料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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ユスラウメ

 去年の秋、大分の男性に「しばらく花族が書かれていないようだが、どうかしたのか」と訊ねられて吃驚した。今まで読者といえる読者は岡山の教師だけである。それが大分でもと嬉しくなった。男性は自宅のユスラウメにふれ、いつか書いてみたらと勧めてくれた。春になったら花を見てと思っていたが、なかなか探すことができず四月も半ばになった。もうどこにもユスラウメは咲いていない。やっと上野公園の出店で苗木を見つけたが、花は数輪残っているだけであった。ちょうど夜桜の真っ盛り、空の衣装のように染まった桜を背景にユスラウメの白が心細そうに震えていた。写真では枝にびっしりと咲いていたので趣がだいぶ違った。苗木を求めて来年確かめようかとしばらく思案したが、一人で上野からかついで帰るには重すぎるとあきらめた。

  それにしても「ゆすら」とは美しい響きである。赤い実が並ぶ様を首飾りに見立てた名のようだ。ついでに櫻という漢字は現在ではサクラを意味するが元々はユスラウメを指す字であったそうな。
 首飾りといえば、母は高価な真珠の首飾りを大切にしていたが、知らぬ間に安物に代わっていた。質屋通いが途切れない時期があったから、そんな大事なものまで流してしまったのだろう。母の葬儀に私が身につけたのは無論この安物である。

 母が亡くなる前後の数カ月、夫は海外にいた。友人に誘われ、私の反対を押し切ってネパールへ行ったのである。葬儀があまりに寂しいのを気の毒がって、教会のシスターが大勢参列してくれた。
 しばらして夫は帰国し、土産にとサンゴ色のネックレスをくれた。美しい色であったが粒が大きく重いので、バラバラにして文鎮代わりにシスターに使ってもらうことにした。直後、夫が「あれは本物のサンゴだったらしい」と言いだした。返してもらえないだろうかと腕を組む。無理して算段した旅行費をサンゴで穴埋めしたかったようだ。恐る恐るシスターに打診してみると、「そんな高価なものなら頂くいわれもない」と快く返してくれた。が、後にガラス玉であると判明した。私は安易な夫に腹を立ててすべて捨ててしまった。実は夫が首飾りを買ったのは以前にもあって、そちらは人骨を丸く削って繋げたものであった。これには閉口した。首にかけられる類のものではなく、仕舞っておいても落ち着かない。土産用として売る彼の地の神経も理解できなかった。その後、思い切って処分してしまった。葬式に使う古い木製の舟を買ってきたこともある。子供用で小さく装飾も美しかったが、あちこち傷んでいた。夫は使用したものではないと言ったが、私は懐疑的であった。日本でも掘り出した骨壷を茶道具の水指として売る例があるからだ。しばらく山梨の屋根裏で埃をかぶっていたが、近くに引っ越した時、置き場所に困って駐車場に放置した。それを手伝ってくれた主婦が持って帰ってしまった。隣村で毎年開かれる宮沢賢治のイベントに使ったらしい。ほどなくご主人が癌に倒れ、今もまだ闘病中である。舟を燃やすなりしたほうがいいと進言したが、必ず悪いことが起こると考えているわけではない。死とはきっと、それほど意地悪なものではないだろう。まつわる物を手にした時、気味悪く感じるかどうかだ。何も感じなければ何も起こらない、多分。
 とにかく変なものばかり買ってくる、人騒がせで少し罰あたりな夫である。

 ユスラウメは山桃桜と書き梅より桃の仲間に近いようだが、話がとんだところへ飛び梅してしまった。(2012年4月20日)」

ユスラウメ バラ科。中国原産。日本には数百年前に中国から渡来。四月頃開花、6月には赤い実がなる。味はサクランボに似ている。

 
 
 
 
     
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