料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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 葉牡丹
 

 

 正月になると葉牡丹を玄関に飾るお宅も多い。この葉牡丹を食べた人がいる。その人とは着物を着た白髪の老婆で、私の義理の祖母である。
 

 祖母に会ったのはその時が初めてであり、最後であった。私は高校の二年になっていた。
  継父が家を出て母子家庭になったわが家は、当然のように生活が苦しくなっていた。ある時まとまったお金が必要になって、私が叔父の家へ借金のお願いに行ったのである。母は駆け落ちなどしたため実家の敷居が高くなっていたし、一度は私にその実家を見せたいという思いもあったらしい。他者とコミュニケーションがとれず引きこもりがちだった私がよく一人で行ったものだと思うが、裕福な親戚という言葉に惹かれたのかもしれない。母に限らず私自身、経済の逼迫に少し疲れていたから。

 大きくて暗い家だった。玄関を開けると見事な葉牡丹が正面に飾られていた。あらかじめ連絡はしてもらっていたはずだが、気後れがしてなかなか声をかけられなかった。
  そこへ一人の老婆が現れ、やおら葉牡丹をムシャムシャと食べはじめたのだ。呆気に取られている私の横を血相を変えた女性が走り抜けて老婆を奥へ追い立てた。叔母であった。
  叔母は何も説明しなかったが、老婆を追い立てた先が座敷牢のようになっていたことや、尋常でないその行為を見れば精神に異常をきたしていることは誰にでもわかる。
 

 食事は老婆だけどんぶり鉢だった。普段は家族と一緒に食事はしていないようだった。山盛りのご飯をまるで一呑みのように平らげると、あとはそこらの物を手当たり次第口につっこんだ。紙やらビニールやら、時にはビー玉まで。
 紙といえば、新聞紙でつくったお札を帯の間にいれていて、時々唾をつけて数えていた。畳の下にもぎっしりと溜め込んでいた。なぜか私になついて、畳を上げて新聞紙の札束を見せるのである。
 

 祖母は強欲の人であった。血のつながらない私の母を政略結婚させて家から出し、財産は夫の生存中にほとんど自分とその息子たちの名義にした。
 それが今、邪険にした人の娘を慕ってついて歩く。人間とは、小さな円の中を終生グルグルと回る動物なのかもしれない。やり過ごしたと思っても、いつの日かまた同じ所を走っている。ハツカネズミの回す車輪のように。
 

 結局、私は使いを十分に果たせず家へ戻った。施された僅かなお金は生活費として瞬く間に消えた。
 脳以外は健康そのものに見えた祖母は、その後すぐ餓死のようにして亡くなった。(2004年1月5日)

 

葉牡丹  欧州原産のアブラナ科の植物。江戸時代に渡来する。紅紫色系と白色系があり。縮緬ハボタン(名古屋葉牡丹)と丸葉ハボタン(東京葉牡丹)に大別される。
 


 

 
 
 
     
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