料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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秋海棠
 今年の山梨は日照り続きで、我が家の小さな畑ではトマト以外全滅に近い。庭でもツツジや山吹、紫式部が枯れる寸前である。こうなるといくら水をやっても効果がない。秋明菊、ダリヤも激減してしまった。残ったものも成長は止まったままである。コスモスの背丈など例年の半分ほど、本数となると十分の一もない。とにかくススキが枯れるほどの日照りなのだから驚く。

  とはいえ、中には元気なものもある。先ず、南京ハゼ。若木でも紅葉を楽しめるからと二本植えたのだが、成長は早すぎるほどだし、花が貧相なわりに実は立派で鈴なりにつく。落ちれば無駄なく芽を出し、根もどんどん伸びて茎をやたらに立てる。日照りもなんのその、他の植物を押しつぶさんばかり。今や憎らしいほどである。
 家の裏側にある秋海棠も元気だ。特に今年は他に抜きんでて丈を伸ばしている。葉など天狗の団扇になるくらい大きい。

 昔、「テング屋」と呼んだ老人がいた。リヤカー付きの自転車で御用聞きにやって来ては、母に仕事を貰っていた。昔はどこでも老人が元気で働いていたが、テング屋もそうだった。この人は口も達者で、大声での早口は時に聞きとれないほどであった。畳などを運んだり入れ替えたりするような仕事をしていた。割れたガラスがあるとリヤカーに積んで帰った。大きな塵が出るとそれも持って帰った。力持ちの上にちょっとした大工仕事なら気さくにやってくれるので母は喜んでいた。床下の掃除なども頼んでいたようである。今でいう便利屋なのだろう。

 テング屋とは、この老人と母とのやり取りの中で聞きかじった言葉である。誰か別の人の話か、あるいは「手ぬぐい屋」の聞き間違えだったかとも思うが、私はテング屋と覚えてしまった。実際、天狗を思わせるような大きな鼻をしていたし、眉毛も長かったような気がする。背は低かったと思うが、手はまた大きかった。この老人が古い子供雑誌や漫画を持ってきてくれるので、テング屋さんは来ないの、来ないの、としつこく訊ねたものだ。そんなに頼むことがないでしょうにと母は笑っていた。

  老人は腰にぶら下げた袋からいろいろなものを出して見せてくれた。金槌や釘はもちろん飴玉や食べかけのお煎餅まであった。私が突っ込んだ小石もずっと入れてあった。私は袋を探っては仕事の邪魔をした。ある時、手招きをするので近づいてみると、庭で捕まえたヤモリを袋の中に入れてしまった。以来私は袋に手を出さなくなった。

 継父が家にべったりいるようになるとテング屋の仕事も減ってしまった。母が留守のときに声をかけても返事をしないので、テング屋もそっと覗いていくようになった。そのうちとうとう来なくなった。継父も器用な人だったが、手に負えないことは専門の職人を呼んできた。そんな時の継父は機嫌が良くて、職人を連れて飲みに行ったりした。

 私は雑誌や漫画を貰う楽しみがなくなった。テング屋の方も仕事の代金はもちろん、お古の背広や手作りのお菓子など貰えなくなって残念だったろう。
母は後年まで「あのお爺さんはどうしたろう。とっくに死んだろうか」と気にしていた。私は「ああ、テング屋」と思いだして、またすぐに忘れてしまった。それを今頃引っ張り出すとは天狗もびっくりの、神出鬼没な記憶力である。(2012年9月14日)

秋海棠 シュウカイドウ科 中国原産の宿根草。地下茎は塊茎。高さは50〜60pになり雌雄同株。葉は先のとがった卵状心臓形で互生。

 

 
 
 
 
     
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