料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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カラー
 花屋の店先に立派なカラーの鉢が飾られていた。花の色は黒っぽい赤紫。昨今は黒っぽい花が増えた。コスモス、ダリア、チューリップ、どれも黒が流行のようだ。花のサイズも考えられないほど大きなものがある。ヒマワリのように巨大なダリアを見て仰天したことがある。花びらが風に煽られているような動きがあって、こちらの心まで落ち着かない。それらの花は見栄えも良いが値段もよい。カラーの鉢もかなり高額であった。

我が家のカラーは貰い物である。畑の隅に植えて十年近くなるが。条件が悪いのかあまり増えてくれない。七月頃、チンチクリンの柄に貧相な白い花をつける。小さなコップに数本飾って終りである。今ごろ緑の葉を見せるはずだが、居座る寒さのせいか一向音沙汰がない。冬にイノシシの害で畑も庭も穴だらけだから、カラーの球根も食べられてしまったのかもしれない。今回のような被害は初めてである。飼い犬がいなくなったことも大きいかもしれない。

カラーをくれたのはK子さんである。お茶の師匠であり、草月の作家でもある。芸術家との交流が多く、陶芸家や華道家を自宅に招いては会をする。私も末席に座らせてもらったことがある。その時は華道の鬼才、中川幸雄さんが主賓であった。中川先生の書を、くじ引きでお客に配るという趣向だった。大きな和紙に「雪」と書かれた一枚を望んだが外れてしまった。残念賞は先生の作品集だった。ページを開くと川に横たわる巨大な鯉のぼりが目に飛び込んできた。空を泳ぐ鯉のぼりを遠い記憶の流れに放つとは、美しくも悲しい表現であった。水に咲く死んだ花・・そう、オフィリアのようではないか。そんなことをお話できたらと思っている間に先生は亡くなられてしまった。

私の茶会を雑誌で取材してもらった折にはK子さんに正客を務めてもらった。次客はシェークスピアの翻訳家であった。そのときも悲しきオフィーリアがいた。姿の美しかった我が家の雌犬である。その朝死んでしまって、階下に死体を置いての茶会であった。撮影が終るとカメラマンが車に犬の死体を乗せるのを手伝ってくれた。忘れられない一日である。それからもう十五年も経つ。
同じ頃、「茶語り」をはじめたので、K子さんの茶室で「仇討浪人」をやらせてもらった。後日の「葵」の折はK子さんのお道具を使わせてもらった。K子さんのお弟子さんたちも集まってくれた。終わってからも、次はここに御簾を垂らしてとか、あの花器にこんな花を盛ってとか、草月の作家らしい斬新なアイデアが出てくるのが嬉しかった。

一昨年の東日本大震災でK子さんの家が傾いてしまった。液状化現象である。ニュースで知り驚いて電話をしたら、やはり元気がなかった。山梨の家を使ってもらおうと思ったが、関西にマンションがあるのでそちらへ避難しているとのことだった。大変なときに電話をしてしまって申しわけなかった。電話の背後に聞こえる御主人の声も心なし重いようだった。
しばらくすると年賀状の数を減らすことにしたと葉書がきた。彼女も高齢である。そろそろ軽いお付き合いは止めにしたいという思いはよく理解できる。そのようになさってくださいとお返事をした。
あれから二年、傾いた家の修復、不動産屋や自治体との交渉、沢山の事がまだK子さんを悩ませているに違いない。
そういえばソラという名の美しい猫がいたはずだが、元気にしているだろうか?(2013年4月30日)

カラー サトイモ科 多年草 5〜6月、10月に開花。乾燥を嫌い、湿り気のある土壌を好む。代表的な品種にオランダ海芋がある。

 
 
 
 
     
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