料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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唐松

 紅葉が美しい季節である。
山中湖に別荘を持つ人が唐松は始末に悪いと嘆いていた。落ち葉が積もって屋根をダメにするそうだ。雨樋がある家は腐らない葉が水を溜め、更に深刻な被害になるとか。
 
 唐松の黄葉は静謐感があっていい。元々樹形が整然としている上に、葉も細く繊細だからだろう。そこへいくと楓科の葉は形が愛らしく色も鮮やかで、唐松にくらべればずっと饒舌である。山梨の我が家のまわりは唐松も楓も無い。ナラやクヌギの茶系統ばかりである。庭に赤く発色するモミジを一本植えたが、五年ほど頑張って私の背丈より大きくなったものの、秋の色づきが少しも良くならない。果ては葉が枝にしがみついたまま縮れてしまう。それも今年の猛暑でとうとう木自体が枯れてしまった。

 蓼科には主人の山仲間たちが作った山小屋がある。周辺には白樺、唐松、楓まで様々な木があり、秋の美しさは見事である。秋に限らず新緑の春、花々咲き乱れる夏、いつでも素晴らしいから若い頃は皆せっせと通ったものである。しかし我が家のように妻がくっついていくのは稀で、山男だけで山に登り自炊し、というのが醍醐味だったようだ。主人が運転できれば私とて無用だったろう。こちらも居心地がさほど良いわけではない。
 奥さんではなく、行きつけの飲み屋の女性を同伴する男性もいた。山登りにも飽き、カラオケセットが持ちこまれるようになれば、女性の歌声も確かに必要になる。
 主人の親友に若い女性を連れて来る人がいて、さすがに山小屋には泊らずにホテルを利用していた。私たちと四人でコ洒落たプチホテルに泊まったこともある。腕の良いフレンチのシェフが経営していた。最初に見つけたのは私たちで、何度か利用し、母まで連れて行った。紹介した親友も常連になったようだった。 
 若い女性連れを私は案じていたが、親友の奥さんは出来た人だったから夫の行動に動じなかったようだ。地方の素封家の奥方にはよくそういう度量が認められる。親友も常に妻を立て、素封家独特の配慮もしていたようだ。地位を守られ生涯を保障された上でのお遊びは妻にとって想定内ということか。

 その親友が急逝してしまった。昔から手広く事業を展開していた家だったが、経営はだいぶ悪化していたようだった。慌てた奥さんが急遽上京した。仲間の一人が相談に乗り、主人も心配していたが、やがてすべての清算を終えてみると、私たちなど一生かかっても稼げないような金額が残ったという。事業が行き詰っていても不動産などが膨大にあったのだろう。「主人に感謝している」と言った奥さんの安堵の顔が印象的だった。凜気も起こさず夫を支えた妻なのだから、当然といえば当然の結果である。

 近頃夫婦ということを考える。当たり前のようだが、夫婦は家族である。つまり男と女ではない。結婚して数年は交際時の感情が残っているだろうが、その後は家族としての共感で繋がっているのではないか。親や兄弟たちとの間柄と近くなる。何か事が起これば団結して闘うが、恋愛感情はもう無い。寝相から食事の仕方、意見や趣味まで、ことごとく違うのである。いつまでも甘い夢を見ていられるわけがない。親友の奥さんはその辺をよくわきまえていたのだろう。唐松の立ち姿に迷いを払拭した女性の立ち姿が重なる。(2013年11月20日)

唐松 マツ科 日本固有種。日本の針葉樹の中で唯一、落葉する。

 
 
 
 
     
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