料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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瓢箪

 茶の湯では十一月の炉開きに新瓢の炭斗を使用するのが約束である。私など一度やっただけで後は知らん顔だが。
 だいたいお茶の点前自体、頻繁でなくなった。何日かに一度やっとありつける一服である。以前は畳をにじらない日はなかったから膝と踝に胼胝ができて痛くて仕方がなかった。畳に座る回数が減っても胼胝だけはそのままだから嫌になる。
 その代わり、毎朝お煎茶をいただくようになった。その時に瓢箪の茶漉しを使う。これはK先生の奥様の手作りである。小さな瓢箪を縦に二つに割り、真ん中に穴を開けて網を張ってある。それだけのものだが、とても風情があるし重宝もしている。

 先日、K先生が亡くなられたことを友人からの電話で知った。八十はとうに越されていたと思う。朝鮮陶磁の専門家でカルチャースクールの講師をしておられた。電話をくれた友人ともその教室で知り合った。車で通っていた私は、先生をお送りしてお庭を眺めるのが楽しみだった。そのうちお宅に伺う四、五人のグループが出来て、そこで個人的な収集品も拝見するようになった。先生は加守田章二の収集で有名だった。
 そんな折であった、私が更年期の欝病にかかってしまったのは。何をするのも億劫になり、先生のお宅ばかりか、大好きだった茶の湯からも遠ざかってしまった。茶道具にたまっていく埃を眺めながら寝てばかりいた。
 
  数年で更年期欝は去ってくれたが、置き土産があった。パニック症状である。とにかく何を見ても怖い。暗闇はもちろん、ドアを叩く音、電話のベル、エレベーターや地下鉄の中、虫の類、すべてが恐怖の的だった。その上、記憶力まで衰退し、本を読む集中力もなくなった。更に困ったのは車の運転ができなくなったことだ。実際にはわずかに運転していたのだが、冷や汗をかきながらである。発車や右折のタイミングが取れない。よく事故を起こさなかったものだと思う。落ち着くまで、ほぼ十年を要した。

 K先生からの贈り物はまだある。朝鮮陶磁器の破片で作った小皿とペンダントだ。両方とも丁寧に角を削ってあり、特に小皿は李朝茶碗の官印が真ん中にあって貴重である。
植物の君子蘭も根ごと頂戴してきた。山梨の玄関前に植えたら驚くほど立派な株になった。それが引っ越し騒ぎの間に、大家さんが土地を平らにしてしまったので跡形もなく消えてしまった。
 これほど尽くして頂いたのに、病気とはいえ先生ご夫婦とのご縁を絶ってしまった罪は決して軽くはあるまい。

 先生は最後にお庭を見ながら大好きな加守田章二の茶碗で一服なさったそうだ。なんと羨ましいご臨終であろうか。やはり君子の格であられた。(2010年11月20日)

瓢箪 ウリ科 つる性一年草 ユウガオの一変種。雌雄同株 夏に白い花を咲かせる。果実は中間がくびれ、十日ほど水につけ果肉を取り去って酒器とする。

 
 
 
 
     
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