料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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ミカン

 新聞で作曲家の林光さんが亡くなったことを知った。
 先生には何回かお目にかかったことがある。母の店に作曲家の方たちが出入りしていた頃、武満先生や池辺先生と見えていた。
 物静かというか、ちょっと近寄りがたい雰囲気の方で、母もあまりお話をしたことが無かったのではないか。同じ物静かでも武満先生は水のように柔らかく、林先生は氷のように凛として、そんな違いがあったように思う。

 その頃の私は親にすねているだけの愚かな少女で、その愚かさが面白かったのだろう武満先生はご自分も少年のように髪の掴み合いなどなさったが、そこへいくと林先生には私ごときの入り込む余地は無いように思えた。
 武満先生の髪をむしったあの日、林先生はご一緒ではなかったのだろう。もし同席していたら大いに憤慨されたにちがいない。
 カウンターに座った姿勢の良い上半身が私の知る林先生のすべてである。その後、お目にかかることはついぞ無かった。たまに雑誌などで写真を拝見して、ちっとも変られないなと思っていた。

 これもだいぶ前のことになるが、林先生の娘さんが盛岡の近くでお店をしていると教えてくれた人がいる。そのとき「ミカンちゃん」と娘さんのことを呼んでいた。ナツミというお名前だったような記憶があるから「夏ミカン」にかけたあだ名かもしれない。
 その人は六本木で小さな設計事務所を開き、かたわら詩も書いていた。自費出版の詩集をもらったこともある。しかし長引く不況に耐えきれず、事務所を閉めて故郷に帰ることになってしまった。ピザのお店でもやりたいと言っていたが、どうしていることか。近頃は年賀状もきていない。

 ミカンちゃんと聞くと、確かに母の店に来ていた若者の中にもそう呼ばれる女性がいた。母がその名を口にしていたのを覚えている。同一人物だろうか。私自身はその女性に会ったことがあるのか無いのか、どうもその辺の記憶がはっきりしない。
いつかミカンちゃんに会う機会があったら母の店のことを知っているか聞いてみたいものだ。

 林先生は享年八十歳。それまで足腰丈夫で頭も衰え知らず、体調を崩された奥さまを優しく介護し・・だったはずが、どういう具合か道で転倒し、意識不明のまま亡くなられてしまった。池辺先生の奥さまも無念そうに首を振っていた。(2012年1月31日)

 

ミカン ミカン科 温帯から熱帯に分布。精油を含み、芳香を有する。花に香りが有るものも多い。

 

 
 
 
 
     
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