子だった。
「ヨモギ餅って知ってっか?俺なんかさ、そのヨモギを江戸川でつんでさ、きれいに洗って料理屋へ持ってたりしたよ」
「まあ、それじゃ、子供さんのときにもうアルバイトなすってたんですか?」
「そうだよ、おめえ」
相手によって俺だったり僕だったりワシだったりする。今日は女性ばかり五人も呼んでいる。秘書や部下、あるいは元部下。「運転手にジュース持ってってやってくれ」と言わないところをみると、自分の車は返したのだろう。
タカちゃんは最初電話をしてきた。受けたのは私である。
「もしもし、そこはくりくりっての?」「はい、そうですけど・・・」
「どんな食べ物があるの?」
「えー、マスターが気ままにつくるお手軽料理ですが・・・」
「フランス料理?フォアグラはあるの?」
「いえ、そういう手の込んだものはおいてません。あの、もしあれでしたら近くのオペラハウスの上にサバなんとかっていう有名なお店がありますが・・・」
「ああサバティーニ?ありゃイタリア料理だよ、先週会食で使った」
「フランス料理なら、えーと」
「昨日はアピシュス行ったよ」
「えっ、アピアピ?」
「で、いくらぐらいの料理出してるの?」
「いくらもなにも、一皿七百円ぐらいからの安い店ですから」「あーそう、そんなに安いの。何時からやってるの?」
「はあ、六時ですけど、でも、いらっしゃらないほうがいいと思いますよ」 「ま、いい。一度行ってみるから」
というわけでタカちゃんは律儀に六時に来たのである。ところがマスターが突然の買い物で留守。私も出勤してなくて、タカちゃんは二人の男性秘書とじっと待っていた。
「どうなってるのここ?客に店番させて」
そんなことがあったのに、タカちゃんはくりくりのお客さんになった。
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