料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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ムクロジ
 犬と公園を散歩していて面白い実を拾った。飴色に透けた殻の中に黒い実が一つ入っていて、振るとカラカラと愛らしい音を立てる。いくつか拾って上を見ると、高い所にも飴色がある。去年の実がまだ落ちずにいるのだ。写真をまたもや岡山の知人に送ったところ、ムクロジではないかと返事がきた。

 犬が公園を散歩できたのはそれが最後であった。腰に持病を抱えてはいたが年齢の割に毛艶も顔つきも若々しく、殊に公園では元気に歩いていた。その最後の時など、自転車と並んで小走りに走ったほどだ。ドッグランの見える所まで走ると、私はいつも携帯椅子を出して本を開き、犬は草の上に足を流して休む。そうやって私が寒さに耐えられなくなって促すまで犬たちの走るのを見ているのだった。
 それがいくらも経たぬうちにこちらが慌てるほど調子を落とし、とうとう命の炎が尽きてしまった。

 火葬は深大寺の動物霊園で行った。深大寺は幼犬のとき通っていた思い出深い場所である。その頃、皮膚病が治らなくて深大寺近くの専門の動物病院に通っていた。皮膚をほんの一部切り取って調べるのだが、そこまでやっても原因が分からず、治りもしなかった。通うのを止めて放っておいたら自然に治ってしまった。
病院は役に立たなかったが、かわりに素晴らしい遊び場所を知った。周辺は花木が多く、朝早く車で通うのも苦にならなかった。飼い主たちは親切で、犬たちは天真爛漫だった。その頃一緒に走った犬たちはもう大方いない。
 印象的だったのは緑地に大きなススキの藪があったことだ。犬たちは鋭い葉で顔に傷をつけながら出たり入ったりしていた。先輩の犬に泣かされ、後輩の犬を泣かせ、後になり先になり楽しそうに走っていた。それやこれや、つい先日のような気がする。
 やがて賢く我慢強い犬に成長し、けな気な気配りを見せる友になった。それからの長い時間を私はこの友に支えられて生きてきた。喪失感は計り知れない。

 火葬にだいぶ時間がかかると言うので、深大寺をお参りすることにした。本堂の脇に大きく枝を広げたムクロジの木があった。ここでもまだ実が鈴なりについていて、それが花のように見えた。
 今年はいつまでも暖かくならず、春一番もとうとう吹かなかった。その前に吹かなかったのは平成十二年だそうだが、実はその年の早春に犬は生まれている。吹かない春一番の代わりに私の元にやって来て、吹かない春一番を探してあっと言う間に飛び去ってしまった。

 待合室に戻ると動物の里親探しのイベントがあり、足元の定まらぬ子犬が運びこまれているところだった。片や骨になり、片や生まれたばかり。子犬は十二年前の我が犬の姿であり、年月を経て子犬は同じく白い骨になる。生死一如を目の当たりにして、心細さにそそけだっていた気持ちがかえって落ち着いていくようであった。

 あと二、三カ月したら深大寺のムクロジも本当の花をつける。その頃また行ってみよう。(2012年3月29日)
 

ムクロジ ムクロジ科 温暖な地域に半野生化する落葉高木。6月頃に円錐花序に沢山の花をつける。果皮には多量のサボニンを含み、こすると泡がでて石鹸の代用になる。実は羽子板の羽に使う。

 
 
 
 
     
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