料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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ヒヨドリジョウゴ
 

 

 大きな花には情熱と悲哀があるが、小さな花には愛らしさがある。
 ヒヨドリジョウゴなど、まさにその愛らしさの典型ではないだろうか。直径1.5センチほどの白っぽい花だが、花びらが華奢に後ろへ反り返っている。中央に黄色い花粉の筒があり、そこから雌しべが突き出て、まるで小さなバレリーナか、羽をたたんで突き進む小鳥のようだ。隣にはまだふっくらとした蕾がある。緑の果実もある。現在過去未来が出揃っているようで見飽きない。 
  果実がそろって赤く色づくのはだいぶ向こう、11月ごろであろうか。藪の中などで目立たなかった花も、一旦色づけばその数の多さで人目を惹く。
 

 一度この実を茶席に使ったことがある。当時、私は「三姉妹の会」という茶の会を主催していた。メンバーは私の他に女性が二人。彼らは本当の姉妹で、姉はシェークスピアの権威で大学教授、妹は出版会にあってセンスの良さで時代をリードしてきた人。この才媛姉妹に、出来損ないの私が妹として名を連ねることになったのは、まことに面白い展開であった。
  三姉妹とはマクベスの「三魔女」のことである。 
 

 会は我が陋屋で行われ、毎月それなりのテーマで道具組みをしたわけだが、その月はちょうど姉の翻訳したマクベスが上演されたとあって、マクベスを茶で表現しようと思い立った。しかし少ない道具での演出には限りがある。初座には「賊知賊」かなにか掛けたのだろう、よく覚えていない。香合にどこかの王女を描いたのがあったのでレディマクベスとして登場させ、あとは三人の魔女がいるだけである。
  どこで演劇性を出したらいいのか迷った末、はたとヒヨドリジョウゴの真っ赤なかたまりを思いだした。

 早速、山梨の裏山からひとかかえの枯れ蔓を持ち帰り、後座の床の間に茫々と置き、私の荒野は完成したのであった。これは思った以上に好評で、二人の魔女は果実の圧倒的な存在感の前でしばらく言葉を失っていた。
 そしてそれが、私の月釜の最後となった。
  更年期の欝症状が出てすべてのことが億劫になってしまったからだ。

 あれから五年、私の欝はまだ完治しないが、ひょっとしてこれは花の可憐さを裏切るあの真っ赤な実の、毒が染み込んでいるからかもしれない。

 いま私は一人魔女となって暗い荒野を当ても無く歩いている。(2003年8月31日)

ヒヨドリジョウゴ  ナス科 つる性多年草。ヒヨドリが好んで実を食べるというので名付けられた。

 


 

 
 
 
     
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