料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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トベラ


 晴海で不思議な木を見つけた。椿の下に隠れるように生えているくせに、枝をしならせた重そうな実が人目を惹く。近寄って見ると三裂した実は鮮やかなオレンジ色の種子を見せ、触れれば食虫植物のような粘つきである。うぶ毛のようなものも生えているし、何だか動物的なのだ。この粘着力で鳥の体にくっ付いて運ばせる気だろう。進んで部屋には飾らないだろうなと思ったが、変っているので写真を撮って岡山の知人に送った。

 中学の教師をしているこの男性は物を調べるのが得手なので、多忙と承知しながらつい甘えてしまう。お蔭でトベラだと判明した。変った名前は扉からきていた。節分にイワシの頭や柊などと共に戸口に厄除けとして掛けるのである。そういえば昔我が家の戸口にも干からびた感じの枝がと思い当たったが、名前を聞かなかったのか、聞いても忘れてしまったのか。物心づいてからの我が家は嵐の吹きすさぶ毎日であったから。

 母と二人でアパートに引っ越した時、私は中学生になったばかりだった。笑顔を絶やしたことの無かった母の表情がその頃から曇りがちになっていった。何より驚かされたのは煙草をふかす姿だった。それまで酒を嗜むことはあっても煙草を手にするのを見たことがない。煙いのだろう時に顔をしかめ、指先も心成し震え、それがまた私には耐えがたかった。母が壊れていってしまうような不安に襲われたのだ。しかし冷静に考えれば、母は元々お茶目な面を持ち合わせていた。煙草に手を出すくらいはやりかねないお転婆さんだった。
 煙草など吸ってみても、結局はどうにも変れなかったのが母ではないだろうか。家政婦をしようと思えば矜持が邪魔をし、何かの販売員になろうとすれば言葉遣いがかけ離れていた。職探しは全敗に近かった。
 母もちょうど更年期にさしかかった頃である。難しい年頃の娘を抱え、自身の変調や将来の不安に一人で耐えていたに違いない。母にとっては大切なはずの節分の行事も、この後しばらく止めていた。

 話を岡山に戻そう。知人は夫婦で中島みゆきの熱烈なファンなので「夜会」には欠かさず上京し、ついでにうちへも寄ってくれる。奥さんも中学の教師である。可愛らしい人柄から、よく勤まるなと感心してしまうが仕事場では違うスイッチが入って意外や強面なのかもしれない。二人とも穏やかな分、肝が据わっている。私など強面に思われるが、内面は恥ずかしいぐらい脆弱である。知力の差だろう。

 「夜会」は頻繁ではない。叉いつ教師夫婦に会えるかわからない。せめて花木の写真でくっ付いていようなどと、トベラのような強引技を使う私である。(2012年2月29日)

トベラ  トベラ科 枝の先に葉が集まってつく。5月頃、芳香のある白い五弁の花をつける。


 

 
 
 
 
     
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