料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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ホオノキ
 

 

 朴葉味噌で有名なホオノキだから、葉の立派なことは都会人といえどもご存知だろうが、花もまた大きく美しいことは案外知られていない。直径が実に十五センチもあるのだ。しかも花数は少なく、木の高さは二十メートル近い。一番下の枝でも、わが頭上である。これではいくら借家の庭に植えられていても花期を察知することは難しい。
 花には強い芳香があるのだが、なんせ高所である。下にまで届かない。「あら、いい香り・・」と気づいたときにはもう花びらが散っている。

 しかし借家生活をはじめたのも昨日今日のことではなくなった。毎年、同じ過ちを繰り返しているわけではない。車で移動中、山中に白い大輪を散見すれば、そそくさと戻って庭のホオノキを見上げてみる。葉が多すぎてよくは分からぬが、はるか上の方がチラと白い。あれだ、あれ、いよいよ今年こそお目見えだと、なにやら伝説の美女に遭遇したかのように心弾み、その夜の酒の味はことのほか美味なのである。

 酒とくればつまみ。鮮やかな緑の大葉を皿に見立て、簡単な食材をチマチマのせて大人のままごと遊びをする。ひとしきり堪能すれば、逞しきその幹に背をあずけ、口をついて出るは昔ならい覚えた謡のひと節。「そーれ邯鄲の枕の夢―えぇ・・」しかしすぐに窮して詩の朗読でウニャムニャ。「まだあげそめし前髪の、リンゴのもとに・・」そこでハタと、ホオノキの下でなんでリンゴかや、と首をひねっている間に邯鄲の夢に引きずり込まれ・・。

 目覚めれば、はてさて、どれほどの年月を経たものやら。眼前の風景は昨日の続きのようでもあり、ようでもなし。そこへ樹上からバサリと象牙の大杯。古の大陸の、自らが伝説の美女になりきって悠久の時を過ごしたはずが、花に直撃されてみれば単なる勘違い、ただの酔夢。我が栄枯盛衰は枯と衰ばかりなり。

 

 さて、夏に涼しい木陰を提供してくれたホオの葉も、初秋になれば少し面倒である。ひっきりなしに落ちてくるからである。まるで、天の洪水に船たちが避難でもしてくるかのよう。その数や、日本中の方に朴葉味噌をおすすめしてもまだ余りある、なんて表現すれば白髪三千帖の類になってしまうが。 (2003年5月26日)

 
ホオノキ  モクレン科 やわらかく細工しやすいので、下駄をはじめとしていろいろな 器具につかわれる。
 
 
     
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