料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

ホーム
  ご来店になる前に
  歴史
  お知らせ
  メニュー
  最近のおすすめメニュー
  おすすめワイン
  マスターのコーナー
  マスターの奥さんのコーナー
  おもろいお客さん
  花族
  畑情報 嵐のち晴れ
  リンク集
  地図
  更新情報
   

 
花族
 
 
 
スイセン
 

 二十歳を過ぎたばかりの頃、福井の東尋坊へ行ったことがある。ちょうど自殺願望の年頃。断崖絶壁から日本海へダイビングすることに憧れて、というわけだ。

 しかしいざ断崖へたどり着いてみればへっぴり腰で下を覗き込むばかり、いっかな飛び 降りようとはしない。どころか、崖下からの風の強さに恐れをなし、ほうほうの態で宿へ戻ってしまった。憧れの地ではるか真下に臨んだものは死の淵でもなければ生の神秘でもなく、ただただ意気地ない自分の姿であった。

  そのせいか、波の花さえ美しいとは思えず、透明感のないその白色をむしろ汚いとさえ 感じたものだ。何かに当らなければ東京に帰る理由が見出せなかったのかもしれない。


 いくばくもなくして、また訪れるチャンスがあったが、その時はもうひたすら生にしがみつく人間に成り下がっていた。夢も挫折も不孝も愚行も、あの時の波の花のように薄汚 れたまま空中に放り投げてしまって。
 それから今まで、恥ずかしながらそのスタンスに変りはない。
 
 あの最初の時、よく一人旅の娘を宿が泊めてくれたと今さらながら首を傾げるが、なに、敵はすべてお見通し、知らぬは本人ばかりなり。
 お茶を運んでくれた女性に「スイセンを見にきたんですか?」と訊かれた。何と返事をしたか忘れてしまったが、こんな時にスイセンが咲いてるんだと妙に心に染みたことを覚えている。あの時、越前海岸のスイセン群を見ていたら、もう少しまともな心を育ててもらえたのでは、と思ったりする。花の大群は、ときに心の果てから果てまで席捲していくものだから。


 野に、好きな花は数知れずあるが、花屋で出会うので好きなのといったら何をおいてもまずこの花だろう。
 スイセンは、葉のあしらいでひとつで状況や時節を表現できる便利な花でもある。その上、一輪の可憐さは数を増しても変ることがない。最後に、あの香り。決して弱くはないのにうるさく感じることがない。茶席でも、困った時にはまずスイセン。

 ありがたい花である。           (2003年1月30日)  

 

 
水仙  ヒガンバナ科  ごく普通のスイセンは、昔、地中海方面から中国をへて日本に 渡来したものといわれている。
 
 
     
    目次
    ページの一番上へジャンプ