料理とワインの店:BISTRO KRI-KRI  
   

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コブシ
 

 

 コブシの季節である。あの白い色を見ると母のハンカチを思い出す。いつも手に握られていたハンカチは、終いには形を失って開ききったコブシの花そっくりだった。
  ハンカチだけなく、マフラーの色も同じ色が多かった。とにかく白が好きな人だった。またよく似合ってもいた。
 

 中学へ入った年の運動会のこと。母は黒いスーツに淡いピンクの小帽子で現れた。首には例の白いマフラーである。ことにこの日マフラーは丈が長くて目だった。
 父兄席に歌舞伎の名優、先代の市川團十郎がいた。母の興奮いかばかり。大の歌舞伎ファンであり、特に團十郎には目がなくて「團さま」「團さま」と日々かまびすしかったのだから。昨今「ベッカムさま」なんて聞くと母の口癖を思い出して可笑しくなる。
 

 その團さまは渋い背広にソフト帽、カメラを首からぶらさげていた。腰をいくぶん前につきだしそこへカメラをのせてシャッターを押すのである。歌舞伎に興味のない中学生の私は、シミだらけの笑顔と腹の上のカメラのどこがいいのだろうと思っていた。舞台栄えのする團十郎の、素晴らしい芸に触れたのはしばらく後のことである。
 

 フォークダンスの時間になると、数人のお母さんたちがサインを貰いに走って行った。色紙やら持ち合わせのない母は「マフラーじゃ失礼かしら」と迷っていた。結局サインを貰えたのかどうか。ただ、少女のように紅潮した面差しだけが記憶に残っている。
 
・・・・・・・・・・・・・

 オクラホマミクサが続いている。チャラチャラチャラチャラチャッチャッチャ・・。 つと母が白いマフラーをひるがえして團さまに近寄っていく。
「あの、しょっちゅう拝見してるんであぁんすよ」
 得意のざあます言葉で話しかける。團さまは「それは、それは」とでも答えたか。まさか「どーも、どーも」とは言うまい。
「なんでごぁますねえ、團さまの助六はやはり、よろしゅうあぁますわねえ」
 早口の母は「ございます」というのが、こんな風に聞こえるのであった。「ございます」とはっきり言うのは下品だと言っていた。
「よろしかったら一曲いかがざます?」
「ほほう、フォークダンスねえ」
「よろしいじゃごぁませんか。あたくしがお手を引いて差し上げますわ」
「それは恐縮ですなあ、あなたのようなお美しいご婦人に」
「ま、お上手ですこと。ささ、さ」
 チャラチャラチャラチャラチャッチャッチャ・・。
 実はこれは、母に捧げる想像のオクラホマミクサなのである。この二人のダンスは天国でしか見られない。(2004年2月29日)
  

 
コブシ モクレン科。落葉高木で樹皮は灰色、割れ目はできない。コブシとは拳の意。材は床柱や器具の材料に使われる。
 
 
 
     
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