料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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タカちゃん 二
「入院してたんだよ、本当だよ」
 しばらく姿を見せないので、いよいよくりくりにも飽きて、やっと分相応の高級店にもどったのかと思っていたら身体を壊していたという。
「腹切ったんだよ、おめえ、腹。できものができちゃってさ悪性の」
「あ、悪性?」
「たいしたこたねえんだよ。もうピンピンしてんだから。おいワインくれ」
「なに言ってるんですか、悪性の人が。ワインなんかだめですよ。だめだめ」
「だからグラスでだよっ。文句あっか」
 どうしても言うことをきかないのでグラスワインを出すと、あっという間に流し込んでしまう。これじゃかえって身体に悪いというので、お供の人がボトルを注文した。
「おい、冷やしたやつだぞ。ぬるいのはだめっ。俺は一杯でいいからさ」
 結局いつも通りガブガブ飲み、タバコもバクバク吸い、上機嫌で「ごっそさん」と帰っていく剛毅なタカちゃんなのだった。
 それでも当分は体調すぐれず外出はままならないと思いきや、すぐにまたやってくる。その日はお供もいず、若い女性を一人連れてきた。病み上がりのくせにと私が横目でにらむと、「娘なんだよ」と言った。
「あら、そうなんですか。私はてっきり・・・」
「てっきり何なんだよ。俺はね、品行方性な男だよ」
「そうですね、みかけによらず」
 一言多いのは私の常である。「その格好じゃ、モテるわけないですけどねえ」と追い討ちまでかけておく。タカちゃんは地味なブルゾンの襟を内側にひっくり返したまま、
「俺はね、何を言われても怒らないの。おやじのさ、遺言だから」と鷹揚に笑った。
「怒ったって何もいいことないよ。本当だよ。だからさ、あのコンビニの兄ちゃんにも腹は立てないよ」
 タカちゃんは一人住まいである。家は通うには少し遠いので、こちらでマンション住まいをしていて週末に家にもどる。朝の散歩の帰りにコンビニで朝食用のヨーグルトをしこたま買い込むらしいが、そこでどうやらホームレスに間違えられるらしい。
「おじさん、これスプーンなきゃ食えないよ、なんて言いやがるんだよ。な、おかしいだろ?」
「そう言われて、どうなさるんですか?」
「わかってるわかってる、ってさ」
「よく頭にきませんねえ」
「それでさ、女房にもらったチケットっていうの?アイスクリームのさ。あれを渡して取りに行こうと思ったらさ、品物の入ってるカゴは置いてけなんて言うんだよ」
「まあ、失礼」
「秘書の○○、知ってんだろ?あいつが怒ってさ、その話したら。バンと専用車で乗り付けて私たちが言ってやります、なんてさ」
「お父さんがいけないんじゃない?ちゃんと洗濯してるの?あ、ほら、襟、裏返ってる」
 娘さんは呆れ顔である。
「してるよ、散歩から帰ったら、そのままシャワー浴びて洗っちまうんだよ」
「えっ脱がないでですか?」
「そうだよ、おめえ。一石二鳥だぞ。パンツなんか四日に一枚で十分だよ。な、前後裏表で四日だろ?」
「やだ、お父さん。洗濯機に入れるなんて簡単じゃない」
「干すのが大変なんだよ」
「身の回りのこと世話する人、頼んだらいかがですか?」
「いらないよ、俺なんだってできるんだから」
「そうですね、味もわからないんだから、何食べても生きていけますよね」
 今度の私の一言はちょっとまずかった。タカちゃんはお父さんの遺言を忘れて不機嫌な顔をしてあっちを向いてしまった。だいたいが、味なんかわからないって、自分で言ったくせに。
 
 
     
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