料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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オケラ

 最初にオケラという名を聞いたとき吹き出しそうになった。私の育った本郷に「おケラ」 というあだ名の娘がいたからである。名づけたのは私の母だった。おケラは私と同じ真砂小学校の、クラスこそ違え同学年であった。

 おケラの家は湯島にあったが、わざわざ学校の帰りにうちへ寄っていく。ドーナツが目当てである。私の母は実に美味いドーナツを作った。形はお世辞にも上手とは言えなかったが。

 おケラとは、学校よりも本郷三丁目にある教会で会うことの方が多かった。彼女は日曜には欠かさず教会に来ており、礼拝が終わっても帰らずに背中を丸めてお絵かきなぞをしていた。クリスマスやイースターにはずいぶんと張り切ってお手伝いもしたようだ。我が家にも彼女の作った星の作り物だのイースターの卵だのがもたらされたが、母のドーナツと同じで、決して見目良いものではなかったと記憶する。

 おケラとはケラケラよく笑うという意味である。そう呼ばれると、「なにさ、おばさんなんかウンチみたいなドーナツしか作れないくせに」と憎まれ口をきいていたが、案外気に 入っていたのかもしれない。ドーナツはもちろん、その名も、母のことも。

 おケラがそうやって憎まれ口をきくと、母までがまたケラケラと笑うのであった。
 オケラという花には、しかし、そんな明るさは微塵も感じられない。乾燥地ばかりでな く、暗い林中にひっそりと咲くことも多いからであろうか。割合に群生するが、目立たないのでよく見過ごしてしまう。「うけらが花の色に」と万葉にうたわれたと知った後でも、
「へえ、万葉集ねえ」という程度の反応しかひき起こされない。それはこちらが万葉集に対する知識に乏しいということもある。しかしよく見てみれば、その白っぽい朱鷺色には日々の事どもに疲れた人間の心をふと和ませてくれる、かそけき風情がある。

 図鑑などには、オケラの花の下にある包葉は骨を集めたような、と表現されているが、たしかにバリバリとこわばった線が絡み合っていて、それは華奢な花を守ろうとするおとぎの国の王子の剣のようでもあり、首にまいている何とかいう輪っかのようでもある。

 さて本郷のおケラは、その後どうしただろうか?守ってくれる王子様に出会えたであろ うか?それとも、一人で気丈に生きているであろうか。いずれにせよ、細事にこだわらず、毎日をケラケラと笑って過ごしていることだけは間違いなかろう。

 
オケラ キク科多年草 若芽は食べられる。 漢方では根茎を利尿、健胃剤に。
 正月の屠蘇散の原料にもなる。
    
 
 
     
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