料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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ジュズサンゴ
 二年目になる鉢植えのジュズサンゴが六月から途切れることなく花を咲かせている。小さな花はほどなく青い実となり、それがまたすぐ赤くなる。つまり、白い花と緑の実、赤い実を一時に楽しめるのだ。実はパラパラと落ちるが、どれかが必ず生き残る。我が家の株もエアコン室外機の裏の実生を頂いたものだ。横に枝を伸ばすので鉢植え向きだが地植えにすれば一メートル以上になる、とどこかに書いてあった。寒さには弱いらしいので山梨で育つかどうか。とりあえず小枝を備前の徳利に挿して楽しんでいる 

 この徳利を含めて小さな花生けをいくつか持っているが、そのほとんどがムウさんの作品である。彼は趣味の陶芸で毎年茶会を開けるほど多作であった。風炉釜から香合に至るまで総て自分で焼くのである。使用した器は後日格安に買うことができた。ちょうどお茶を教えていた頃だったので、いくらでも茶道具が入用であった。欠かさず出向くのでムウさんとも懇意になり、生徒をお運びとして手伝わせたこともある。

 N子さんに会ったのもムウさんのお茶会だった。背の高い物静かな人だった。やはり陶芸をしていた。
 ある時受付に大きな焼き物鉢があったので訊ねると、それはN子さんの作品であった。秋の花々を入れていたが、内側が青釉だったので花の色が映えて美しかった。褒めると失敗作だと言う。底の方に小さなヒビ割れがあったらしい。気にならないからと譲り受け、翌週にはわが玄関先に置かれたのである。以来、随分長い間楽しませてもらった。葉や花を入れたり、水だけで柄杓を飾ったり。

 N子さんは私の顔見知りの男性と不倫関係にあった。男性は彼女の雇い主でもあった。私はこの二人の仕事上の繋がりをまるで知らなかった。夫に呼ばれて出掛けて行くと男性とN子さんが並んでいた。四人で散々飲んだらしく、気がつくと明るくなり始めた公園のベンチで皆ぐったりとしていた。
 お酒を飲めば生理現象は当然のことである。N子さんと連れだってトイレへ行ったのだが、二人とも手荷物を失くしていた。私など帽子まで無かった。惜しい物などなかったが、中には必要なものもある。トイレにはその必要なものが設置されていなかった。N子さんが「平気、平気」と扉を開けた。私も「参った、参った」と隣に入った。外へ出ると二人で伸びをした。勝手が違って気分が悪かろうと思ったが意外に爽やかだったのである。なるほどこれなら今でも田舎のあぜ道で用を足す老女を見かけるのも頷けると思った。
「どうせなら外の方が良かった」とN子さんが言った。「じゃあ、あたしはあの池の中かな」と受けた。水上スキーの選手をしていた頃、練習場所の江戸川で切羽詰まって失敬したことがあると打ち明けた。大笑いで戻ると、男性二人が眩しそうな目で私たちを見た。

  それからしばらくしてN子さんは男性と別れた。
男性の方にはたまに会う機会があるが、彼女の消息はわからない。陶芸を続けているだろうか。

 今でもふと思う。N子さんが別れる決心をしたのはあの朝ではなかったかと。トイレから出て青釉のような空を見た時、何か吹っ切れたのではないかと。(2012年10月15日)

ジュズサンゴ ヤマゴボウ科 北アメリカ南部、南アメリカ北部原産の多年草。古株は基部が木質化する。大正初年に渡来。

 
 
 
 
     
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