料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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 月見草
 

 

 月見草と月ちゃんには何の関連もない。強いて言えば、はかない風情が共通しているということだろう。
 月ちゃんとの交流は一年にも満たなかった。第一、話したことさえなかった。それでもこんなに鮮明に一つ一つの場面を思い出せるのは、ひとえにそのはかなさと、あのお尻のせいなのだ。
 

 その頃私は都電に乗って大手町にあるモダンバレーの教室に通いはじめていて、その小学生のクラスに月ちゃんはいた。最上級生であったか。私は三つほど下だった。月ちゃんは身体が目立って大きく、胸もずいぶんふくらんでいて、私から見るとまるで大人だった。
 月ちゃんも同じ都電で通っていた。振り向くと、薄暗い中にぽうと白い月ちゃんの顔があった。そばへ行くべきか迷っている間に、月ちゃんはその整った顔を闇の迫った窓外に向けてしまう。結局私は運転席のそばから動けないのだった。
 

 秋の発表会になった。「独楽の舞」という演目で私も群舞の一員となった。入って間もなかったから大抜擢といってもよかった。月ちゃんは当然のようにソロの部分を受け持った。
 衣装合わせの日、本番さながらの化粧をした私と月ちゃんに「あなたたち、姉妹みたいねえ」と先生が言った。普段はのっぺりしている私の顔は化粧栄えがしたのである。
 

 やがて発表会も終わり、写真ができてきた。ひときわ大きな一枚に、両手を広げ身体を低く斜めにした私がいた。後ろには月ちゃんが胸をはり片足を上げて完璧なアラベスクを作っていた。私の衣装はブルー、月ちゃんのはオレンジである。

 ある日、音楽に合わせて好きに踊り、突然動きを止めるという練習があった。「さあ、もっと部屋全体をつかって。アンドゥ、アンドゥ」私はターンを繰り返していた。「はいっ」掛け声とともに音楽がピタッと止まる。私は目の回りそうなまま床にすべりこんだ。「そのまま、そのまま、動いちゃいけませんよ」
 ふと見上げると、片足を上に畳んで鶴のようなポーズをとった月ちゃんがいた。バレー着の中からゴムの伸びたパンツが見えた。そんなパンツをはいている不思議さよりも、つるんとはみだしたお尻の方が気になった。白くてまん丸で本当につるんとしたお尻だった。私はねじれたポーズにたえながら、いつまでも月ちゃんのパンツの中を見つめていた。
 

 めずらしく月ちゃんが遅刻した。四角い顔のお父さんと一緒だった。
「月子さんは遠くへ行かねばなりません」
  先生が残念そうに言った。月ちゃんはずっと下を向いていた。仲間がかけ寄ったが、私はその場につっ立ったまま、とうとう「さよなら」も言えなかった。
 月ちゃんは私のかぐや姫だった。 (9月20日)

 

ツキミソウ  アカバナ科 マツヨイグサ。夕方から花が咲き翌朝しぼんで淡紅色になる。今はあまり見られない。オオマツヨイグサやメマツヨイグサとは原産地や生態が微妙に違う。


 

 
 
 
     
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